0.世界の消失
人と話すことが好きだ。
いろんな人と言葉を交わして、相手のことを知っていく。
そうすれば、私の世界はどんどん広がっていった。
それが楽しくて、ひとり、またひとりと関わりを持つようになっていたけれど。
「あのさ……好きじゃないなら、思わせぶりな態度を取るの、やめたほうがいいと思う」
それは、中学のときに私を好きだと告白してきた男子の捨てセリフ。
あのときの、彼の怒りと哀しみが入り交じった瞳と、その言葉は高校生になった今でも、魚の骨のように胸に刺さっている。
よく、言葉は目に見えない凶器だと言われるけれど、それは言葉の鋭利なナイフとして胸に刺さったわけじゃなかった。
小さな言葉の棘、そして毒として、ずっと私の身体を蝕んでいる。
それを言われたときは、どうして私が悪いように言われなきゃいけないんだろうって思った。
私はただ、誰かと楽しくお喋りしたいだけなのにって。
でも、彼の表情が苦しそうだったことに気付いたときから、私が間違えたせいで彼を傷付けたのかもしれないという罪悪感が芽生えてきた。
それ以来、私の言葉や距離感が間違えていないかを考えるようになってしまって、楽しかったはずの会話がまったく楽しめなくなった。
浅木くんと言葉を交わしたのは、そんな、世界が狭まって身動きが取れなくなっているときだった。
浅木くんは私よりもはっきりと他人と距離を置いていた。
だからこそ、私に気付いてくれたんだろう。
「それならそれで、いいんじゃない? 人との付き合い方に正解なんてないだろうし。ただ自分が納得できる形が見つけられたなら、十分でしょ」
その言葉で、私の世界に明かりが灯った。
それを胸に刻んでおけば、いつかまた心から誰かと笑い合えるだろうか。
そんな希望を見出して狭い世界から踏み出したはずなのに、私はまた、距離感を間違えた気がしていた。