友達教室 第6話
「それでさ、それでさ! 私のもとになった怪獣『バクバドン』って言うんだけど、めっちゃ爆発するんだよね! 初めて変身した時、敵だけじゃなくて後ろのビルも吹っ飛ばしちゃって、上官にすごく怒られてさー」
「な、なるほど。それは大変でしたね」
「そうなんだよー。私、初めての出撃だったんだよ!? そりゃ、建物を壊しちゃったのは悪いと思ってるけど、避難は済んでたらしいし、何より怪獣が大暴れしてるんだもん!『早く倒さなきゃ』って頑張るのは、悪いことじゃないよね!?」
「な、なるほど。それは大変でしたね……マサトさぁーん!!」
どうやら誠純が限界を迎えたようだ。
ランク付けに関してある程度は考えがまとまったマサトは、誠純に助け舟を出すことにした。
「2人とも、随分仲良くなったみたいで何よりだ。そろそろ話し合いは一休みして、この教室を調べるのに協力してくれないか? 向日葵が現れたことで、何か変化が起きているかもしれないからね」
「もちろんです、マサトさん! 僕、力の限り教室を探索します!」
「あ、そういえば、この教室から出られないんだった! じゃ、私はあっちを探すね!」
こうしてマサト、誠純、向日葵の3人は改めて教室を調べ直すために、行動を開始した。
◇◇◇
マサトは教室内で変化が起きていないか、入念にチェックした。
途中、向日葵が怪人形態に変身して扉を打ち破ろうとする場面があったが、それはマサトが全力で止めた。
向日葵の爆破攻撃であれば、もしかしたらドアを破壊することも可能かもしれない。
だがその時は、爆発に巻き込まれたマサトの身体も吹き飛んでいるだろう。
向日葵の『バクバドン』は、屋内で使用するには完全に不向きな能力だ。
「それで、どうだった2人とも。何かおかしな点はあったか?」
「いえ、こちらは特に収穫はありませんでした」
「私もー!」
しばらく教室を探索した結果は『成果なし』。
しかし、マサトにとってはこの結果も予想の範囲内だった。
(この状況がゲーム、あるいは実験であるなら『脱出ルート』は必ず存在するはずだ。現時点で脱出の手がかりが見つからないなら、手がかりが提示されるのは3人目の出現後。3人目と4人目の間で、何かが起こる可能性が高い)
4人目が出現し、ランク付けを行ってしまえば超人バトルの開幕だ。
そうなったら、一般人代表のマサトは戦闘に巻き込まれてゲームオーバー。
ならば必ず、4人目の出現前に教室内で変化が起こるはず。
というか、そうでなければ困る。
マサトが不安と戦いながら生存戦略を練り上げていたその時、教室内に『あの音』が鳴り響いた。
――――キーン、コーン、カーン、コーン。
「おわっ!? チャイムだ!」
「……いよいよか」
突然の大きな音に、向日葵が驚きの声を上げる。
その横で、マサトは決戦に赴く気持ちでいた。
(ここからの行動がマジで大事だ。おそらく3人目をランク付けした後、何かが起こる。それを絶対に見逃すな!)
チャイムの余韻が空気に溶けていくと同時に、黒板前に光の靄が集まりだす。
輝きが教室内を明るく照らし、靄が徐々に人型を形作っていく。
やがて光が収まると、黒板の前には20歳前後の女性が立っていた。
「は? ここどこ? アンタら誰?」
言動、視線、態度。彼女はその全てに、他者に対する攻撃性を隠そうともしていない。
鮮やかなピンク色の髪をツインテールにまとめた髪型。燃える炎を連想させる紅蓮の双眸。
鎧とドレスが一体となった真紅のドレスアーマーを着こなし、豊満な肢体を見せつけるような、自信に溢れた立ち姿。
悪意と嘲りを混ぜ込んだ、美しくも狂気的な瞳がマサトたちに向けられていた。
(……最悪なキャラが来たな)
――――『灼死のサラマンディア』
アニメ『罪歌の輪舞曲』に登場する、戦闘狂の炎使い。
『罪歌の輪舞曲』は罪人たちが暮らし、看守によって統治される『監獄街』が舞台のバトル漫画を原作としたアニメ作品だ。
無実の罪で監獄街の住人となった主人公が、様々な過去を持つ仲間たちと協力し、絆を深めながら世の中の理不尽と戦っていく、ある種の王道ストーリー。
そしてサラマンディアは、主人公に立ちふさがる敵側のキャラクターだ。
彼女が所属する部隊の名は『七罰騎』。
七罰騎は、監獄街に住む罪人に大切な者を奪われた人々が支援者となって組織した『罪人狩り部隊』だ。
その目的は『より多く、より確実に、より惨たらしく罪人を殺す』こと。
そのために復讐に燃える支援者たちは、底なしの凶人7人を集めて、監獄街へと送り込んだ。
それが七罰騎。
炎と熱の申し子にして紅蓮の戦闘狂『灼死のサラマンディア』が所属する部隊だ。
(彼女は誠純や向日葵とは、あまりに気質が違いすぎる。サラマンディアが少しでも『遊び』を始めたら、この教室はあっという間に焦熱地獄になるぞ)
サラマンディアには倫理も常識も、命乞いも通用しない。享楽的で刹那的、殺し合いに快楽を見出す狂人だ。
「ねぇー、ここどこー? アンタに聞いてんのよ、おっさん」
「あ、ああ、失礼。実は私たちも、そのことで困っていまして……」
マサトは不可思議な教室のことをサラマンディアに説明する。
サラマンディアは心底つまらなそうにマサトの話を聞いた後、教卓の上に座って口にした。
「あっそ。じゃ、早く出られるようにしてよ。5分以内ね」
その言葉を最後に、サラマンディアはマサトから視線を外し、あくびをしながら足を組み直す。
同時に、マサトのポケットで端末が振動した。
画面を確認すると予想通り、例の通知が届いていた。
『灼死のサラマンディアをランク付けしてください。5分以内にランク付けが行われない場合、あなたは死亡します』
3度目のランク付けを強制するメッセージ。
マサトは溜め息を零しながら、眼鏡をかけ直す。
こうしてマサトは3人目の友達にして、最狂の問題児を迎えたのだった。




