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異界遊戯執行部  作者: 春雪
友達教室編
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友達教室 第7話


『灼死のサラマンディアをランク付けしてください。5分以内にランク付けが行われない場合、あなたは死亡します』


 マサトは端末に届いた通知を確認後、すでに慣れ始めた手つきでアプリを起動し、友達リストをチェックする。そしてリストに追加されていたサラマンディアの名前をタップし、選択肢を出現させた。



『灼死のサラマンディアのランク付けを行ってください』


・好感度100【親愛】

・好感度−100【破滅的憎悪】



(ここからが勝負だが……【破滅的憎悪】が選択できない以上、選べるのは実質1つだけだ)


 友達同士の戦闘を回避するために【破滅的憎悪】は選択できない。

 となると【親愛】を選ぶしか道がない。


 原作『罪歌の輪舞曲』において、サラマンディアは親愛とはかけ離れた人物だ。

 友人や恋人がいた描写もなく、殺し合いがもたらすスリルにせられた殺戮者さつりくしゃとして描かれていた。

 罪人を殺した数なら、七罰騎の中でも随一ずいいちのキャラクターだ。


 そんな彼女の精神に『好感度100【親愛】』は、果たしてどんな影響を与えるのか。


(そもそも狂人から向けられる【親愛】って大丈夫なのか? いや、どのみち【親愛】を選ぶ以外に道はないんだ……。いくぞ!)


 マサトは覚悟を決めて『好感度100【親愛】』を選択する。ピコン、という電子音が鳴り、友達リストが更新された。


 その後マサトは端末から目を離し、ゆっくりと振り返りながらサラマンディアの様子を確認する。

 そして――――


 

 マサトはじっとりと熱をびた瞳でこちらを見つめる、サラマンディアと目が合った。


(……ヤバくないか?)


 マサトの背筋にゾクリと悪寒が走る。

 サラマンディアは腰掛けていた教卓から降りると、陶酔とうすい興奮こうふん煮詰につめたような表情を浮かべてマサトに近づいてくる。


 彼女が一歩進むたびに、教室の温度が上昇していく。匂い立つような甘い熱が、サラマンディアから放たれていた。



――――執着、情欲、狂おしいまでの恋愛感情。



 サラマンディアは明らかに、愛という快楽のとりこになっていた。


(なにが【親愛】だよ! そんな次元じゃないじゃん! 説明は正しくしてくれよ、執行部!!)


 マサトは助けを求めるように、誠純と向日葵に視線を送る。2人はとろけきったサラマンディアの表情に、警戒心よりも困惑が勝っているようだった。


 より正確に言えば、2人は若干じゃっかん引いていた。

 

 サラマンディアの口元は笑みを浮かべているが、目だけは獲物を狙う肉食獣のソレだった。

 この瞬間、誠純と向日葵の思考は一致する。


((なんか、関わりたくない))


 2人は流れるような動作で回れ右をして、サラマンディアに道をゆずった。

 何も見なかったことにしたらしい。


(裏切り者がーーーーッ!!)


 マサトは心の中で世の無常をなげいた。 

 そんな彼の声なき叫びも虚しく、遂にマサトは壁際に追い詰められる。

 サラマンディアは遠慮も容赦ようしゃもなく、至近距離でマサトの顔を見つめた。


「……なんかアンタ、よく見たらすっごく良いね。うん、すっごくイイ……」


「アリガトゴザイマス」


 マサトは乾ききったのどで、無理やり返事をする。

 男として女性に好意を持たれることはもちろん嬉しいが、「今じゃない」感が心の9割8分くらいをめていた。


 その間にもサラマンディアはマサトの胸元にほおを擦り寄せ、恍惚こうこつとした表情を浮かべていた。


「やば……イイ匂い。こーいう気持ち、初めてかも。殺し合いよりアツくなってきちゃう……」


「せいじゅーん! ひまわりー! お願いだから助けてー!!」


 サラマンディアの猛攻によって限界を迎えつつあるマサトは、なりふり構わず助けを求める。

 彼は色んな意味で、いざという時にプライドを捨てられる男だった。


 流石に見ていられなくなったのか、向日葵が顔を真っ赤にして声を上げる。


「あ、あの! そこのアナタ! いくら何でもくっつきすぎだと思うよ! マサトさんも困ってるみたいだし!」


「マサト……? そっか、アンタの名前、マサトって言うんだ。名前も好き」


 何も聞いちゃいなかった。


「ねぇ、マサト。アタシの名前、サラマンディアっていうの。灼死のサラマンディア。アタシ、今日からマサトの恋人ね? いいでしょ?」


 サラマンディアは更にマサトへ身を寄せ、頬を赤らめながらもハッキリと宣言する。


 彼女は完全に『恋する乙女』と化していた。

 それも自制心など無く、常に全力投球するタイプのガチ恋乙女だ。


「えーと、サラマンディアさん? 僕もよく分かりませんけど、そういう事はもっと時間をかけて判断したほうが良いんじゃないですか?」


「なに? 邪魔すんの?」


 やんわりとたしなめようとした誠純に対し、サラマンディアは瞬時に殺戮者の顔へと変貌へんぼうする。

 自身に向けられた敵意を敏感に察知した誠純は、冷え切った目でサラマンディアをにらみ、刀に手をかけた。


 ただならぬ空気にどうしたら良いか分からなくなった向日葵は、ワタワタと視線を右往左往させるばかりだ。


 誠純が放つ殺気を感じ取ったサラマンディアは、獰猛どうもうな笑みを浮かべ始める。彼女の戦意に呼応こおうするように、その身にまとう熱気がぐんぐんと上昇していく。


(――――あっつ)


 サラマンディアの熱を間近で浴びる事になったマサトは、手遅れになる前に彼女を止めに入った。



「サラマンディア、少し落ち着いてくれ」


「落ち着く」


 さっきまでの戦意は何だったんだ、と突っ込みたくなる早さで熱を収めたサラマンディアは、あっという間に誠純から興味をなくして、マサトの腕にベッタリと絡みついた。


 幸せそうにマサトの腕に頬ずりする彼女を見て、誠純もあきれた顔で刀から手を離す。


「と、とにかく俺たちは、この教室から脱出するために力を合わせる必要がある。サラマンディア、君も俺たちに協力してくれないか?」


「する」


 この教室に登場した時のふてぶてしい態度は、いったいどこに置いてきたのだろう。

 マサトの協力要請に対して、盲目的もうもくてきかつ従順にうなずいたサラマンディアは、依然として彼の腕にしがみついたまま離れようとしない。


(原作のイメージと違いすぎるだろ。それとも、これが【親愛】の効果なのか? 殺し合いを回避できたことは喜ばしいが、やはり人の心を変える行為は複雑な気分になるな……)


 マサトは苦い思いを抱えながら、眼鏡をかけ直す。彼の腕には、サラマンディアがピッタリとくっついたままだ。


 もう一度、調査に集中する意味を込めて眼鏡に触れた後、マサトは誠純と向日葵をうながして教室の探索を開始した。

 


 マサトの予想通りなら、4人目の友達が登場する前に脱出の手がかりが提示されるはずである。


 ここからの行動が、彼らの運命を決める分かれ道となるだろう。



 

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