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Le Palais Vide/ル・パレヴィッド  作者: Y
プリズナー編
14/14

脱獄に賛成のやつはオレに続け

「別ゲー始まってんぞ」



 ビー、と鉄檻が開くと、点検、そして刑務作業場に移動させられる。

 主には武器開発を強制された。

 ぼくの担当は弾薬作りである。



 なんでゲームをしてまでこんな発展途上国めいた仕事をしなければならないのだ?

 毒を吐くと共に九ミリ弾の薬莢に火薬を詰めていく。

 ログインしなければ作業する必要はないのに、ほとんど全員がこうしているのは理由があった。



 収監者のリスポーン地点は雑居房に固定されている。

 よってシャドウダイブでは脱出できない。

 BANの解除には最低十日間かかるということなので、このままでは一月三十一日の予選通過条件に間に合わなかった。



 ことの顛末がまとめサイトに転載される。

 LPV初のチーター出現、謎の高性能アンドロイド、そしてプレイヤーの収監という一連の事件は視聴者に面白おかしく受け入れられたらしい。

 何より耳目を引いたのが、最大手配信者の東承太郎がその中にいたことだ。

 あの怒りの声に聞き覚えがあると思ったら、なんと、そのひとこそ東承太郎だったのである。



 東承太郎――

 YouTube登録者数二百万超、ゲームプレイがうまい訳ではないが、マシンガントークが魅力の、ニコニコ動画華やかなりし頃の最古参の配信者である。

 積極的に見ている訳ではないにせよ、ぼくだってよく知っている。

 ミリオン再生の切り抜き動画のいくつかはお気に入り登録しているはずだった。

 何より、Danteとも交流が深いので企画物なんかでは顔なじみである。

 その東承太郎が、僕の向かい側の、二階上の房に収監されているのだ。



「脱獄するぞ」



 そう宣言したのは何を隠そう、東承太郎に他ならない。

 どうやら大会参加しているらしく、このままでは予選落ちになるからだそうだ。

 現在のランクがBBB級なので、この収監がなかったとしても本選行きは難しかったろうことには目を背け、理不尽なBANに憤慨していた。



 自由時間になる。

 東承太郎が協力者集めの会議を開いた。

 監視の目が厳しい中央運動場を避けたバスケットコートは溢れんばかりの聴衆にどよめている。



「いいか? 脱獄に賛成のやつはオレに続け」



 そうやって参加を促されると、有名配信者の企画に悪乗りしたいというプレイヤーが殆どだった。

 いちいち挙手するまでもなく、ここにいるみんなが沈黙によって賛成したに違いない。

 コート入口にいるぼくもそうだ。

 これだけの囚人が結集しているとアンドロイドに注意されそうなものだが、どうやら決定的な行動をしない限りは不干渉の方針らしく、日本刀を佩刀したまま動こうとしない。



「なんか質問ある?」



 ベンチの腰掛けに尻をのせながら東承太郎が問いを投げてきた。

 お山の大将を絵に描いたらああなるだろう。

 前方列のプレイヤーが小さく挙手して「アンドロイド相手に脱獄するなんて無理じゃないですか?」と至極真っ当に聞いたところ、しっかり懸念を受け止めながら真摯に答えてくれる。



「だよねえ。でももし本当に脱獄不可能だったら収監なんていちいちするかな? 運営はオレたちのアカウント情報なんてワンクリックでBANできるんだぜ。わざわざあいつらアンドロイドに捕縛させてここに収監したってことは、逆に脱獄可能の設定なんじゃねえかな?」



 おお、と息を呑む程に鋭い考察に一同感心している。

 たしかに、LPVのゲーム哲学からしてゲーム内のことはゲーム内で完結させるはずなのだ。

 外部からアカウントBANにするとは考えにくい。



「ちなみにこれオレの考察ね!」



 YouTubeの切り抜き動画を見た者であれば、それが視聴者の考察だと知っているだろう、東承太郎は手柄を奪ったわけである。

 小さな笑いが生まれた。

 この様子も配信されているし、僕も便乗して配信を流している。



「たださ、アンドロイド相手にオレら素っ裸なわけじゃん。そこをどうしようかって話の訳よ」



 東承太郎が頬杖して思案を巡らしたところに、すかさず別の問いが寄せられた。

 脱獄の可否はともかくとして、脱獄後はどうするべきかという内容だった。



「そこも気になるよね。そもそもここがどこのサーバーかって話よ。見たところ東京拘置所モチーフだから葛飾サーバーのはずだけど何の確証もねえもんな」



 東承太郎の言う通り、収監の建築物は東京拘置所ならではのバッテン構造になっている。

 ぼくもグーグル画像検索で初めて知った。

 しかしモチーフが東京拘置所だからといって、それが現実と同じように葛飾区にあるとは限らない。

 これまでのLPVの傾向からして葛飾サーバーには違いないにせよ、ここがどのサーバーにもつながっていないアカウントBAN専用の独立サーバーという線も覚悟しなくてはならないのだ。



 いずれにせよ、ぼくが脱獄に手を貸さない理由にはならない。

 なぜなら、予選終了の期限までに席次を五百位以下にしておかなければならないからだ。

 脱獄後が不透明であろうとも、この魅力的なイベントに反対などしようはずもない。

 それに東承太郎は脱獄のための秘策を持っている。



「葛飾サーバーはまだ誰も見つけてねえ。だからまずは隣の墨田サーバーから入口を見つけなきゃなんだが……それはいまオレの友達の、ぶっちゃけみんな知ってるだろうけどさ、フリードリヒ大王さんが視聴者と一緒に探してくれてんだ。フリちゃんが突き止めてくれればワンチャンあるぜ、まじで」



 配信界隈を知らない者からすれば仰々しい名前が出てきたと思うであろう、そのフリードリヒ大王なる人物もまた列記とした配信者である。

 YouTube登録者数七十万人、言うまでもなく、ぼくもよく知っている。

 動画投稿歴は東承太郎より更に古く、実況動画文化の黎明期以来の伝説の動画投稿者だった。

 大の歴史好きであり、活動最初期に戦略シミュレーションゲームにおいて、十八世紀に実在したプロイセン王国を覇権国家にしようという無茶な絞りをフリードリヒ大王視点で見事完遂したことが名前の由来である。

 東承太郎とは、なにかにつけてイベント企画を共同で行う程の盟友っぷりだ。



「外と中から同時攻撃すれば絶対に隙が生まれる! だからこっちはこっちで脱獄の準備をしなくちゃならねえ」



 協力してくれみんな! と大声を出すと、賛同の意の拍手が沸き立った。

 いよいよ脱獄ドラマの金字塔『プリズン・ブレイク』じみてきたなと笑っていたら、東承太郎が武力行使のために腕の立つプレイヤーをピックアップしたいと提案してきた。

 ぼくの顔から笑みが削げ落ちたのは言うまでもない。



「A帯以上の人います?」



 五十人以上の集団を前にして聞いてきた。

 普段ならしらばっくれるはずが今回はぼくも本気で脱獄したいので、やむなく挙手したところ、他には三人しかいなかった。

 珍しくなくなったとはいえども、プレイヤー全体から言えば、A帯が絶対的に少数派なのは変わらない。



「これしかいねえのかよ!」



 さっそく理不尽にキレたものの、それさえ笑いに変えるのだから登録者二百万人は伊達ではない。

 打って変わって「お願いします」と腰低く握手を求められる。

 「どどど、どうも!」とどもりながら挨拶をする栄誉を浴びた。

 テレビよりネットに慣れ親しんだ僕に言わせれば、登録者二百万人なんて名の知れた芸能人以上に凄まじい。

 この様子も二万人、いや三万人以上が視聴していると思うと下手に発言することすら怖気づく。

 何より、一応は同じ配信者なのに二百人ちょっとしか集められていない自分自身が恥ずかしかった。



「あの、いちおーぼくも配信してるんですけど……」

「お、じゃあA帯の配信者ですやん! 今度プレイ教えて下さいよ」



 あざっす、とめちゃくちゃに会釈する。

 すぐに「もっとちゃんと挨拶するべきだった!」と後悔した。

 東承太郎とは二〇歳以上離れているし、配信者としてもキャリアが違いすぎる。

 舐めた口をきいたら、ぼくなど一瞬で消し炭にされる。



 いまごろ東承太郎の視聴者はどんな反応をしているだろう。

 というか、いちいち申告するべきではなかったかもしれない。

 売名を謗られているのは確実だとして仲間として受け入れてくれているだろうか。



 そーっと自分のチャット欄を覗いたら、さっそく「承から」「承から来たぞ喜べ」「イケ」「売名すんな底辺」「加工乙」「イケメン萎えた承戻ります」「お前ら荒らすなwwww」「承のこと嫌いにならないで!か~~~~~~ペッッッ」という嵐のようなコメント数によって荒れに荒れていた。



 ひどすぎる。

 元々の視聴者数よりずっと多く、無反応を貫くこともできず、吹けば消えそうな声で自己紹介する。



「あ、どうもFと申しますぅ。よろしくお願いします……」



 ひえ~とヒヤヒヤしながら応対する。

 正直なところ、配信する、という意味を軽く見ていた。

 全世界に向けて配信する以上、いずれは有名配信者に出くわすはずだったのだ。

 そうでなくとも、何かの拍子に視聴者が一気に増えて手に負えなくなることだって考えられた。



 それが今なのだ。



 いますぐ配信を終えたい衝動に駆られるが、そんなことをすればビビっていると思われるし、気前よく画面に映ることを許してくれた東承太郎の厚意を蔑ろにすることになる。

 思考の結果、考えるのをやめよう、という結論にたどり着いた。


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