異界邸宅 第4話
「それでは手始めに、この家を詳しく調べることから始めてみましょうか。レンヤさん、あなたはこの家に関してどれくらい把握していますか?」
「そうだな、どの扉や窓からも外に出られないことは確認済みだ。その後すぐに召喚を行ったから、細かいところまでは把握できていないな」
「それでは気になるポイントを一つ一つチェックしていきましょう。何か脱出のヒントが掴めるかもしれません」
藍歌はソファーからゆっくりと立ち上がり、レンヤもそれに続く。
脱出に向けて、本格的な調査が始まった。
◇◇◇
《この家の気になるポイントその1》
【監視カメラ】
「まず気になるのは、この監視カメラですね」
「ああ。リビング以外に、廊下や玄関ホールでも見かけた。ただ個室には無かった気がするな」
「そちらは後で確認してみましょう。それよりもこの監視カメラ、集音マイクとスピーカー付きのようですよ」
「つまり通話ができるというわけだな」
レンヤと藍歌が最初に注目したのは、リビングの天井に設置された監視カメラだった。
リビングの高い天井から、2人を無機質に見下ろしている。
この家が執行部による実験場だとすれば、カメラの向こうにいるのは執行部の人間ということになるだろう。
「……試してみるか」
レンヤは監視カメラを見上げながら、ゆっくりと近づいていく。
レンヤの次の行動に予想がついたのか、藍歌は黙って様子を見守っていた。
「執行部、聞こえているなら答えろ」
――――沈黙。
「このゲームの目的は何だ? 実験のつもりか?」
――――沈黙。
「俺たちに何をさせたい?」
――――沈黙。
「この家に出口は存在するのか?」
――――沈黙。
カメラは何か反応を見せることもなく、ただレンヤを見下ろすのみだ。
レンヤは大きく息を吐き、藍歌の方へ向き直った。
「ダメだな、何も返ってこない」
「まぁ、そうでしょうね。ただスピーカーが付いている以上、このカメラを通して何らかの指示が通達される可能性はあります」
「……今は待つしかないか」
【監視カメラ 調査結果】
・監視カメラには集音マイクとスピーカーが付いており、通話が可能だと思われる。
・こちら側からの質問に応答はない。
・カメラは各個室のほか、トイレやバスルームにも設置されてはいなかった。
◇◇◇
《この家の気になるポイントその2》
【11部屋の個室】
「随分と個室の数が多いと思ったが、11部屋もあるとはな」
「ええ、部屋の造りはどれも同じ。これ見よがしに立派なダブルベッドが置いてありますね」
調査を始めてみると、思った以上にこの豪邸のような家を調べるのは大変だった。
個室の他にもトイレやバスルーム、娯楽室など大人数でも十分暮らしていける設備が万全に整えられている。
藍歌はレンヤの隣を歩きながら、彼の顔をからかうように覗き込んだ。
「良かったですね、レンヤさん。適性者一人に対して、女性キャラ10人を喚んでも大丈夫な部屋数です。ハーレム生活を満喫できますね」
「好感度がマイナスじゃなければな」
レンヤは藍歌から視線をそらしながら、居心地悪そうに答えた。
そして個室が並ぶ廊下を改めて見渡し、思案する。
「でも……だとすると、なぜ召喚できる女性キャラの人数は10人じゃなくて『無制限』なんだろうな? 実際にそんなに大勢召喚するバカがいるかどうかはともかく、部屋が足りなくなる可能性もあるだろう?」
「減る可能性も考慮しているのでしょう」
あっさりと口にした藍歌の回答に、レンヤは静かに目を見開いた。
外に出られないこの家で人が減る。
それはすなわち、死による退場だ。
「……つくづく油断ならない家だな、ここは」
「いいえ、レンヤさん。本当に油断ならないのは人間の方ですよ」
「だからレンヤさんも気をつけてくださいね」と微笑む藍歌を見てため息を吐きつつ、二人は次の調査場所に足を進めた。
【11部屋の個室 調査結果】
・部屋の造りはどれも同じである。
・部屋には立派なダブルベッドが置いてある。
・監視カメラは無し。念のため盗聴器などの存在も探してみたが、現時点では見つかっていない。
「面白い!」と思った方は、ブックマークや評価などしていただけると嬉しいです。