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霊魂!  作者: 花宮月弥
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1話 お仕事


説明がだらだらと続いてしまいまして、とても読みにくくなってしまいました。

ごめんなさい。



長くなりすぎないように、一旦はここで切ることにしました。



お気づきの点があれば、ご指摘くださると幸いです。



霊魂使い。

そして、守護霊。

その存在がいつから出現していたのか。

それは定かではない。



しかし「全霊会」こと「全国霊魂協会」が発足したのは戦後すぐだった。

……らしい。



新菜はそびえ立つ古い洋館を、怪訝な顔で見上げた。



古ぼけた木製の立て札に、申し訳なさそうな字で〈全国霊魂協会本部〉と書いてあったり。

まったく手入れされてない庭は、カラスが住み着くほど深い雑木林が出来上がっていたり。

そのせいで、建物に影が射して年中暗くジメジメした雰囲気をまとっているという。



いつ見てもおどろおどろしいこの場所。



新菜は軽くため息を吐いてから、錆び付いた鉄製の、自分の身長の2、3倍はあろうかという門に手をかけた。



全国霊魂協会本部。

それは、この国を見えない存在から救うために設立された、あまり陽の目を見ない組織である。

一応政府公認だが、それを掲げるわけでもなくひっそりと活動している。

しかし、仕事は結構な数入ってくるので、組織として成り立っているというわけだ。



なぜ、全霊会は大々的に活動しないのか。



それは、幽霊の類いが存在することを国が認めてしまえば、大きな混乱を招くことが予想されるからだ。

幽霊を信じていない人が多い中、わざわざ幽霊の存在を公表して「巻き込んで」しまうことをさけるため、全霊会でも「霊魂の存在を明かしてはならない」という掟があるくらいだ。





新菜は重い足取りで歩みを進める。

密のことが頭から離れない。



密は本当に良い人なのだ。

変なところもあるけれど、気配りができて、その上かなりの美男子で。

いや、ここではカッコイイとか関係ないけど。



新菜はぐるぐると、そんなことを考えながらインターホンを押した。



『はーい、こちらー全国霊魂協会本部でございまーす。』

みどりさん、ご苦労様です。鈴堂です。」

『はいはーい、ご苦労様ー。今、霊魂用のプロテクト外しますねー。』

「お願いします。」


隣には蒼柳がいる。

悪霊の襲来を危惧して協会本部には強いプロテクトが施されているから、解除してもらわないと蒼柳だけ中には入れない。



「いつもここで時間食っちゃってごめんね。」

「(何故謝る。気にすることでもないだろう。)」

「だって、ランクA以上の人なら自分でプロテクト解除ができるんだよ?」

「(別に。待つのは嫌いでない。気にするな。)」



ランク制度。

これはつい10年ほど前からはじまった制度で、依頼で殉職者をださないための工夫だ。

ランクは全部で6つある。

上のランクから命に関わる仕事を与えられることが増えていく。

と、いうことは必然的に上のランクにいくほど、強い霊魂使いということになり。

S.A.B.C.D.Eとランクがあるうち、新菜はC。

つまり新菜個人に与えられる仕事は悪霊とは関わりのない、「自爆霊との会話」レベルのものだけだ。




ぱっ、としない自分と蒼柳。

蒼柳は霊魂のランクでは最高を超越するS+であり、本来ならランクに見合った霊魂使いの守護霊になるのがベストなのに。



ふっと、体に感じていた抵抗がなくなりインターホンから間延びした碧の声がした。



『一時的に解除しましたー。15秒後に再びプロテクトされるので、早めに入ってくださーい。』



もちろん、碧の言葉を最後まで聞くことなく、新菜と蒼柳は屋敷の内部へと滑り込んだ。



鉄製の両開きのドアを開けると、クーラーの風が心地よく体にあたる。

ふっと視線をあげると、目の前に見慣れた女の人がちょこんと受付カウンターに座っていた。



「碧さん、こんにちは。」

「鈴堂ー。ずーいぶんと久しぶりじゃないのー。」

「はい、すいません。」

「あらやだー。別に、責めてるわけじゃないのよー?」



受付嬢の有栖川ありすがわ碧はエキゾチックな美貌の持ち主で、年齢は不詳だ。

碧の横にはエキセントリックな格好をした守護霊が浮いている。



「ニールズさんもこんにちは。」

「(HAHAHA、コンニチハ!ソチラノカタモコンニチハ!)」

「(わ、私か? こ、こんにちは。)」


生前、道化師だったらしい。

蒼柳はクールな顔を横に引き延ばして無理矢理笑顔を作った。



-----



協会内部は華やかだ。

中世の貴族の屋敷を連想させる造りになっていて、老若男女、色々な人たちが何かの手続きやら談笑やらをしている。



ここでは、周りがみんな霊魂使いだということもあって、人目を気にせずにのびのびと出来る。

同じ理由で、離れにある協会の宿泊施設はいつも満員状態だ。




「あの、碧さん、ミツ来てませんか?」

「大崎くーん? ああー、来てたと思うわよー?」

「ホントですか! ありがとうございます!」



瞬間、駆け出す。

傷むほど染められた金髪を探して。



「(待て、ニイナ。)」



その背にストップがかかる。

蒼柳を振り返った新菜は余裕のない顔をしていた。



「(だめだろう、闇雲にこのような広い建物の中を探しても。)」




はた、と止まってあは、と笑う。



「そうだった、そうだった!」



新菜はそっと目を閉じると、集中する。

気持ちを沈めると、密の少しずつ霊力を感じるようになってきた。

そして暖かい、包み込むような密の霊力を、確かに察知した。



「感じた! 2階のずっと奥。ここは…」

「(会長室、だな。)」




会長室にどうして密が?

やっぱりあのことがバレてしまって…



血の気が引いた新菜は会長室を目指して駆け出す。

後ろから蒼柳が止めるのも聞かないで、弾丸のごとく会長室に突入した新菜は、息をつく間もなくまくし立てた。



「会長っ!

ミツは確かに他の霊魂を殺してました!

だけど、とっても苦しそうだったんです、すごく苦しそうな顔をしてたんです!

だから何か理由があると思うんです!

お願いします、ミツを処罰しないでくださいっ!!」



言い終わって肩で息をしていると、空気がしらけていることに気づく。

苦笑した会長、怪訝な顔をした会長の秘書・京子、そして呆けた顔をした密と、それぞれ視線があって新菜は混乱した。



「あれ? あれれ?」

「鈴堂さん、ノックをしてから部屋に入るくらいの礼儀は最低限守って頂けますか。」

「え、と。あの?」

「新菜ちゃん、ちょっと落ち着こうか。こちらに来なさい。」



ピッシリしたダークスーツを身にまとい、髪をしっかり結いあげた上に黒ぶちメガネ、という出で立ちの京子に痛いほどの視線を浴びながら、新菜は会長の方へ歩いて行く。



密は確かに他の霊魂使いを殺していた。

霊魂の断末魔がまだ自分の頭の中に響いている。

あれは夢なんかじゃなかったはずで。

でも、ちょうど蒼柳とは離れていたから確証もなく。



新菜の頭の中は絡まりに絡まっていた。


「新菜ちゃん、まず新菜ちゃんが見たものを話してくれるかな?」



心暖まる優しい声色の会長は、灰色の長髪を緩く横に流している。

片眼鏡は女性的な美しさをもつ会長をより神秘的にしている。

その微笑に、新菜は思わずぼーっとしてしまった。



「(お前の話を聞かせろと言っている。 さっさとせぬか!)」

「うわ、あ、はい!!」



会長の霊魂、すいに怒鳴られた新菜は我に返って、姿勢を整える。

帥は幼女のような姿をしているが、遥か彼方昔の霊魂で、その力は想像を絶する。

着ている服も平安貴族風であり、どこか他の霊魂とは違ったものを感じさせる。

新菜は帥に深く頭を下げてから、ぽつりぽつりと言葉を紡いだ。



「あの、一昨日、お仕事を頂いて自爆霊さんとお話してたんです。そしたら、路地にミツが入っていったのが見えて、何してるんだろうって思ったんですけど、自爆霊さんとのお話を続けたんです。

でも、次の瞬間にすごい悲鳴が聞こえて、でも人間の声じゃないっていうのはなんとなくわかって、急いで駆けつけたら、苦しい顔したミツが立ってて、そのあと霊魂殺しがあったって言うから、それはミツなんじゃないかって思ったんです。」



新菜の説明に全員が深いため息をつく。

密はしらけた目で新菜を見た。



「俺の隣にローザはいたか?」

「え、あ、見えなかった。」

「ローザ、あの時俺の側にいたか?」



ふいっと視線をあげるとイブニングドレスをまとったグラマーな霊魂が、前髪をかき揚げながら答えた。



「(ニーナの霊魂と一緒だったわよ。)」

「霊魂なしで、どうやって霊魂を殺すんだよ。」

「……ああ~!」



あの時、確かに霊魂同士でつもる話があるから、ということで、蒼柳もどこかへ行っていたのだ。



「じゃあ、ミツじゃないの……?」

「俺じゃなくて悪かったな。」

「本当に!? 本当の本当?」

「しつこい。」



新菜は心が軽くなって、その場で大泣きしてしまった。

密はあわてて、なだめにかかる。



「いやぁ、本当に微笑ましいね。新菜ちゃんは密くんを守ろうとしたんだね。」

「(ふむ。いいペアじゃないか。)」



密と新菜のペアは、学生同士のペアでなかなか舵取りが難しいのだ。

本分は学校でありつつ、協会にも籍をおいている二人は何よりも動きづらい。

その中でよく、絆をつくったものだと感心する。

それは密の誰より強い正義感と、新菜の素直さが織り成すことなのだろう。



朗らかな雰囲気になりつつあったその場に、京子の咳払いが響く。

新菜は泣き止み、密はぐっと引き締まった顔になり、会長は手を組んで笑顔を引っ込めた。



「(失礼します……って何だ、この雰囲気?)」



今更入ってきた蒼柳は、目を丸くする。

そんな蒼柳に、会長は新菜の隣に行くように命じた。



「ちょうどいい。蒼柳くんや新菜ちゃんにもきいてもらいたい話だ。

今日密くんに来てもらったのも、この話をするためだった。」



緊張が走る。

京子はカツカツ、とヒールを鳴らしながらドアの側にたつと、誰にも聞かれないようにプロテクトをかけた。



「話というのは他でもない、霊魂殺害事件の話だよ。

これは実は、前々からあった話で新菜ちゃんが立ち合ってしまった事件で正に20件目。

その事実を協会は隠してきたわけだけど、もう隠しきれなくなってしまった。」


「え、どうして隠してたんですか?」


「(よく考えてからものを言え、馬鹿者。

協会に携わるもの全てが知ったら混乱になり、情報が尾びれつきで流出する。

そんなことになったら、犯人は捕まりにくくなるだろ。)」


「な、なるほどー!」


「そう。でも、もう隠しきれない。

そこで状況が悪化する前に片付けてしまおうとしたんだ。」




会長の話はこうだ。

おととい、犯人を捕まえるべく、密がはぐれた霊魂の魂を察知して向かったところ、時既に遅く、大きな黒い塊が霊魂を食い殺している最中だったらしい。

犯人が人間だと思っていた密は霊魂相手に何もできず、ただ霊魂が喰われるのを見ていることしか出来なかった。



「危ない、それ、その変な黒いのにみつかったら、ミツは殺されてた!」



叫ぶように言って、新菜は蜜を睨んだ。



「普通ローザさんを連れていくでしょう!」


「(あの時、密はあたしに気を使ってくれたんだ。

霊魂が集まる機会なんて、そんなにないからな。)」


「だって、それで、もし」



あとは言葉が続かなかった。

震える肩を押さえて、うつむく。

そんな新菜の肩に手を置いて、密はなだめるように言った。



「ごめん、ニーナ。

もう絶対しない。」



新菜は人の命に過敏に反応する。

密の体温を感じて落ち着きを取り戻してきた新菜を横目に見つつ、会長は話を続けた。



「今回、密くんにはちょっと危険な仕事をしてもらうことになる。黒い霊魂の始末だ。」

「はっ!?」



抗議しようと一歩踏み出した新菜に、京子の主語霊――袴姿で後ろ髪を一本に縛り、凛としたたたずまいの女、が日本刀を突きつけた。



「(動いたら斬る)」

「声も出せないようにしておきました。」



やりすぎの京子に苦笑しつつも、会長は何も言わない。



「わかってるよ。そんな危険なこと、密にだけ任せるなって言いたいんでしょ?」



声の出せない新菜は首を思い切り縦にふった。



「ん。じゃあ、こうしようよ。

今回の任務は密くんと新菜ちゃん、この二人が一緒にいる時にのみ行うことができる。

これでいい?」



何の文句もありません!

新菜は感謝の気持ちをこめて何度も頷いた。



向こう見ずの新菜に、蒼柳も密も、思い思いのため息を吐く。



Sランク級の仕事をCランクの新菜が引き受ける。

そんな大変な事態に気づいていないのは、新菜ただ一人だった。




第1話 終




最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


また、よろしければよろしくお願いします。



お気づきの点があれば、ご指摘くださると幸いです。



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