6.エレベーター
爆破で崩れた工場に人が集まり始めたので、スリィとブルームは早々にその場を立ち去った。
町に戻ることもできず、仕方がないので二人はスリィがミシェルと初めてあった最初の爆破現場に向かったのだった。
すでに人影はなく、辺りは閑散としているようだった。
人工生命体の破片もキレイになくなっており、手がかりなるようなものは何もないように見えた。
「どうしようもなくなっちゃったね。サニーの気配もない?」
「ない…ことはない。」
ブルームは爆破現場の隅に行くと、何かを拾った。
スリィの方に振り返ったとき、手のひらに何かを乗せているようだったが、スリィには何も見えなかった。
「何?」
「サニーの羽根が落ちてる。たぶん、これが彼の居場所を教えてくれるはず。」
「あたしには何にも見えないんですけど…信じて良いの?大丈夫?」
スリィはちょっと不思議そうに首をかしげた。
「天使の力っていろいろあるみたいだけど、何か一部の人しか見えないって違和感あるわ。」
「まぁまぁ、付いてきたらわかるよ。」
ブルームの手のひらに乗っていた羽根がふわりと浮き上がり、風に乗っているかのように移動し始めた。
「見失いそうだな、行くよ。」
「う〜ん…は〜い。」
ちょっとスリィは納得いかないようだったが、他に何もしようがないので、付いていくことにした。
羽根はふわりふわりと進んでいく。
途中でふと、ブルームが立ち止まる。
「スリィさぁ……。」
「何?」
「黙って付いてくるのは全然よいけど、その危ない人を見てるような訝しげな表情はやめていただけないでしょうかぁ?」
「あ、ごめん。自然とそんな表情になっちゃって♪」
「……ひどい。」
ブルームは再び歩き出す。
スリィもごめんごめんと彼の後ろに続いたのだった。
やがて羽根はブルームがかつて来たことのある場所にやってきた。
それは人工生命体に狙われていたオスカーがオーナーの高級ホテルだった。
「ここは……。」
「ずいぶん高そうなホテルじゃない?こんなところにサニーがいてくつろいでいたらあたし怒るわよ。」
「……(死んでもナーレスと二人でここに泊まってたなんて言えない)」
羽根はホテルの前まで来てふわりと上昇し、ホテルの窓の中へ消えていった。
「やっぱり中に入らないとわからないみたいね。」
「入って良いのかな?」
「たぶん、大丈夫だと思うけど……。」
二人は恐る恐るホテルの中に入る。
ごく普通の少年とメイドさんという異色の組み合わせは少なからず違和感があったが、それでも周りのお客は二人には無関心だった。
二人はとりあえずフロントで作り物の笑顔を張り付かせている女性にナーレスかサニーらしき人物が宿泊していないかどうかを確認した。
「その方は恐らくオーナーのお客様だと思われます。あちらのエレベーターの最上階にどうぞ。」
女性はそれだけ告げると、それ以上話しかけるな、と言っているような笑顔を向けて一礼した。
「罠のにおいがするな。」
「でも行くしかないでしょ?ナーレスがいれば大丈夫だと思うわ。」
「いなかったら?」
「助けを、待つ!!」
スリィの潔い発言にブルームはため息をついたが、仕方ない、と一緒にエレベーターに向かった。
「俺も行こう。」
「!!お前は?!」
ブルームの横にあの人工生命体が立っていた。
フードを深めにかぶり、その表情は見えなかった。
「お前無事だったんだな?」
「ああ。」
エレベーターの扉が開いた。
最初にスリィがエレベーターの中に入った。
続いてブルームが入ろうとしたとき、ホテルのロビーに走ってくる人影が見え、ブルームはそちらを見て思わず足を止めた。
その人物は自分達の横にいた人工生命体と同じ姿をした人物だった。
「それは俺じゃない!!乗ってはいけない!!!」
人工生命体が叫ぶと同時にエレベーターのドアは閉まった。
中にはスリィと、もう一体の人工生命体が乗っている。
「しまった!!」
ブルームは慌ててエレベーターのボタンを押したが、無情にもエレベーターは動き出した。
「くそっ!」
「まだ間に合う!!」
「え?」
人工生命体はすぐ横のエレベーターにブルームを乗せた。
すぐに扉をしめ、ボタンのいくつかを連続して押した。
彼をよくよく見ると確かに服はボロボロで髪もぼさぼさ、顔も黒いすすがたくさん付いていて、このホテルにはまったく合っていなかった。
彼は間違いなくあの廃工場で一緒にいた人工生命体だった。
「最上階について扉が開く瞬間が一番危ない。用心しろ。」
「わかっている。でもあのスリィと一緒にいたのは?」
「俺の兄弟だ。彼女が無事だったらよいのだが。」
「大丈夫だと思うよ。あの子、逃げの天才だからね。」
「そうだけど、さすがに密室はちと無理があるっちゅ〜の!!」
その頃もう一方のエレベーターでスリィは必死に人工生命体から逃げていたが、やはりせまいエレベーターの中では限界があり、すでに人工生命体から攻撃を受け、気を失っていたのだった。
ブルームを乗せたエレベーターが最上階に到着した。
エレベーターの扉が開くと同時に、人工生命体が飛び出した。
その様子を見て、ブルームも警戒しながらエレベーターを降りた。
「ようこそ、最上階へ。」
そんな二人をあざ笑うかのように、ミシェルは広い部屋の一家にある高そうなソファに座ってワイングラスを回していた。
「お前が黒幕のミシェルか?」
「どうも初めまして。まぁ、残念ながら君のような品のない少年とお友達にはなりたくないな。彼女ひとりで十分だよ。」
「!」
ミシェルの影に隠れるようにスリィがソファに寝かされていた。
いつものメイド服は脱がされ、薄い下着姿だった。
「この変態!!スリィから離れろ!!お前はエロジジイかよ!」
「君のような幼稚なお子様にはまだ早いかな。楽しみを邪魔しないでくれたまえ。」
ブルームの前に人工生命体が立ちはだかった。
「ここは俺が相手する。」
「2号、でもボロボロじゃないか。」
「彼女を助けろ。」
2体の人工生命体は短刀を抜き、同じタイミングで攻撃を始めた。
その動きは精巧で一分の狂いなく、まったく同じような動きをしている。
しかし、ほんの少しだけ2号の動きがにぶいことがブルームから見てもわかった。
ブルームは急いでふろころからフォークを取り出したが、動くことが出来なかった。
スリィの白い首にナイフが当てられている。
「そのフォークを少しでもこっちに投げようとしたら彼女の首に刺しちゃうよ。」
「……変態にもほどがあるぜ。」
「ふふっ、じゃあ続きを楽しませてもらうとしようか。」
「ひぃっ!」
ミシェルがスリィの最後の下着を取ろうとし、ブルームは思わず目を多いそうになったがふと大きな黒い影が床に広がっていることに気づき、窓を見た。
窓には大きな黒い翼が見え、そして小さな白い翼が窓を突き破り、ミシェルの脳天目指して飛んできた。
「うさぎキィーック!!!!」
「ぶわはぁっ!!!」
ステアのキックがミシェルの後頭部にヒットし、白目をむいてミシェルは倒れた。
その間にナーレスがスリィと抱え、ブルームたちの方に降りてきた。
「お待たせしたね。ちょっとサニーを探すのに苦労したんだ。」
「ごめんよ、爆発でパニックになっていたんだ。」
と、口の開いたのはステアだった。
見るとステアの背中にちょこんとかわいい白い羽根がついている。
「サニー?」
「うん♪」
「さて、お二人感動の再会は後にして、とっととこの状況を片付けませんか。」
ナーレスの言葉にブルームは周りを見渡す。
未だぎりぎりで戦っている人工生命体と、頭を抑えて立ち上がるミシェル。
そう、まだ終わったわけではない。
「全員集合したところで、お片づけと行きますか!!」