表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界遊戯執行部  作者: 春雪
友達教室編
42/45

友達教室 第17話

 武神はすぐに見つかった。


 誰もいない体育館。その中央で、武神は坐禅ざぜんを組んでいた。

 この異常な空間のことなど自分には関係ない、と言わんばかりの落ち着きようだ。


 戦闘時に彼が放っていた嵐のような闘気は、すでに消えている。だがその巨体からは、依然として近寄りがたい『圧』を感じた。


「……よし、とにかく話をしてみるしかないな」


 光沢を放つフローリングの床を踏みしめながら、マサトたちは武神のもとに歩を進める。

 4人が近づいても武神は微動だにせず、精神統一を続けたままだ。


「武神、話がある」


 マサトが声をかけても、武神は黙して動かない。

 何事も起きないまま、時間だけが過ぎていく。

 しばらくして、武神は静かに目を開いた。


「……何用だ?」


 彼の声からは【破滅的憎悪】の影響下にあった頃の殺意は感じない。だが、明らかに拒絶の色があった。


(そもそも武神は、武を極めるために人の世を捨てるほどの孤高の存在。他人との馴れ合いを好むタイプではないか……)


 マサトは慎重に言葉を選びながら話を進めた。


「俺たちは今、ここから出る方法を探している。そのためにはアンタの協力が必要だ」


 武神は興味なさげに目を細める。

 その態度に構わず、マサトは更に説得を続けた。


「この学校から脱出するためには、俺たち全員が友達として『仲良くする』ことが鍵だと思っている。どうか力を貸してくれないか?」


「くだらぬ」


 マサトの頼みを一蹴いっしゅうする武神の言葉。一連のやり取りを見ていたサラマンディアは、瞬時に苛立ちを爆発させた。


「おいデカブツ野郎! うちのダンナがこんなにも『お願い』してんだから、むしろ喜んで協力しやがれ! てゆーか、アンタが協力しないとアタシらもこっから出られないんだっつーの!!」


「知ったことではない」


 武神はそれ以上語ることもなく、再び目を閉じ坐禅を再開した。

 彼の現在の好感度は『好感度0【興味なし】』。

 武神にとって、マサトは『どうでもいい』存在なのだろう。


 いや、そもそも本来の武神の性格からして『武を極める』ことと『武を競い合う強敵』以外に興味を持つとも思えない。


 武神の態度がよほど頭にきたのか、サラマンディアは彼に詰め寄ってギャーギャーと文句をぶつけている。そんな彼女の言動や態度をすべて黙殺し、武神は姿勢を正して瞑想にふけっていた。


「どうします、マサトさん。これはかなり手強いですよ?」


「そうだよね。サラマンディアさんに頭をペチペチ叩かれてるのに、全然反応しないもん」


 誠純と向日葵も、武神のかたくなな態度に打つ手なしといった様子だ。マサトは腕を組み、考えを巡らせる。


(手がないわけじゃない。まだ探索できていない『準備室』と『職員室』。ここにはもしかしたら、カード以外の『好感度を上げる手段』が存在するかもしれない。それを使えば武神の好感度を操作し、頼みを聞いてもらうことも可能だろう)


 だが、問題もある。1つは『時間』の問題。学校の『統合』より前の脱出を目指しているマサトにとって、今から準備室や職員室を探索する時間的余裕があるとは思えない。


 そしてもう1つは『心』の問題。今回の好感度操作は『強制されたランク付け』や『破滅を回避するための好感度カード』の時とは状況が違う。

 

 今の武神とは対話が可能だ。ならばきちんと『言葉による説得』で協力してもらうのが筋ではないだろうか。それが人間同士が関係を築いていくうえで、守るべき礼儀だとマサトには思えた。



――――何より好感度によって人の心を操作する行為に、これ以上慣れたくはない。



 マサトは武神に食ってかかるサラマンディアを下がらせると、一度だけ深呼吸をしてから口を開く。


「武神、アンタの気持ちは分かった。だが、これだけは聞かせてほしい」


 武神は何の反応も示さない。

 マサトは構わず言葉を続けた。

 

「アンタにとって、この場所は『興味がある』ものなのか?」


――――無言。


「この場所に、アンタの求める『武のいただき』はあるのか?」


――――わずかに、武神の指が動いた。


「アンタはここに留まるのか? ずっと、この空虚くうきょな学校に居続けるのか? アンタが全てを捨てて歩んできた『道』の終着が、この場所で満足なのか?」


――――武神はゆっくりと目を開き、マサトを見据える。


 マサトはその視線にひるまず、正面から受け止めた。


「俺は、アンタの『武の友』にはなれない。アンタと拳を交えることも、同じ道を歩むことも出来ない」


 マサトの拳には自然と力が入り、その瞳には不思議な『熱』が宿る。武神を始め、この場にいる誰もがマサトの言葉に聞き入っていた。


「それでも今、俺たちは『同じ場所』にいる」


 武神は何も語らない。ただ静かに、マサトの言葉に耳をかたむける。


「どれだけ異なる道を歩む者同士であっても、時には道が交わることもある。今、この瞬間、俺達が同じ場所にいることは、まぎれもない事実だ」


 マサトは一歩前に進み出て、武神と真正面から向き合った。


「アンタも、俺たちも、こんなしみったれた場所が終着なんかじゃない。閉ざされた扉を開いて、もう一度それぞれの道を歩きだすために。アンタの力、俺たちに貸してくれ!!」


 体育館に、マサトの熱がこだまする。


 武神は目を閉じ、その拳を強く握りしめた。

 彼が生涯をかけて磨き上げてきた武の結晶。大きく、固く、傷だらけな、彼の『誇り』。


 沈黙に満たされた体育館で、マサトは静かに武神の答えを待った。

 そして――――



「――――面白いことを言う」


 武神が発する重厚な声が響く。彼は再びマサトを見据えて語り始めた。


「異なる道も、時には交わる。人の世など捨てた身だが、人のことわりからは逃れられぬということか」


 武神は自分に語りかけるように言葉をつむいでいく。そして悠然ゆうぜんと立ち上がると、マサトを見下ろしながらはっきりと告げた。


「この場所が我が道をはばむものならば、汝らに力を貸すのもまた一興いっきょう」 


「……協力してくれるのか?」


 マサトの問いに、武神はただ黙って頷く。

 その様子を見ていたサラマンディアが、溜め息まじりに呟いた。


「やっと話が通じたわね、このデカブツ。遅いっつーの!」


「まぁまぁ。終わり良ければ全て良し、と思いましょうよ」


「誠純君の言う通りだよ! 仲間が増えたんだから、喜ばなくっちゃ!」


 誠純と向日葵も、それぞれに喜びを口にする。

 向日葵にいたっては、さっそく武神に自己紹介を始めていた。

 マサトはそんな彼らを見て、ホッと一息つく。


(これでようやく『4人の友達』が揃った。後はどうやって『扉』を開くかだな)



――――『時間経過で友達が増えます。仲良くしてね!』



 黒板に書かれていた『最初のルール』が扉を開く『鍵』であるなら、自分たちは『仲良くする』必要がある。問題は、どうすれば『仲が良い』と言えるのかだ。


『最初のルール』を使って『最後の扉』を開くために、マサトは考えを巡らせた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ