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Le Palais Vide/ル・パレヴィッド  作者: Y
リスナー編
3/14

おほ~!

『それじゃ始めますよ~!』



 テレポート告知がポップアップされた。

 画面が暗転する。

 Danteが瞬間移動した先はメイン拠点だった。



 これがシャドウダイブである。



 この移動手段は距離的な制約を度外視して影から影に瞬時に移る。ただ、プレイヤーが影の存在になるのは神的な力という設定なので自発的には使うことができない。今回は、七星ななんが大会開催に当たって、LPV運営に特別アイテムを支給されているのだ。

 それが『冥王の錫杖』である。

 ななんの計らいによって、参加者が全力を出せるように試合前にメイン拠点にシャドウダイブできるように設定されていた。



 つまり、一軍装備を使える、ということだ。



 多くのプレイヤーは遠征先に一軍装備を持ち出さない。

 これはプレイヤーがキルされたとき、その場に物資が置き去りにされるからだ。

 オープンワールドで物資をロストすれば、基本的には回収するのは難しい。

 だから、遠出先には保険の二軍装備を持っていく。

 この大会のように試合上でのキルなら物資が返却されるので、安心して一軍装備をロードアウトできるわけだ。



 次に《チャット表示がオフになりました》とアナウンスされる。

 これでゲーム外の視聴者からメタ情報を入手する不正行為は封じられた。



 一分間のカウントダウンが始まる。

 戦闘前準備は日頃の整頓と手際の良さが命だ。



 アタッシュケースに、弾倉六つ、手榴弾とスモークを五発ずつ、二釻真鍮錫杖一本を詰め込んだ。つづいて、ⅢAクラス防弾コートとタクティカルベストを着る。右ポケットには負傷時用のコールドスプレー、左ポケットには攪乱用の手榴弾を突っ込んだ。

 ようやく最後、左肩にM16A4突撃銃を背負い、常備のMP5K短機関銃のコッキングハンドルを叩く。



 日本刀に目もくれないあたり、いかにもシューティングゲーム畑らしい構成だった。



 あっという間にカウントダウンが終わると、今度はC2大型輸送機にシャドウダイブされた。

 他の参加者と向かい合う。

 ただ、プレイヤーは影の存在のため、シルエット以外には互いを認識できない。



 どんな武器構成かはわからない、ということだ。



 各々ここと決めた地点で飛び降りる。正確には、影に飛び移った。いちどシャドウ化を解けば二度と使えないため、初期位置は慎重に選ばなければならない。



 Danteが降り立ったのは、三越銀座店の屋上だった。

 奇しくも集合場所に戻ったことになるが、どうも様子がおかしい。

 参加者以外に野次馬がいたはずなのに、人間だけが綺麗に消えている。



 ここは――銀座であって、銀座ではない。

 オープンワールドと対を成す世界、シャドウワールド。

 参加者以外が存在しない戦闘用の仮世界。



 この影の世界にはオープンワールドに存在するオブジェクトが反映されている。

 逆にシャドウワールドにおけるオブジェクトの変化は反映されない。

 オープンワールドのコップを割ればシャドウワールドのコップも連動して割れるが、その逆はない、ということだ。



 さっそく敵と鉢合わせる。



 なぜDanteが三越銀座店の屋上を選んだかというと、高所を確保しただけ有利になるからだ。下層の敵を一方的に認識できたり、位置エネルギーを潜在的に保有できたりしてポジショニングしない理由がない。



 みんながそう考えるため、高層ビルの屋上は開始早々陣取り合戦の様相を呈する。といって高すぎると、今度は射角や射程が足らず、結局は地上に降りる手間がかかる。

 Danteは十階建てくらいの高所が程良いと判断して屋上テラスを選んだのだ。



『結構いるねえ』



 なんて、向かいのビルの様子を伺う片手間に、さくっと敵二人をキルしている。「うめええ」「うっま」「うんめええ」とコメントが殺到した。



 向かい側には銃声からして五人は降り立ったらしい。決着がつき次第、次の敵を探しに降りてくる。その前に先手を打つ。それがセオリーであるが、Danteほどの腕前だと常識が違うらしく、なんと懐から嗜虐品のマルボロを取り出したのだ。



『ふう』



 Danteはいま、チャット欄がどうなっているか見えていない。早々と一服している姿に「けむりきたあああああ」「ヤニカスwwww」「今日の一服(十回目)」とかちょっぴり盛り上がっていた。



『……』



 戦場は対照的に静まり返った。

 きっと向かいビルの覇者が消耗分の物資を漁っている。

 辛抱強く待つこと一五秒、ほんの一瞬だけ頭を出してきた。



 そのタイミングを待っていたとばかり、M16で遠距離狙撃を試みる。キル数が高いプレイヤーほど撃破ポイントが大きくなる。なるほど、勝者が気を緩める一番おいしい瞬間を狙っていたわけだ。



 だが生憎、ワンショットキルするには敵の警戒心が強すぎた。キルログが出ない。こうなると状況は一気に不利になった。敵位置がDanteよりも数階分高いだけに、敵からはDanteが丸見えでも、Danteからは敵が見えないからだ。



 あわよくば漁夫の利を得ようという目論見は失敗に終わった。

 Danteは裏手から場所を変える。

 敵が来るまで待つ、という戦術を取らないのは、このシャドウワールドが徐々に崩壊しているからだ。



 光の膜が四方から迫っている。

 それに触れた世界は光に溶けた。



 シャドウワールドは時間経過と共にエリア縮小される。

 大規模サバイバルゲームの傑作『PUBG』や『エーペックス・レジェンズ』ではお馴染みの、勝敗の高速化を促すシステムだ。

 この膜に触れている間は慢性的にダメージを負うため、なるべく早期に退避しなければならない。



 ヴェールと呼ぶ。



 縮小の中心地がランダムのため、定番スポットだからといって有利になるとは限らない。

 メニュー画面を見たところ、今回は新富町駅近辺が中心地なので、早めに移動した方がよかった。



 しかし、銀座のような区画整備が行き届いた市街地では迂闊な移動が命取りになる。

 開いた窓、屋上、自動車の陰……射線が多すぎるせいでリスク管理などできっこない。



 こんな危険地帯に、まだ五十人もの猛者が息を潜めている。

 そこでDanteは一旦、東銀座駅の地下鉄日比谷線を経由し、築地駅に行こうと決めたようである。

 密閉空間の地下鉄なら敵の射線を大幅に削ることが期待できた。

 そこまで迂回するプレイヤーはいないと踏んだに違いない。



 タクティカルライトをつける。

 銀座エリアは極一部しか通電していないため、この手の照明器は必須品だった。

 改札口を跳び越え、エスカレーターを降りる。

 突如として敵プレイヤーが姿を現したのは、ホーム階段の角からだった。



『ふあっ!?』



 完全に後手に回る。

 敵がショットガンの初弾を外したすきに、超絶的な反射神経でエイムを合わせた。

 MP5を滅茶苦茶にフルオート射撃する。

 手傷を負ったものの、見事ヘッドショット一発で封殺してみせた。



『びびった~……』



 戦場には絶対に安全と言い切れる場所はない。

 だがまさか、こんな地下深くで足音ひとつ立てずにガン待ちしているとはだれも思わないだろう。ほとんど背後から狙われたのに、よくぞ生き延びたものだ。



「ふぁ!?www」「うっまwww」「なんで勝ったwww」



 チャット欄の称賛など露知らず、Danteはポリゴンエフェクトの傷をコールドスプレーで手当てする。現実で言えば内出血か打撲だろう、NIJ規格五段階のうち三番目のレベルⅢA級ボディアーマーをもってしても、完全な無傷には至らない。回復・装填・索敵を済ませた後は、勝者の特権、物資漁りにふけった。



『おほ~!』



 奇声をあげるほど有頂天になる。

 たまたまマルボロを持っていたらしく、ここぞとばかり、敵の煙草に火をつけた。



『ひとのタバコうんんめえええ』



 露悪的な一幕に「今日の一服(百回目)」「殺しの後の一服サイコー!」とチャットが猛スピードで流れる。

 今回の『スペシャル☆七星☆レギュレーション』では武器は試合後に返却されるが、弾丸や手榴弾、そして煙草のような消耗アイテムは略奪できた。

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