異界邸宅 第5話
《この家の気になるポイントその3》
【物置部屋】
レンヤと藍歌が各個室の次に調べたのは、物置として使われている部屋だ。
部屋の棚には様々な日用品や各種道具類が、整然と並べられていた。
「掃除道具に脚立、洗剤やトイレットペーパーなど消耗品の予備、このあたりは普通だな。ハンマーやペンチ、ドライバーといった工具類も、あってもおかしくはない」
「それに加えて草刈り鎌、斧に鉈ですか。外に出られないこの家で、一体どんな使用法を想定しているのでしょうね?」
藍歌の言う通り、普通の生活用品に混じって物騒な刃物類も目立つ。
外で作業を行えないこの家では、ほとんど使い道はないだろう。
「いちおう『刃物は持ち出し禁止』としておくか」
「そうですね。意味があるかどうかはともかく、やらないよりはマシでしょう」
照明に照らされて鈍く光る斧や鉈を見ていると、妙に不安を掻き立てられる。
レンヤと藍歌は早々に物置を出て次なる調査場所、キッチンへと向かった。
【物置部屋 調査結果】
・物置部屋には生活用品や工具、予備の消耗品が置かれていた。
・草刈り鎌や斧、鉈などの武器になり得る刃物も発見。
・念のため『刃物は持ち出し禁止』とする。
◇◇◇
《この家の気になるポイントその4》
【生活物資】
レンヤと藍歌はキッチンの調査を開始した。
この家の豪華さに見合った広いキッチンには最新の調理器具の数々のほか、潤沢な食料が備蓄されていた。
瑞々しい野菜に新鮮な肉と魚介類、各種調味料まで万全だ。
冷凍・インスタント食品も用意されており、料理ができなくても問題ないように配慮されている。
料理を作った後は、隣接するダイニングルームで食事を取ることも可能だ。
「なるほど、『食料、生活必需品、インフラは万全に整っている』のルール通り、当面の生活に心配はいらなそうだな」
「そうですね。それに、なくなっても問題ないかもしれませんよ?」
「何? どういう意味だ?」
「もしかしたら何もない空間から食料や生活必需品が現れて補充されるかもしれない、という意味です」
訝しげな表情をするレンヤの様子を見てクスクスと笑っていた藍歌は、更に説明を続けた。
「レンヤさん。私がどうやってこの家に来たのか、お忘れですか?」
「召喚……か」
「そうです。人が送れるなら物を送ることも可能かもしれない、というわけです」
レンヤは顎に手を当てながら唸った。
確かに執行部の能力は未知数だ。
藍歌が言った魔法じみた芸当も、不可能とは言い切れない。
「もっとも、この食料が尽きてしまうほど長丁場になるような事態は、御免被りたいですね」
「まったくだ」
少なくとも生活面での心配はいらない。
それが確認できただけでも、この調査をした意味はあった。
【生活物資 調査結果】
・当面の生活には問題ない量の食料や生活必需品を確認。
・生活物資は今後補充される可能性もあるが、確実とは言えない。
・なるべく早く、この家から脱出するのに越したことはない。
「さて、一通り探索を済ませたことだし、一度リビングに戻るか」
「少し待ってください、レンヤさん」
リビングで今後について話し合おうとしたレンヤを、藍歌が引き止める。
レンヤは歩き出しかけた足を止めて、藍歌の次の言葉を待った。
彼女とは知り合って間もないが、その着眼点の鋭さにレンヤは信頼を置き始めていた。
藍歌は記憶を探るように口元に指を当てながら少し考え込んだあと、レンヤと目を合わせて口にした。
「もう一つ、気になる箇所があります」
◇◇◇
《この家の気になるポイントその5》
【黒いアンティーク調の電話】
藍歌が「気になる」と言ったもの。
それは玄関ホールに置かれている、黒いアンティーク調の電話だった。
レンヤは今時珍しい、ダイヤル式で年代物の電話をまじまじと見つめる。
「電話か……。確かに珍しい形だとは思うが、いったい何が気になるんだ?」
「レンヤさん、この摩訶不思議な家から一体誰に電話をかけるのですか?」
藍歌の言葉に、ハッとなってレンヤは考え込む。
レンヤの答えを待たず、藍歌は電話の調査を開始した。
電話自体は高級感のある年代物だが、使用に問題はなさそうだった。
藍歌は受話器を手に取り「110」とダイヤルを回す。
しかし「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」という機械音声が流れるだけだった。
次いで藍歌は電話機本体を見回してみたり、電話が置かれている台そのものを調べたりしていた。
その様子を腕を組んで見つめていたレンヤは、率直な感想を述べる。
「ただの飾り、という線もあるだろう。雰囲気とか、豪邸らしさを演出するための」
「そうですね、でも見てください。面白いものを見つけましたよ?」
藍歌が差し出してきたのは、電話の横に置かれていたメモ帳だった。
レンヤは表紙をめくって中を確認する。
そこには興味深い内容が記されていた。
適性者A 1111
適性者B 2222
適性者C 3333
適性者E 5555
「……俺の他にも適性者がいるのか」
「ええ、そしてレンヤさんは『適性者D』に該当するようですね」
「Dの表記だけ無いのは、俺自身がDだからだな。となると横の4桁の数字は……」
「電話番号でしょうね」
レンヤ以外の適性者の電話番号が記されたメモ帳。
状況から考えると、この電話を使って他の適性者と連絡を取ることが可能ということだろう。
【黒いアンティーク調の電話 調査結果】
・電話自体は普通に使用可能。
・「110」には繋がらない。
・電話機の横に置かれていたメモ帳から、他の適性者の電話番号を発見。
・電話を使って他の適性者と連絡を取り合える可能性が高い。
「ふふふ。さて、どうします。レンヤさん?」
メモ帳から見つかった、自分以外の適性者の存在。
事態は確実に、次の段階へと進み始めていた。