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可哀想な妻の話  作者: 高月水都


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2/2

侍女の報告

 私の主人――イルヴァニアさまは言葉を紡ぐことよりも自分の気持ちを絵で表現する方でした。


 周りから気持ち悪いと奇異の目で見られた始まりはとあるお茶会。子供たちの交流を目的にしていたそれで、数人の子供たちが喧嘩をして騒ぎになりました。


 その子どもたちを見て、イルヴァニアさまは表情を変えずに近くの壁に紅茶とケーキで壁を塗りたくりました。


 その様は喧嘩をしている子供たちすら怯えさせるもので奇妙な化け物を見る目を向けられていました。


 そんなイルヴァニアさまにお仕えするのを断る侍女が多くいて、まだ新米の侍女であった私にその役目が回ってきました。


 最初は侍女の仕事すらまだ経験が浅かったのにいきなりの専属で戸惑うことが多かったので、まず仕える主人の為人を観察することしかできませんでした。


 観察をして、どんな方か知っていくうちにかの方が化け物ではないのは気付けました。


 壁に塗りたくるその習慣は、誰かの騒ぎを起こしている時に必ず行っていき、それがイルヴァニアさまの落ち着く習慣ではないかと予測を立てて、独断でキャンパスと絵具を用意してこれならいくらでも描いてもいいと伝えました。


 それがイルヴァニアさまにぴたりと当てはまったのでしょう。イルヴァニアさまは次第に落ち着きを持ち、何かあると絵を描く習慣が出来ました。


 貴族令息。公爵家子息として期待されている理想の姿そのままで振舞っているのが見られましたが、それでも無理をしているのか人間関係は上手く築けないのを気にしているのが絵を通して伝わってきました。


 そんなイルヴァニアさまのご結婚が決まった時皆戸惑いました。イルヴァニアさまの絵を通して彼の為人に気付いた者たちが彼が爵位をもらった時にそのままお仕えするつもりでついては来ましたが、彼の妻になる方は気付いてくださるか。


 友人関係も築けず自分を責めていたイルヴァニアさまをよく見ていたから奥方は気付いてくださるのだろうかと……。


 イルヴァニアさまも不安なのでしょう。悲しい時とか辛い時によく使われるグレーや黒の絵の具。僅かに期待しているのかオレンジや黄色の色がふんだんに使われた絵を描いている。


 いったいどんな方かと戦々恐々として現れたのは痩せ細って、ぼろぼろの服に身を包んで一人の女性――リリラーナさまでした。


 イルヴァニアさまが執事に命じて調べるとそれはまあ、見事に物語に出てくる悲劇の主人公とばかりの扱いで嫁いできた経緯も家族に無理やり押し付けられたという状況。


 リリラーナさまの環境を改善するのも重要事項になってしまったが、そんなリリラーナさまとイルヴァニアさまでうまくいくのだろうか……。


 不安になっていると、

「見守るしかないだろうな」

 と長年同じ方に仕えていた同志と呼べる執事がそんなことを告げて大変だろうが支えていくと決意しました。


 きっと、苦労すると覚悟をしていたのですが、それが杞憂に変わったのはすぐ。


 イルヴァニアさまの描く絵が暖色が多く使われるようになったから。暖色系の絵の具を多く使うのは気持ちが落ち着いている時。イルヴァニアさまはリリラーナさまを歓迎しているのが伝わる。


 それだけではなく、絵にたくさんの花が描かれていく。


 アスチルベ……恋の訪れ。

 ライラック……恋の芽生え。

 ツツジ……初恋。

 ハルシャギク……一目ぼれ。


 静かに告げる愛を示す花々は偶然だろうか。


 これをリリラーナさまに見せたらもしかしたら……。


「えっ…………」

 顔を赤らめてその絵をじっと見つめる眼差し。言葉よりも雄弁な心が伝わると信じたい。


「旦那さまは奥さまを受け入れてくれています、なので」

 奥さま(リリラーナさま)があとはイルヴァニアさまのことを知ってもらいたい。


「……………」

 知りたいと思ってくれたのだろうか。イルヴァニアさまの絵を描いている時間にそっとリリラーナさまは傍にいる日が続いた。


 そして、今まで絶対に人を描かなかったイルヴァニアさまがリリラーナさまを描いた。見たこともない綺麗なドレスを着せた絵を――。


「これを着たリリラーナを見たい」

 その言葉がどれだけ嬉しかったことか。


 妻を飾りたいと思うのは男の性だとあったが、そんな気持ちになったのだろう。誰よりも綺麗な恰好をさせたいと願うようにリリラーナさまの絵を描き、その都度新しい服を購入する。


 服飾店に絵をそのまま見せるとその絵のイメージに感動してそれを再現してくださる。服飾店を通して、その絵が噂になっていくのを元同僚であった公爵家の侍女から聞いたので、今までの主人たちへの誤解をここで払しょくする機会だと狙って、絵を展示することを申し出たのは勤めている者皆の総意だった。





 そして、イルヴァニアさまは今日も絵を描く。


 どこかの草原でくつろいでいるリリラーナさまの絵。

「明日は天気が良いようなのでピクニックなどはいかがでしょうか」

 絵はリリラーナさまにしてもらいたいこと、させたいことになって行き、やがて、リリラーナさまが赤ん坊を抱っこしている絵を描いた翌日にリリラーナさまの妊娠が発覚した時は、もしかして予知したのではないかと侍女たちで話題になったのは秘密である。

公爵家の三男だったからこそ生きられたとも言える

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― 新着の感想 ―
これ後世の美術評論家に『独学で絵を学び風景を描いた画家。人物画は少なく、妻と子どもたちを描いたものが数点あるのみ。画家として絵を売る必要がなかったので作品があまり散逸せず、まとまっているのが見やすい』…
侍女さんめっちゃシゴデキ。
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