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短編集

うるう年

作者: ジェルミサ

以前某所に投稿していた作品です。


ちょこっとだけ内容変えました。





 その年、議長はあせっていた。


 来月開催される閏年委員会の会合と、この500年間唯一最大の趣味としてはまっている「小石を蹴飛ばそうの会」の銀河系大会の最終日が重なっていたからだ。説明するまでもないが、大会の最終日は毎回大変な盛り上がりを見せる。それを見逃したくはなかった。が、議長がいなければ、閏年委員会の会合はどうなる。役職についたものとして果たさねばならぬ責務というのは存在する。議長はそれをないがしろにするつもりはなかった。が、議長には大会をすんなり諦められるほどの度量の持ち合わせもなかった。議長はどちらかと言えば狭量な人間だった。


 悶々とする議長に助け船を出したのは有能な秘書のオルネクだった。


「会合の日付をずらしてはいかがですか?」

 議長は呻いた。

「ならんよ。閏年委員会は閏年のまさにその「うるうの日」に開催される事に意味があるのだ。今までだってそうされてきたし、これからもそうだろう。議長の個人的理由で開催日をずらしたりしたらいけない!そんな事は考えられない」

 議長はこの150年で一番議長らしいセリフを言ったが、心の中では「大通りのホーム百貨店のショーウインドーにあった革靴で小石を蹴飛ばしたら気分が良さそうだな。帰りにちょっと寄ってみよう」などと考えていた。

 議長はこのところ常に大会の事を考えていた。今度の大会はそれだけ規模が大きい初めての銀河系大会だった。


 議長は子供のように地団駄を踏み、頭をかきむしった。


「あぁあぁぁ!!小石の大会(通はこういう略し方で大会を呼んだりもする)の最終日には、あのサラ・ポネットが赤いハイヒールで小石を蹴飛ばすショーがあるんだよ。それを見逃したりしたら、私は今後200年は悔しくて眠れないかもしれない!」

 オルネクは議長がなんだかんだいいつつ、必ず10時間は睡眠時間を死守する事を知っていたがあえてふれなかった。彼女は優秀だったからだ。優秀な彼女がどうして議長の秘書になってしまったのかは謎だ。


「では、閏年委員会の時だけ議長の身代わりに代行させたらいかが?どうせ議長は「開始」と「終了」の号令をかける以外の発言はされないのですから。誰も替え玉が委員会を取り仕切っているとは気がつかないでしょう。

 小石の大会の最終日は変装して会場にいらっしゃいな。そっちでも気がつかれないでしょう。あの大会、人は足元ばかり見ていますからね」

 議長はふむ、とうなった。

「それはいいかもしれない」

 確かにこの400年ほど議長は閏年委員会の会合での発言は控えていた。閏年の存在になんとも言いがたい程の熱意を持っているブーランケ卿フルスネル2世の熱弁に時間を割いてやりたかったせいでもある。彼の演説は涙を誘う。閏年委員会の存在を予算の無駄遣いだと罵る新人議員が会合が終わる頃には涙目で次回の会合を待ちわびるようになる。議長も何となく毎回「やって良かったな」と思いながら会合を終わらせる事が出来るのは彼のおかげだろう。号令以外は居眠りをしないようにだけ気を配れば問題ない。身代わりが余程のダメ人間でもない限り問題ないだろう。


 が、あの意地悪なミーシェンケ書記に自分が身代わりを会合に出席させた事がばれたら?


 その可能性についてはさすがにオルネクも肩をすくめるしかなかった。ミーシェの陰湿さは両隣の銀河系を探しても中々見つからないくらいだった。彼なら高確率で身代わりを見破るだろう。彼は一体どういうつもりか毎回張り切って重箱の隅をつつく発言をし、周りを白けさせるのだ。閏年委員会の会合に毎回出席出来る程暇な立場ではないはずなのに、彼の出席率は相当なものだった。


 議長は大会をやはり諦めようか、と考えた。大会は金曜日から3日間開催される。そのうちの2日は朝から晩まで参加出来るのだから最終日ぐらい我慢すべきではないのか。それぐらいは議長としての義務ではないのか。

 大会初日はミス小石蹴飛ばしの選出がある。議長は来賓席に座って見物する予定だった。そのチケットを手に入れるために48時間パソコンに張り付いていたとは誰にも知られたくない秘密だった。スマートに手に入れたと思われたかったのだ。偽名で交渉に交渉を重ねてどうにかチケットは手に入れる事が出来た。議長は常連に「あぁ、あの男か。ずいぶん頑張ってるな。しょうがない男だな」と思いきりバレているとは気が付いていない。抜けた男だからだ。

 大会二日目の土曜にはラムネの早飲み小石蹴飛ばし選手権が開かれる。ラムネの早飲みをしながら小石を蹴飛ばしながらトラックを二周するのはかなり難しい。前回3位だった議長はもちろん参加予定だった。その二つだけでもかなり楽しめるだろうし、小石蹴飛ばし仲間と沢山語り合えることもあるだろう。議長は自分の小石を蹴飛ばす角度に自信があった。大会ではいつも「素敵ですね」と褒められる。シャイな議長は言われる度に耳まで真っ赤になってしまうが、褒められることは嬉しかった。


 議長は露店でピカピカに黒光りする小石を買うだろう。議長は青、赤、白、の小石コレクションの次に今は黒の小石コレクションを集めていた。後2、3個買えば、黒の小石コレクションも完璧になる。恐らくあれだけの小石を集めているのは議長だけに違いない。彼が今まで小石につぎ込んだ金額は尋ねた人が「え?」と聞き返すぐらいに驚く散財だ。議長は小石を買う為に事業を成功させている筋金入りの小石バカなのだ。

 議長は妄想した。

 

 …もしかしたら念願の小石蹴飛ばしの親友が出来て、とっておきの蹴飛ばし小石を見せてくれるばかりか、2回ほどそれを軽く蹴飛ばさせてくれるかもしれない。その時はもちろん自分もとっときの小石、ミルテのため息(最高品質の黒曜石)を3回は蹴飛ばさせてやるのだ。私はケチではないからな。一生の友情を誓える相手ならそれも当然だ…



 議長は大きく深いため息をついた。

「何で私は議長になどなってしまったのだろうな。随分昔で忘れてしまったが、確か適当にあみだで決めたような気がするのだが。実は私は閏年にさほど興味があったわけではないんだよ。これがばれたら議長の座は剥奪だろうか」


 オルネクは、はっとした。


「それですわ!」



 オルネクの楽しそうな顔を見て、議長は首をかしげた。

「それ、とは?」

「だから、議長の椅子を譲ればいいのですよ。別に議長が議長でい続ける必要がどこにありまして?あなたは議長ではなく、ただのボーネン・オコスベルに戻られたらいいのですよ。そうなればうるう年の2月29日にどこで何をしていても何の問題もないですわ」

 議長は一瞬ボーネンとはどんなヤツだったかな、と考えた。が、それが自分の名前だと気がついて微笑んだ。議長は自分が「議長」と呼ばれるのに終わりが来ても良さそうだと考えた。自身の名前すら忘れてしまう程なじんだ「議長」の名だが、それを失うとしても彼は別に惜しくはなかった。


 その1時間後には有能なオルネクの手によって新議長選出の知らせが銀河中を回り、自薦他薦その他もろもろ計8453人の議長候補の中から、次の議長である地球人のタケシが選ばれた。選ばれた方法はあみだくじではなかったが、似たようなものだった。


 タケシを新議長とした閏年委員会はその年の2月29日つつがなく開催され、元議長のボーネンも小石蹴飛ばし大会を心底楽しんだ。中でも最終日の29日は最高だったという。とうとう彼は一緒に小石を蹴飛ばしたいと思える相手を見つけたらしい。黒い小石のコレクションも完成したそうだ。しかも彼は「ナイスな小石蹴飛ばし角度」の部門で入賞を果たした。



ボーネン氏は長命種なので、寿命が地球人より長いです。

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