友達教室 第18話
――――キーン、コーン、カーン、コーン。
「……6回目だな。あと1回のチャイムで1度目の統合が始まる。時間がない」
マサト、誠純、向日葵、サラマンディア、武神の5人は体育館の中央で車座に座り、話し合いを行っていた。
――――『時間経過で友達が増えます。仲良くしてね!』
この学校で最初に提示された黒板のルール。
マサトたちはこのルールにある通り、友達同士で『仲良くする』ことが脱出の鍵だと推測していた。
「問題は、何をすれば『仲良くなった』と判定されるかだ。お前たちはどう思う?」
「うーん。一緒に遊んだり、ご飯食べたり、運動したりとか? 誠純君は?」
「そうですねぇ。お互いの立場を尊重し、信頼関係で結ばれている間柄なら『仲が良い』と言えるのでは? そういう相手なら、僕も背中を預けられますし」
向日葵は『行動』、誠純は『精神』的な点を重視して『仲が良い』状態を語り始めた。
「そっちの3人は勝手によろしくやってればイイじゃない。その間に、アタシはマサトといっぱい愛し合っておくから! ねー、マサト!」
「サラマンディア、それだと脱出は出来ないぞ。たぶん『友達全員が仲良くする』必要があるだろうからな」
マサトは腕に絡みついてきたサラマンディアを、やんわりと窘める。
恋人同士が『愛し合う』ことも仲が良い状態と言えるだろうが、黒板ルールが示す『仲の良さ』からはズレている気がする。
「ねぇねぇ、武神さん! 武神さんは、どう思いますか?」
「仲良くする。そのような概念、我には不要」
「言うと思った」
マサトは軽く溜め息をつく。こういった事柄に関しては、武神はまったく当てにならない。
そもそも黙ってこの場にいてくれるだけでも、奇跡みたいなものだ。
「もぅ! 武神さん、ちゃんと考えなきゃダメだよ! みんな頑張って考えてるんだからね!」
「む」
向日葵に怒られた武神は、少しの間だけ目を閉じながら思案した後、口を開いた。
「……我が戦うにふさわしい強敵、不退転の覚悟をもって挑んでくる武士。そうした者たちには、敬意を持って相対することにしている」
「いわゆる宿敵や好敵手。競い合いの中で生まれる友情ってやつだな」
「友情など生まれぬ。我には不要」
「はいはい」
武神が語ったように『戦い』の中で生まれる友情も、一種の仲の良さと言えるだろう。
だがマサトとしては、これ以上の戦いを避けるために7回目のチャイムが鳴る前の脱出を目指しているのだ。
四人の友達がそれぞれに示した『仲の良さ』の形。
行動、精神、愛、戦い。
この中でも、向日葵の『行動』による仲の良さは、シンプルで分かりやすい。
とはいえ、どんな行動を取れば『仲が良い』と認められるのか。その選択肢も無数にある。
遊びか、食事か、運動か。それとも他の何かか。
マサトは4人の意見を聞きながらも考え続けた。
そもそも『仲の良い状態』というのを定義しようとしても、解釈は人それぞれで明確な答えなどない。
であるならば――――
「もしかしたら、難しく考える必要はないのかもな……」
「マサトさん、どういうこと?」
「『仲の良い状態』を証明しようとしても、定義が曖昧だ。だったらいっそ『仲良く見えれば』それで良いんじゃないかと思ってな」
「まぁ、確かに。人の心が覗けるわけでもないですし。一理ありますが……」
「だからって『見た目』で仲良くしようってワケ?」
誠純やサラマンディアは、いまいちマサトの意見にピンときていない様子だった。
彼らの困惑は百も承知で、マサトは説明を続ける。
「学校から出るとしたら、やはり『昇降口』が一番可能性が高い」
「うん、そうだよね! 私もそう思う!」
向日葵が元気よく同意する。
マサトは眼鏡をかけ直すと、全員を見回してはっきりと告げた。
「みんなで手を繋いで、昇降口から出てみる」
「えええぇぇぇぇっ!?」
サラマンディアが顔を真っ赤に染めて叫ぶ。
誠純と向日葵も、口を大きく開けて呆然としていた。
「ちょっと待ってよ、マサトー! なんでこの年齢になって、そんな『仲良しこよし』みたいなマネをしなきゃなんないのー!? 恥ずかしすぎでしょ!」
「今まさに自分で言ったじゃないか、サラマンディア。『仲良しこよし』に見せるためさ。そのための話し合いだっただろう?」
「う……っ!? そうだけどぉ……! マサトとだけなら、いくらでもするけどぉ……!!」
サラマンディアは露骨に嫌そうな顔をしたものの、それ以上の反論をする気はなさそうだった。
「うん! 面白そうだね! やってみようよ!」
「まぁ、他に方法もありませんしね」
向日葵は元気いっぱいに、誠純は少し照れながらもマサトの案に賛成した。
そして――――
「……我も、やるのか?」
武神は珍しく困惑した様子を見せていた。
そんな彼に、マサトはニヤリと笑って宣言する。
「当たり前だろ。アンタも俺たちの『友達』なんだからな」
「……」
マサトの言葉を聞いた後、しばらく沈黙していた武神だったが、おもむろに立ち上がるとマサトに向けて手を差し出した。
まさかの素直な反応に、マサトたち全員が驚いた表情を見せる。
「うわぁ……マジでやる流れじゃん。じゃ、アタシはマサトの隣ね!」
「よーし! なら私は、サラマンディアさんのとーなり!」
「あの、武神さん。手、いいですか?」
こうしてマサトを中心に手を繋いだ5人は、昇降口を目指して歩き出す。
マサト、誠純、向日葵、サラマンディア、そして武神。閉ざされた教室から始まった、奇妙な友達関係。
彼らの波乱に満ちた物語に、1つの答えが出ようとしていた。




