友達教室 第5話
アニメのキャラクター『轟 向日葵』を新たな友達として迎えたマサト。
そんな彼のポケットが再び振動する。
(来たか……)
友達のランク付け。人の心をのあり方を、端末1つで変えてしまう行為。
強制されての行いとはいえ、いったいこの罪はどれほど重いのか。
マサトは胸の奥に冷たい痛みを感じながら携帯端末を取り出し、通知を確認した。
『轟 向日葵をランク付けしてください。5分以内にランク付けが行われない場合、あなたは死亡します』
予想通りの文言を見つめたマサトは、眉一つ動かさず、そっと向日葵へ視線を送る。
彼女は今も、誠純に向かって楽しげに話しかけていた。
「そんでね! 異星人が地球に送りつけてきた卵からドンドン宇宙怪獣が出てきちゃって、もうドッカンバッカンて感じで……。あれ? マサトさん、何かご用ですか!」
「……いやいや、私の事は気にせず話を続けてくれて構わないよ。誠純も楽しそうだ」
「ちょ、マサトさん!?」
実際のところ、誠純は今まで周りにいなかったタイプの女性である向日葵のおしゃべり攻撃に、タジタジになっている様子だった。
誠純は視線でマサトに助けを求めてきたが、マサトは心の中で「がんばれ!」と応援を送り、若者の成長を見届けることにした。
そうして元気いっぱいな向日葵の相手を誠純に任せ、マサトはランク付けに集中する。
まずは友達アプリを起動し、友達リストに向日葵の名前が追加されていることを確認。
更に向日葵の名前をタップして、誠純の時と同じく『選択肢』を出現させた。
『轟 向日葵のランク付けを行ってください』
・好感度100【親愛】
・好感度0【興味なし】
・好感度−100【破滅的憎悪】
(予想はしていたが、やはり『一度使用した選択肢は消滅する』システムか。だが、これで色々と見えてきたな……)
選択肢はもともと4つあり、1人の友達につき1つずつ消費していく。
つまり出現する友達は、全部で『4人』である可能性が高い。
(一番の問題は【破滅的憎悪】の存在だ。そして『出現する友達の傾向』が俺の予想通りなら、いずれこの教室は地獄になるだろうな)
マサトが考える、この教室に現れる友達の傾向。
それは『一定以上の戦闘能力を持つキャラクター』が出現するのではないか、ということだ。
すでに友達としてリストに登録された誠純と向日葵。2人はマサトなど足元にも及ばない、超人的な戦闘力を持っている。
この共通点が3人目、4人目にも適用され、やがてマサトが【破滅的憎悪】を選択した場合、何が起こるか?
(俺に憎しみを抱いた友達と、俺を守ろうとしてくれる友達の間で戦闘が起こるだろうな。こんな密閉空間で超人バトルが勃発したら、俺は戦闘の余波だけで死ぬぞ?)
確実に迫ってきている絶望的な未来を想像し、マサトは身震いした。
(死を先延ばしにするために【破滅的憎悪】は4人目までは選択できない。つまりこの空間は『4人目が出現する前に教室から脱出するゲーム』ということなのか?)
そう考えるなら、向日葵に選択できるのは【親愛】か【興味なし】のどちらかだ。
マサトは少しだけ悩んだ後、向日葵に対して【興味なし】を選択した。
(向日葵は強い善性を持った人物だ。興味のない相手であっても、話を無視したりはしない……はず。この選択は正解だと信じたいが……)
マサトが選択肢を決定したことで、友達リストが更新される。
【友達リスト】
・沖田 誠純『好感度50【友情】』
・轟 向日葵『好感度0【興味なし】』
マサトは端末から目を離し、誠純とのおしゃべりに夢中になっている向日葵を見た。
今のところ、彼女に変わった様子はない。
マサトに『興味がない』状態なら、わざわざ向日葵の方から話しかけてくることもないだろう。
(まぁ、彼女の相手は誠純に頑張ってもらうとして、残る選択肢は【親愛】と【破滅的憎悪】か。極端な2つが残ってしまったな……)
果たしてこの選択が、吉と出るか凶と出るか。
教室に響く向日葵の明るい話し声を聞きながら、マサトは静かに眼鏡をかけ直した。




