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異界遊戯執行部  作者: 春雪
友達教室編
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友達教室 第12話

 轟音とともに一際ひときわ強い衝撃が空気を揺らす。

 同時に灼熱の奔流ほんりゅうを纏った影が、凄まじい勢いで吹き飛ばされ、廊下を転がった。


「サラマンディア!!」


 廊下に倒れ込む影の正体に気付いたマサトは即座に駆け寄る。

 サラマンディアの服はいたるところが破け、アーマーはつぶれ、その身は傷だらけだったが、それでも彼女は笑っていた。


「……っは、あのデカブツ、大砲みたいな拳圧をバカスカ撃ってきやがって、バケモンがよォ……。殺しがいあるじゃん」


 息を切らせながら、それでも立ち上がろうとする彼女の姿は、マサトの中で決定的な意識を芽生えさせた。例えサラマンディアが戦闘狂であろうとも、彼女の命がけの戦いに自分は救われている。


 ならば自分も、彼女のために『何か』をかけるべきだ。



「サラマンディア……!!」


「ん、なーにマサト。危ないから、ちゃんと離れてなきゃダメよ」


 好戦的な戦士の顔をおさめ、サラマンディアはマサトに退避をうながしてくる。

 しかしマサトには、どうしても彼女に伝えなければならない言葉があった。


「サラマンディア、よく聞いてくれ。俺はこれから誠純や向日葵と一緒に『好感度+100』のカードを探しに行く。その間、君には命がけで時間を稼いでもらいたい」


「……カード?」


 サラマンディアは戸惑いの表情を浮かべていた。

 武神との戦いでカードの存在を知らない彼女は、マサトの言葉の意味をほとんど理解できないだろう。だが今は、詳しく説明している時間がない。


「そうだ、俺たちは必ず勝利の切り札を見つけ出す。その時まで君の命、俺に借してくれ。その代わり、俺は残りの人生の全てをかけて、必ず君を幸せにするとちかう」


 マサトはサラマンディアの両肩を掴むと、真正面から彼女を見つめて宣言した。



「――――結婚しよう」





「……は?」



 サラマンディアは目をまん丸にして硬直する。

 彼女の顔がみるみる赤く染まり、それに比例して周囲の熱も上昇していく。


「え、え、えええええぇっ!!? プ、プロロ、プロポーズ!? それ、プロポーズ!? やったやったやったぁーーーー!!」


 両手で顔を覆い、火花を散らして床を転げ回るサラマンディア。

 その喜びようは狂気の殺戮者とは思えない、純情な乙女そのものだった。


 しかし、そんな甘いひと時も長くは続かない。

 炎がくすぶる廊下に、重々しい足音が響く。

 武神は圧倒的な闘気をたずさえて、こちらに一歩一歩近づいてくる。


 その気配を察知し、サラマンディアの表情が一瞬にして戦士の顔に戻った。

 

「……めちゃくちゃイイ気分だったのに。デカブツ野郎ォ……!!」


 幽鬼ゆうきのようにユラリと立ち上がったサラマンディアの周囲に灼熱が揺らめく。

 彼女は武神をひとにらみした後、マサトの方へ振り返った。


「じゃ、行ってくるね、マサト。あなたの奥さん、すっごくガンバっちゃうから。必ず迎えに来てよね!」


「それくらいの甲斐性かいしょうはあるさ。行って来い!」


 サラマンディアの足元から紅蓮の炎が湧き上がる。壁、床、天井のすべてに爆炎が走り、灼熱の殺意が武神に牙をく。


――――炎と熱の申し子、紅蓮の戦闘狂『灼死のサラマンディア』


 地獄の炎を従えて、彼女は再び戦場へと戻っていった。その背中を、マサトは黙って見送る。


――――彼女の命は預かった。俺も、俺の役割を果たすだけだ。


 焦げ付いた廊下を強く蹴って、マサトは走り出した。

 目指すは『好感度+100』のカード。

 運命を覆す、逆転の切り札を求めて。



◇◇◇



 カードを求めて廊下を駆けるマサトは、すぐに誠純たちと合流し、校舎内を探し回った。


 食堂、体育館、図書室、放送室、屋内プール、そして数多くの空き教室。いたるところで、カードを見つけることはできた。


 だがそのたびに、失望の声が上がる。


「くぅぅー、また『好感度+0』のカードぉ!? もう何枚目ー!?」


「こっちも同じです。ちょっと変ですよね、これ」


 向日葵が顔をしかめ、その隣で誠純が呟く。

 あれからカードはいくつも発見できた。

 しかしその表記はすべて『好感度+0』と書かれたものばかり。


(どういうことだ、何か見落としているのか? それともカードの出現には条件でもあるのか?)


 マサトは手元の『好感度+0』のカードを見つめながら考え込む。その顔には焦りがにじんでいた。


「マサトさん、やはり先ほどの『鍵がかかった部屋』を調べてみるべきでは?」


「そうだな……」


 誠純の言う通り、校内の探索中に気になる場所があった。


 化学準備室や美術準備室など、各実習室に隣接りんせつする『準備室』には、鍵がかかっていて入ることができなかったのだ。


 一度だけ誠純が斬撃で打ち破ろうとしたが、結果は教室に閉じ込められていた時と同じく、ドアには傷一つ付かなかった。


(単純に考えるなら、準備室に入るためには『鍵』が必要ということか。カードを探すために、鍵を探す。探しものばかり増えていくな……)


 マサトは少し悩んだ後、誠純と向日葵に向き直って口にした。


「確かに『鍵がかかった部屋』も気になるが、まだ調べていない場所もある。今はそちらを優先しよう」


「分かりました」


「オッケー! 絶対に見つけてやる!」


 3人は『好感度+100』のカードを探すため、再び廊下を走り出す。校内には、いまだサラマンディアと武神の戦闘音が響いている。


 込み上げてくる不安を抑え込み、マサトは希望を求めて探索を続けた。



 


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