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異界遊戯執行部  作者: 春雪
友達教室編
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友達教室 第16話


「マサトさん、今戻りました」


「お、流石に早いな、誠純。どうだった?」


 下駄箱の残骸や上履きが散乱する昇降口を離れたマサトたちは、近くの空き教室に移動していた。

 4つの机を合わせた簡易の会議テーブルに集まった4人は、さっそく話し合いを始める。


「やはり駄目ですね。教職員用の出入り口とやらも開きません。念のため斬ってみましてけど、傷一つ付きませんでしたよ」


「予想通りだな。外に繋がる窓や壁も破壊できないことは、サラマンディアと武神が嫌と言うほど証明している。つまり教室の時と同じく、何か条件をクリアしないと脱出できない可能性が高い。それを踏まえたうえで、みんなの意見を聞かせてほしい。誠純、アレは持ってきてくれたか?」


「はい、どうぞ」


 誠純はマサトに1枚の紙を手渡す。それは校長室の机で発見した『学校統廃合計画書』だった。


「ありがとう。よし、じゃあ事情を知らないサラマンディアにも一から説明するぞ。この学校には気になる点がいくつかある。鍵がかかった『準備室』とか、まだ見ぬ『先生』の存在とかだな。その中で俺が最も気になっているのが、この『学校統廃合』の問題だ」


 マサトは計画書を誠純、向日葵、サラマンディアにも見えるように机に置いた。



《B高等学校 学校統廃合計画書》


・7回目のチャイム終了後、各学校の統合を進める。

(A+B、C+D)


・10回目のチャイム終了後、各学校の統合を更に進める。

(AB+CD)


・13回目のチャイム終了後。

【廃校】



「現時点で5回目のチャイムが鳴っている。あと2回チャイムが鳴ると、1度目の『統合』が始まるわけだ。率直そっちょくに聞くが、どう思う?」


 マサトの問いかけに誠純、向日葵、サラマンディアは計画書をジッと覗き込んで考える。最初に口を開いたのは向日葵だった。


「『B高等学校の計画書』ってことは、私たちがいるこの学校の名前って『B高等学校』になるんだよね? なら1回目の『A+B、C+D』の意味は、私たちは『A高等学校と一緒になりますよ』ってことじゃない?」


「おー、ヒマワリ。アンタ、なかなかヤルじゃん!」


「え? えへへ……」


 サラマンディアにめられて気を良くした向日葵は、更に推測を続けた。


「ほら、最初の教室で黒板に『時間経過で友達が増えます』って書かれてたじゃない? つまり『A高等学校の人たちとも友達になろう!』ってことなんだよ!」


「ふっふーん、甘いわねヒマワリ。こんなイカれた監獄じみた場所を用意する連中が、そんなお花畑みたいなこと考えるワケないじゃん」


「ええっ!? じゃあサラマンディアさんは、どう思うの?」


「ズバリ、殺し合いよ!!」


「……サラマンディアさん。あれだけ暴れておいて、まだやるつもりですか?」


 誠純が呆れて溜め息をつく。

 そんな事は一切気にせず、サラマンディアは自信満々に自分の考えを語り始めた。


「統廃合計画書だっけ? こんなの、難しく考える必要はないわ。これは『トーナメント表』なのよ。要するに、学校同士で殺し合って『最後に勝ち残ったチームが脱出できる』ってワケ!」


「じゃあ、何で最後は『廃校』なんです?」


「え?」


 誠純の鋭い質問に、得意げに話していたサラマンディアの表情が固まる。


「そ、それは……そう!『時間制限タイムリミット』よ!『13回目のチャイムまでに、敵を皆殺しにしないとダメよ』ってこと!」


「なるほど、それなら辻褄つじつまは合いますね」


 顎に手を当てながら頷く誠純。彼はその後、マサトの方へと視線を移す。


「マサトさんは、どう考えているんですか?」


「そうだな、今のサラマンディアの意見を聞いて確信したよ」


 マサトは眼鏡をかけ直すと、真剣な面持ちで話し始める。


「学校の統合は待つべきじゃない。7回目のチャイムが鳴る前に、ここから脱出するのが理想だ」


「えええっ!?」


 マサトの意見を聞いた向日葵は目を丸くして驚いた後、質問を口にした。


「でもマサトさん、そもそも脱出するために『統廃合』が必要ってことなんじゃないの?」


「もちろんその可能性もある。だが、それ以上に『統合』には大きなリスクがともなうんだ。誠純、向日葵、よく考えてみてくれ」


 マサトはそこで言葉を切って、隣りにいるサラマンディアに視線を送る。


「もし相手の学校にサラマンディアと同じ意見を持ったヤツがいたら、どうなる?」


「「あー……」」


 こちら側に戦う意志がなくとも、相手がその気なら強制的に殺し合いが始まる。

 そして今度は『多人数同士の乱戦』になる可能性が非常に高い。

 マサトを殺しに来る者も、1人だけとは限らなくなる。


「もう、マサトぉ、そんなこと気にしてたのぉ? マサトにケンカ売ってくるヤツなんか、アタシが全員ブチ殺してあげるのにぃ」


「それはとても頼もしいが、守られてばかりじゃ格好がつかないからな」


「あーん、好き!」


 たちまち蕩けた表情になったサラマンディアは、即座にマサトの腕に絡みつき、頬ずりを始めた。

 もはや見慣れた光景に誠純と向日葵は苦笑しつつ、マサトへ話の続きを促した。


「でもでもマサトさん。それじゃ、どうやって脱出するつもりなの?」


「そのヒントは向日葵、君が教えてくれたよ」


「えっ!? 私!?」


「ああ。君が話していたのは、最初の教室に『時間経過で友達が増えます』と書かれていた。だから『A高等学校の人たちとも友達になろう』だったよな」


「う、うん。そうだけど……」


「よく思い出してみてくれ。黒板に書かれていたのは『時間経過で友達が増えます』だけじゃなかっただろう?」


 マサトの話を聞いて、誠純が記憶を探りながら答える。


「えーと、確か『時間経過で友達が増えます。仲良くしてね!』でしたか?」


「その通り。俺も今までは『時間経過で友達が増えます』がルールの説明であり、重要な部分だと思っていた。だが『仲良くしてね!』まで含めて1つのルールだったとしたら、どうだ?」


「どうだ? って言われても……どうなるのよぉ、マサトー」


 身を擦り寄せて問いかけてくるサラマンディアに一瞬だけ気を取られつつ、マサトは眼鏡をかけ直して話を続ける。


「『時間経過で友達が増えます。仲良くしてね!』。この空間は、時間とともに増えた友達と『仲良くする』ことを求めているんじゃないか? だとしたら、俺達にはまだ『仲良くなれていない友達』がいるだろう?」


「それって、まさか……」


「そう。最後の友達……『武神』だ」


 マサトは向日葵の意見を聞いて、始まりの教室で提示された『最初のルール』が、この学校において最重要なのではないかと考えた。


 この学校には『学校統廃合』を始めとして、『準備室』や『先生』など謎が多く残っている。しかしマサトは、学校で目覚めた直後に目にした『黒板の文章』こそが、この学校の根幹こんかんにある気がしたのだ。



――――友達と仲良くする。


――――とても単純で、当たり前な『学校のルール』。



「……探しに行こう、最後の友達『武神』を。アイツもまだ学校のどこかにいるはずだ」


 その言葉をきっかけとして、マサトたち4人は空き教室を後にする。1度目の『統合』まで、残すチャイムはあと2回のみ。


 それまでに武神を見つけ、彼と『仲良く』なる必要がある。




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