友達教室 第8話
「ねぇねぇ、マサトー。手、もっとギュッてしていい? アタシ、こんなワケの分からない場所に閉じ込められて不安なの」
「あ、後でな。今は探索に集中しよう」
マサトはサラマンディアの恋の猛攻に苦戦しつつ、生き残りをかけた教室調査を進めていた。
机やロッカーはもちろん、壁や天井、床に窓。あらゆる箇所を入念に調べ上げた。しかし⋯⋯。
――――何も無い。
(そんなはずは……。4人目が出現し、ランク付けを終えたらゲームオーバーだ。教室に変化があるとすれば、このタイミングしかないだろ?)
好感度の選択肢は残すところ【破滅的憎悪】のみ。そして【破滅的憎悪】を選択したキャラは、マサトに攻撃してくる可能性が高い。
これまでに出現した友達の特徴は『高い戦闘能力を有したキャラ』だ。4人目の友達にも、この特徴は当てはまるだろう。
4人目のランク付けが終われば、この閉鎖された教室内に『マサトに好感を持つキャラ』と『マサトに憎悪を抱くキャラ』が存在することになる。
マサトの予想通りなら、そこから友達同士の超人バトルに突入するはずだ。
凡人のマサトが彼らの戦闘に巻き込まれて、無事でいられるとは思えない。
「誠純! 向日葵! そっちは何かあったか!?」
「いえ、こっちは何もありません」
「私もー! 隠しスイッチとかあればいいのにー!」
――――本当に、何も無い。
マサトは内心、押しつぶされそうな重苦しさを感じていた。
(この状況は、ゲームですらないのか? 初めから出口など存在しなかったのか?)
マサトは呆然として、教室の中央で立ち尽くす。
必死に思考を巡らせようとするものの、焦りから考えが上手くまとまらない。
「マ・サ・ト。そんなに心配しなくてもいいよ。アタシがアンタの敵も障害も、ぜーんぶゴミみたいに燃やしてあげるから」
「⋯⋯極端すぎないか?」
「単純なほうがいいじゃない。殺し合いも、恋もね!」
――――単純、か。
隙あらば身体を密着させてくるサラマンディアに苦笑しながら、マサトは眼鏡をかけ直す。
(いったん考えをリセットしてみよう。何か見落としがあるかもしれない)
◇◇◇
《マサトの推測まとめ》
(1)、この教室に『友達』として出現するのは、戦闘能力を持つキャラクターである。
(2)、ランク付けの選択肢は4つ。このことから、友達は全部で4人出現すると思われる。
(3)、【破滅的憎悪】を選択したキャラクターは、マサトに攻撃してくる可能性が高い。友達同士が教室内で戦闘を始めたら、常人のマサトは巻き添えで死亡するだろう。
(4)、(3)の理由により、【破滅的憎悪】は4人目に選択すべきである。
(5)、(4)の理由により、マサトにとってのタイムリミットは『4人目が出現するまで』である。
(6)、この状況がゲームであるなら、4人目が出現する前に『脱出の手がかり』が提示されるはずである。
(7)、最悪の場合、初めから出口など存在しないかもしれない。
◇◇◇
((7)は考えても仕方がない、無視一択だ。現状、サラマンディアで3人目の友達を迎えた。『何かある』なら、このタイミングだったはず。それが何も無いということは……)
マサトは今も懸命に教室を探索している誠純と向日葵を見た後、そっと眼鏡をかけ直す。
((6)は間違いだったということか? だが、だとすれば脱出するにはどうすればいい?)
1人目の友達、沖田 誠純。
2人目の友達、轟 向日葵。
3人目の友達、灼死のサラマンディア。
それぞれの友達が出現するたびに、マサトは念のため教室内を調べていた。
しかし、これまでに何の変化も発見できていない。
(3人目が出現しても、教室には何の変化も見られない。『変化が起こる』という考えが、そもそもの間違いなのか? つまり、脱出の手がかりは『最初から』提示されていた?)
すでに手がかりが提示されていたのであれば、変化が起こる必要はない。
マサトはこの教室で目覚めた後のことを、慎重に思い返してみた。
(印象に残っているものといえば……拳銃、携帯端末、ルールが記載された紙、友達アプリ、開かない窓と扉、そして⋯⋯)
――――黒板の文字。
マサトはサラマンディアを連れ立って黒板の前に行き、そこに書かれた文章をじっと見つめた。
――――『時間経過で友達が増えます。仲良くしてね!』
(『時間経過で友達が増えます』……か。確かに、この文章通りの出来事が教室で起こっている)
マサトは黒板に書かれた文字に指で触れてみる。
文字は普通のチョークで書かれているらしく、指でなぞった部分は消えてしまった。
指先には白いチョークの粉が付着している。
(仮に……仮にだが。黒板の文章が単なるルールの説明ではなく『予告』だったとしたら、どうだ?)
――――試してみる価値はある。
マサトは黒板消しを使い、黒板に書かれている文字をすべて消す。
彼の行動に、隣りにいるサラマンディアはもちろん、誠純と向日葵も手を止めて注目していた。
文字をきれいに消し終えたマサトは、しばしの間だけ思案する。
その後チョークを手に取ると、黒板に新たな文章を書き記した。
――――『この教室から出られます』
チョークを置き、マサトは一歩引いて黒板を見つめた。
(さぁ、どうなる?)
沈黙が教室内を満たす。
誠純、向日葵、サラマンディアの3人も、黙って黒板の文字を眺めた。
そして――――
――――カチリ。
静寂が支配する教室に、硬質な音が響いた。
マサトはゆっくりと、音が鳴った方向へと振り向く。
教室の扉が、わずかに開いていた。
「……はは。開いた!」
マサトは思わず右手でガッツポーズを作る。
閉ざされた空間に、光が差した瞬間だった。
「いやぁ、お見事ですよマサトさん。文字が鍵になっているなんて、普通は気付きませんよ」
「ほんと! すっごいね! 私たち、ようやく外に出られるんだ!」
「さっすがアタシのダンナじゃん! アタシのために頑張ってくれたんでしょう? もぅ、いっぱい愛しちゃう!」
(……まて、ダンナ? すでに恋人からランクアップしているだと!?)
新たな頭痛の種が増えたマサトだったが、『4人目の友達』が登場する前に、外への道を開くことに成功した。
果たして教室の外には、いったい何が待ち受けているのか。
マサトは3人の友達とともに扉の前に立ち、緊張しながらもドアの取っ手に手をかけたのだった。
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