友達教室 第13話
「マサトさん! これを見てください!」
マサトは懸命に『好感度+100』のカードを求めて走り回っていた。そんな彼を呼ぶ声が、学校の廊下に響き渡る。
急いで声のもとへ駆けつけると、誠純が『職員室』の前に立っていた。
誠純はマサトの姿を見つけてすぐに、職員室のドアに貼られている1枚の紙を指さす。そこにはこう書かれていた。
『教職員の許可なく立ち入りを禁ずる』
(教職員? この学校には『先生』が存在するのか?)
少し遅れてやってきた向日葵は張り紙を見た後、試しに扉の取っ手に手をかけてみる。
「うぎぎぎ……ダメ、やっぱ開かないや。こうなったら爆破して……!」
「ストップだ、向日葵。おそらくこの扉も、条件をクリアしないと開かない仕組みだろう」
マサトは職員室の扉も、最初の『閉ざされた教室』や『準備室』と同じ仕様だと考えた。
ただ鍵がかかっている、というだけではない。
まるで時間が封印されているかのような、完全な静止状態だ。
(『教職員の許可なく立入りを禁ずる』。職員室に入るには『先生』の許可が必要ということか? カードを探すために、鍵も先生も探す。これじゃキリがない!)
時間が少ない中で、探し物ばかり増えていく。
流石にマサトの心中で焦りが頂点に達しようとした時だった。
「あ! ねぇねぇ! こっちの部屋には入れるみたいだよ!」
マサトが声の方へ視線を向けると、すでに部屋の中に入っていた向日葵が入口から手を振っていた。
目線を上げて部屋のプレートを確認すると、そこには『校長室』と書かれていた。
(職員室に入るのは許可が必要なのに、校長室は勝手に入れるのか?)
そんな疑問を抱きつつも、マサトは誠純を連れ立って校長室の探索を開始した。
整然と並んだ本棚、重厚な木製の机、応接用のテーブルとソファー。ざっと見る限り、一般的にイメージする普通の校長室だ。
だがこの部屋には、明らかに異様な部分があった。
「げっ!? なんだこの『歴代校長の写真』は!? 機械……いや、ロボットか?」
校長室の天井近くに飾られていた、いくつもの額縁入りの写真。
普通の校長室であれば、歴代校長の顔写真が並んでいるところだが、この部屋では奇妙な機械の写真に置き換わっていた。
金属の装甲、動力パイプ、発光するセンサー、それらを繋ぐ筋肉。
あえて呼ぶなら『生体ロボット』とでも表現すべき、異形の機械たちの写真が飾られている。
ここまでくると、不気味を通り越して一種のホラーだった。
(校長がロボット、ということは『先生』もロボットなのか? この写真は、そのためのヒントなんだろうか……)
顎に手を当て『生体ロボットの写真』を眺めているマサトに、誠純が声をかける。
「マサトさん、こちらでも妙なものを見つけましたよ?」
誠純に促されて目にしたのは、校長の机の上に置かれた1枚の紙。
そこには不可解な文章が記されていた。
《B高等学校 学校統廃合計画書》
・7回目のチャイム終了後、各学校の統合を進める。
(A+B、C+D)
・10回目のチャイム終了後、各学校の統合を更に進める。
(AB+CD)
・13回目のチャイム終了後。
【廃校】
「……統廃合? チャイムの回数に応じて、学校同士が統合される?」
そして13回目で廃校。廃校とは、いったい何を意味するのか。
「少なくとも、いい予感はしないな」
――――キーン、コーン、カーン、コーン。
狙いすましたかのように流れるチャイムの音。
マサトは思わず眉をひそめて、机に置かれた計画書を睨んだ。
(『友達』が現れる前に1回ずつチャイムが鳴った。これでチャイムは5回目。あと2回鳴ったら、1度目の『統合』が始まる)
現段階では統合によってどんな事態が起こるかまでは分からないが、計画書によると統合の行き着く先は『廃校』だ。
廃校とは、このゲームの『終了』を意味するのだろうか?
マサトはあらゆる意味で、自分たちには『時間がない』と思わずにはいられなかった。
その時――――
――――ドォォォォォン!!
凄まじい爆発音とともに、学校全体が震えた。
マサトは校長の机にしがみついて、転倒しないようにバランスをとる。
揺れが収まると、静寂が校舎内を支配した。
(――――サラマンディア!!)
爆発の中心にいたのは、間違いなく彼女だ。
マサトの背中に嫌な汗がつたう。
しばらくすると、再び振動と爆発音が聞こえてきた。
「……大丈夫です、マサトさん。戦闘が続いているなら、サラマンディアさんは生きていますよ」
誠純の言葉でマサトは思考を再起動させる。
サラマンディア……。彼女は今も、命がけで戦っている。しかしその残り時間は、あまり多くはないように思えた。
(今から『鍵』や『先生』を見つけて扉を開け、その後カードを探す? そんな時間があるか? 学校統廃合の問題もある。何より、サラマンディアがもたない……!!)
一刻も早く『好感度+100』のカードを入手しなければ。
でないと、あらゆるものが手遅れになる。
マサトは今、間違いなく運命の分岐点に立っていた。




