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5.失敗作

人には殺意がある。

他人からの言葉や行動で殺意を覚え、相手に対して「死ね」とか「殺してやる」といった物騒な感情が一時的に現れるものだ。

それが一時的でなく常に思うようになると、ついに人は行動に出る。

しかし「殺人」が立派な犯罪であり、罪を犯すことになる。

そうなると、その後の人生は決して楽しいものではない。

ただの苦痛でしかない人生を歩みたくはないものである。

ならば、どうすればいいのか?

自分の手を汚さないようにすればいい。

だから、彼はその役目を人工生命体(アンドロイド)に負わせることにした。

溢れるほどの殺気とわずかな感情を持たされた生まれた人工生命体(アンドロイド)は、今日もまた誰かを狙う。


「犯人はオスカーを狙っているのは確かだけれど、でも何故彼は狙われなくてはならないのか?」

宿泊している宿屋の近くにある小さな酒場でブルームとスリィは大量の料理を目の前に、忙しくフォークと口を動かしていた。

「そりゃあ、オスカーに恨みがあったから?」

「どんな恨み?」

「そうだなぁ、例えばオスカーに何か弱みを握られていて、ばらされたくなかったら大人しく言うことを聞いてもらおうか、とか。」

「ありきたり。」

「じゃあ、スリィはありきたりじゃない考えがあるのかよ?」

ブルームの問にスリィはナポリタンパスタをフォークにくるくると巻きつけて、それを彼にびしっと突きつけた。

「小さい頃から愛を誓い合った幼馴染の恋人を寝取られた。」

「昼ドラの見すぎだよ。しかも寝取られたって…。」

ブルームのため息にスリィは特に何も返さず、フォークを口に運んだ。

「わざわざ人工生命体に自爆装置までつけて、相手を殺そうとするんだぜ。しかも邪魔する奴にも容赦なし。どんだけ、相手が憎いんだか。」

ブルームがステーキを口いっぱいほおばりながら腕を組んだ。

スリィはテーブルにひじをつき、サラダのトマトをフォークで転がしながら考えた。

「……何が何でも相手を殺してしまいたいって思う気持ちってどんなときに湧くのかな?ブルームはそんな殺気を自分に感じたことってある?」

「え?」

ブルームは思わずフォークの手を止めて、スリィを見た。

どこか回答に困り、ブルームの視線は泳いだ。

「俺は……あ!」

「?どうしたの?」

ブルームが何事か言おうとしたとき、彼は何気に向けた視線の先に釘付けになった。

スリィが彼の視線を追うと、酒場の外に一人、二人に視線を向けている人物がいた。

東洋の服装をしていて、顔はフードで隠されていて見えない。

三人はほんの少しの間、お互いを見合っていたがやがてフードの男がその場を去ろうと動き始めた。

ブルームが勢いよく席を立った。

「ちょっ、待ってよ!!」

スリィが慌ててお金を机の上に置き、遅れて後に続いた。

ブルームが外に飛び出すと、その人物は少し先にたって、ブルームたちが出てくるのを待っていた。

そして、彼らの姿を確認するとまた歩き始めた。

「あれ、誰なの?知り合い?」

「ありえないけれど、自爆した人工生命体にそっくりだ。サニーたちの手がかりになるかもしれないから、俺はあとを追う!」

そういって、ブルームは彼のあとを追った。

スリィはちょっと、迷っているようだったが一つため息をつくと、ブルームのあとを追った。


人工生命体を追っていくと、町外れにある廃墟となっている建物に着いた。

人工生命体はその中に入って行った。

「ちょっと、危ない感じだけど大丈夫ですかね?」

「大丈夫……だと思う。」

「その根拠は???」

「……殺気がないんだ。」

「へ?」

「自爆する直前、そいつからは恐ろしい殺気を感じたんだけど、こいつにはまったくそれを感じないんだ。」

「それって、当てになるんですか〜?」

「それを信じるしかない。」

ブルームはそう言って建物の中に入っていった。

「『それを信じるしかない』って、なぁに格好つけてるんだか。」

スリィもそうぶつぶつ言いながらも、彼の後を付いて行った。

廃墟は工場のようだった。

広い空間が広がっていて、人工生命体はその真ん中でブルームを待っていた。

二人が入ってきたのを確認すると、彼はふわりとフードを取った。

抹茶色の髪のおかっぱ頭にと黒い瞳の青年だった。

「話したいことがある。」

彼は静かにそう言った。

「話を聞いたあと自爆するのはなしだぜ?」

「俺にはしなければならないことがある。だから、まだ自爆するわけにはいかない。」

人工生命体はまっすぐにブルームに視線を向けた。

ブルームはその視線を真っ向から受け止めていた。

ブルームの少し後ろでスリィが息を呑んで、二人を見守っていた。

やがてブルームは腕を組み、小さくため息をついた。

「じゃあ、その話とやらを聞こう。少しでもやばそうだったら……。」

ブルームはどこからか、さっき酒場で使っていたフォークを取り出し、人工生命体に突き出した。

「お前を攻撃させてもらう。」

「先生!全然迫力ありませ〜ん。」

スリィがそう突っ込むと彼は、そのフォークを人工生命体に向かって投げた。

すると、フォークは人工生命体の髪の毛をわずかにかすり、後ろの鉄の板に刺さっていた。

「い?!」

スリィが驚いていると、ブルームは得意げな顔を彼女に向けた。

「このブルーム様の得意なことはその場にあるものを何でも武器に使えることなんだぜ。

サニーの天使様の力で、あんな堅い鉄の板にもフォークをつきたてるよいうような、常人ではありえないこともできる。そしてここは廃工場でそういった武器になりそうなものがたくさんある。」

ニッと笑い、彼は人工生命体に振り返った。

「お前が自爆しても、ここにあるもので、被害を最小に食い止められる自身があるから、変な気は起こさないことだ。」

ブルームの言葉に人工生命体は頷いた。

「さて、理解しあえたところで話を聞こうじゃないか。」

ブルームはその辺にあった錆びたパイプ椅子に座った。

スリィはまだ警戒しているようで、ブルームの後ろにおずおずと立っている。

人工生命体は両手を胸の前で合わせ、ブルームに深々と頭を下げた。

「お願いだ。俺の兄弟を倒して、マスターを止めてくれ。」

「へ?」

ブルームとスリィは人工生命体の行動に、あっけにとられている。

人工生命体は言葉を続けた。

「俺はマスターに造られた人工生命体シリーズの2号機だ。

1号機は先日ホテルの路地裏で自爆した奴だ。その前の晩にお前の仲間と剣を交えたのが俺だ。

そして、現在1号機を修復した3号機が完成しようとしている。

そいつは、また同じような人殺しを繰り返すようにプログラムされている。

それを止めてほしい。」

「……仲間割れなの?」

「違う。俺はマスターを心から慕っている。だから助けたいんだ。

こんなことで身の破滅を招いてほしくない。」

表情も声色に何一つ変わらないのに、その口から発せられる人工生命体の台詞はとても人工的と思えないほど感情が溢れていた。

そのことにブルームもスリィもただ、驚いていた。

「お前、本当に人工生命体なのかよ?」

「そうだ。何故、そんなことを聞く?」

「人工生命体ってもっと無感情で何事にも動揺しないと思っていたわ。でも君は何か必死で焦っているように感じるわ。大丈夫???」

「……それは、俺が失敗作だからだろう。」

人工生命体は懐から短刀を抜いた。

そして、次の瞬間ブルームに向かって攻撃をしてきた。

「ひっ!」

がばっと身を縮めるスリィに対し、ブルームはそのまま動かなかった。

スリィがそっとブルームのほうを見ると、人工生命体がブルームに剣を向けて固まっている。

そんな彼をブルームはまっすぐに見つめていた。

「どうした?やれよ。」

「……できないんだ。」

人工生命体は剣をしまった。

スリィも恐る恐る立ち上がる。

「俺には殺意というものを持てないんだ。だから前のときも直前で躊躇してお前の仲間に止められた。」

「それで失敗作なのか?」

「そうだ。マスターに言わせれば何もできないただのガラクタだ。」

「何も出来ない上に、そのマスターの行動の邪魔をするのか?」

「人殺しは悪だ。それ続けさせたくない。そんなことで身の破滅を招いてほしくない。俺はマスターに幸せになってもらいたいだけだ。」

この人工生命体は純粋無垢だった。

正しいことは善、間違っていることは悪。

それが当たり前だと信じている。

まるで生まれたばかりの何も知らない赤子のような、清い感情を持っていた。

そんな彼のまっすぐな感情にブルームはため息をついて、立ち上がった。

「2号、お前の考えは何も間違ってはいないよ。でもな、たとえ悪の行いでもどうしてもやらなきゃならないこともあるんだ。」

「?」

人工生命体はきょとんとした顔でブルームを見た。

ブルームは苦笑いで返す。

「そのうちわかる。」

スリィが二人から視線をそらして、顔を伏せた。

スリィもブルームの言葉が痛いほどよくわかっていた。

人は己のため、または誰かのために過ちとわかっていても、それを選択しなければならないことがあるのだ、と。

「まぁ、いいや。本題に戻ろう。あんたのマスターは誰?どこにいて、普段は何してるの?」

「マスターの名前はミシェル。科学者だ。」

「あれ?その名前、聞いたことがあるよ。」

人工生命体から聞いた黒幕の名前を、スリィは確かに以前に聞いている。

それもすごく最近だ。

むしろ、今日である。

「あー!今日、その人に会ったよ。爆発現場にいた人で、ブルームの病院の場所を教えてもらったよ…そういわれてみればかなり怪しい人物だったかも。」

自爆した人工生命体の破片を表情一つ変えずに拾っていた科学者ミシェル。

そのときは特に怪しいところはなくて、気さくな人物だと思っていた。

「ねぇ、スリィ…もしかして俺ら監視されてる?」

「つけられてる?」

スリィとブルームは顔を見合わせて、人工生命体を見た。

人工生命体は短刀を抜いた。

「3号だ。」

人工生命体の視線の先に、まったく同じ姿の人工生命体がもう一体立っていた。

相手は何も武器を持っていない。

「嫌な予感…ブルーム!」

「わかってる!!」

ブルームが近くにあった鉄パイプを抱え、壁に投げつけ、外に出れるぐらいの穴を空けた。

「公共物破損?」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!ほら走れ!!」

スリィとブルームはそこに向かって走った。

先にスリィが出ると、ブルームは動かない人工生命体を振り返った。

「2号!」

ブルームは一度だけそう叫び、穴を抜けた。

すると、大爆音が響き建物が崩れ始めた。

ブルームはすぐに建物から離れた。

「やっぱり自爆した?」

「みたいだな…。」

「これからどうするの?私たちどこに行っても自爆くん達が追いかけてきそうなんだけど。」

うかつに町中に戻ると、まったく関係ない一般の人まで爆発に巻き込まれることになる。

さすがに、それは避けなければならない。

「ならば、やっぱり黒幕の近くに行くしかないな。さすがに親分がいるのに自爆はしないだろ?何となくだけどサニーとナーレスもそこにいる気がちょっとするし。」

「そうだね。」

スリィは崩れた工場を振り返った。

「あの人工生命体を信じてみよう。」

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