朝起きたらダンスバトル
「朝だ! ダンスバトルだ!」
いきなりそんな声が聞こえて、僕は飛び起きる。
日曜日の朝。ふと隣を見れば、謎の妖怪らしき猫が「ゲラゲラポー!」と言いながら珍妙なダンスを踊っていた。なんだコイツ、と思っていたらその猫は僕に話しかけてくる。
「さぁ、お前も踊れ! ダンスバトルの始まりだ!」
「いや待て、何だよお前!? 猫!? いや、妖怪か!?」
「今は日曜日の朝、つまり昨日はサタデーナイトフィーバー! だから今日はダンスバトルなんだ!」
「何だそれ!? 最初から最後までわけわかんねーよ! つーか、『ダンスバトル』って何だよ!?」
猫はそれに答えることなく、「とにかく踊れ! ダンス・ダンス!」と好き勝手に踊り続ける。
「いいから踊れ、踊らなきゃ負けだ! あそこの小学生は誰がプリンをもらうかダンスで決めてるし隣のおばさんは亭主の浮気をダンスで問い詰めてる! さぁ、お前も踊れ! 踊らなきゃ負けだ!」
踊り狂う猫に乗せられ、仕方なく僕も踊り始める。
踊り歩き、外に出れば本当にみんなダンスをしていた。老若男女、思いのままにダンスを踊るその光景はまるで「ええじゃないか」の如きだ。
そこに一際、キレキレのダンスを踊る美少女が現れる。
「あれは……阿波さん!?」
「アバ……なるほど、彼女はダンシングクイーンか!」
そう語る猫の前に、阿波さんが文字通り躍り出ると僕に向かって挑発的な目を向ける。
「私、自分よりダンスが上手い人じゃないと付き合えないの……さぁ、私とダンスバトルよ!」
かかってきなさい、とばかりに手招きをされた僕はすかさず「臨むところだ!」とダンスを繰り広げる。
――僕は、専門的にダンスをやっているわけではない。
だが、その昔踊りを習っていたというおばあちゃんにこう言われたことがある。
「振り付けなんか気にしなくていいのよ。踊りはノリが大事。音楽に合わせて、テンション上げてノッていればそれでいいのよ」
僕はその言葉を胸に、躍る時はとりあえずノリを大事にするようにしてきた。僕の元にダンスバトルの開幕を告げた猫が現れたのも、きっとその言葉を胸に生きてきたからだと思う。
普通に生きてるおばあちゃん、今もときどき元気に踊っているおばあちゃん。そのおばあちゃんの顔を思い出しながら、懸命に踊っていれば阿波さんがふっと「あなたのハートに負けたわ」と笑う。
「私、負けましたわ」
そう告げた阿波さんが、僕の頬に口づけすると周囲から歓声が上がった。
思わずにやけてしまう僕に、猫が「回文?」とツッコんできたが……僕はそれを撥ねつけるように、喜びの舞を踊るのだった。
「痛い……痛いよぉ……」
次の日、踊りすぎて全身が筋肉痛になった僕に猫が「『ダンスは済んだ』な」と口にする。
「土曜はフィーバー、日曜がはダンスバトル……なら月曜は筋肉痛だな」
「いや……結局、お前は何なんだよ……」
筋肉痛とは無縁らしい猫に、僕は呻くことしかできなかった。




