友達教室 第14話
「うぅー! また『好感度+0』のカードだぁ! どーなってるのー!?」
重苦しい空気に包まれた校長室で、向日葵が不満の声を上げる。彼女は本棚の隙間からカードを発見したようだ。
しかし、その記載は『好感度+0』。
「こんなの絶対おかしいよ! 何枚もカードを見つけてるんだから、せめて+5とか+10くらいはあっても良くない!? ねぇ、誠純君!」
「ぼ、僕に言われましても……」
気持ちが収まらないのか、向日葵は『好感度+0』のカードを手にして誠純に詰め寄っていた。
「うーん、それとももしかしたら、この『好感度+0』のカードにも何か意味があるのかなぁ?」
「意味、ですか?」
「だって、こんなにいっぱい出てくるんだよ? 何か重要な意味が隠されてるかもしれないじゃん!」
(好感度+0のカードに……意味?)
向日葵と誠純の会話を聞きながら、マサトはポケットから『好感度+0』のカードを取り出す。
好感度+0、当然だが『0』はいくら足しても『0』のまま。
故に『好感度+0』のカードに意味はなく、単に『好感度を上げる手段が存在する』ことを示唆するためのアイテムと考えていた。
しかし向日葵が言う通り、別の視点で考え直してみる事も悪くないかもしれない。
(閉ざされた教室に書かれていた『黒板の文字』。あれは『ルールの説明』であり『予告』でもあった。それと同じように、このカードにも二重の意味が存在する……なんてことはないか?)
マサトは『好感度+0』のカードを見つめ、手がかりを求めて頭の中の記憶をゆっくりと辿った。
教室の時も、脱出の鍵は最初に提示されていた。
自分がすでに、重要なヒントを手に入れている可能性も否定できない。
(手に入れている、といえば……。俺は何で『コイツ』を持っているんだ?)
マサトはそっと腰のホルスターに触れる。
教室で目覚めた時から所持していたらしい、一丁の拳銃。そして、一発の銃弾。
冷たく重い金属の感触が、今もそこにあった。
(この銃は何を撃つためにある? 守るため、殺すため、それとも壊すためか?)
たった一発の銃弾、たった一度きりの銃撃。
それでいったい何ができるのか、何が変わるのか。
マサトは再び、手に持ったカードに視線を移す。
(『好感度+0』のカードに、意味……)
マサトは一つの決心をして、流れるような動作で拳銃を取り出す。
「誠純、向日葵。下がって耳を塞いでいろ」
「え?」
「マサトさん?」
マサトは『好感度+0』のカードに銃口を向ける。そしてカードの中央に記されている『+』の記号に照準を合わせた。
――――パン!
乾いた破裂音が室内に響く。
一瞬の沈黙の後、マサトは銃をホルスターに戻し、銃弾に撃ち抜かれたカードを確認する。
『好感度+0』と記載されていたカードは『+』部分をキレイに穿たれ、穴が空いていた。
――――好感度●0
――――好感度 0
その瞬間、マサトの端末が振動し、新たなメッセージが届けられる。
『好感度0を取得しました。友達アプリから使用できます』
マサトは通知を確認後、即座に友達アプリを起動して『武神』の名前をタップする。
『武神に使用する選択肢を決定してください』
・好感度+0(17)
・好感度0(1)
迷うことなく『好感度0』を決定した。
ピコン、という電子音が鳴り、選択肢が終了する。マサトは祈るような気持ちで、友達リストに目を向けた。
【友達リスト】
・沖田 誠純『好感度50【友情】』
・轟 向日葵『好感度0【興味なし】』
・灼死のサラマンディア『好感度100【親愛】』
・武神『好感度0【興味なし】』
武神の好感度が【破滅的憎悪】から【興味なし】に変わっていた。
「……やった。――――やったぞ!!」
マサトは歓喜とともに、腰元のホルスターを握りしめた。
この銃は単なる武器というだけではない、好感度を操作する仕掛けの1つでもあった。
無意味なカードに、意味を与えるための鍵だったのだ。
「マサトさん、音が……」
誠純に指摘されて気が付く。
常に学校中に聞こえていた戦闘音が、いつの間にか止んでいた。
マサトは端末をポケットにしまうと、眼鏡をかけ直して口にする。
「迎えに行こう、サラマンディアを」
マサト、誠純、向日葵は校長室を飛び出し、廊下を駆け抜けた。
命がけで戦ってくれた、友達のもとに向かうために。




