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異界遊戯執行部  作者: 春雪
友達教室編
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友達教室 第4話

 マサトは誠純の教室探索につられる形で、教室の各部をチェックしていた。

 教卓、机の中、ロッカー、掃除道具入れ。


 目に付く箇所は一通り調べてみたが、脱出の手がかりは何も見つからなかった。


 一方、誠純は教室の扉を引っ張ったり、軽く蹴ってみたりと試行錯誤している様子だった。


「はぁ、マサトさんの言う通りビクともしませんね、この扉。どういう原理なんだろう?」


 誠純は顎に指を当て、小首をかしげている。


「誠純、君の斬撃で扉を破壊できないか?」


「うーん……」


 妖魔すらほふる誠純の剣技であれば、この不可解な扉を打ち破ることも可能ではないだろうか。

 マサトの期待に応えるためか、誠純は足を半歩開き、刀に手をかける。

 そして――――



――――バチィィィンッ!!



「!?」


「駄目ですね。なんだろう、この手応え。結界を斬った時と似てるかなぁ?」 


 カチン、と腰の鞘に刀を納めながら誠純は呟く。

 扉には光る一筋の傷跡ができていたが、発光が収まると扉そのものには何の痕跡こんせきも残っていなかった。


(は? 今、斬ったのか? まったく何も見えなかったんだが?)


 マサトが認識できたのは、突如聞こえた破裂音。

 そして、清純が納刀するシーンだけだ。

 

(居合斬り……それとも単純に誠純の動きが速すぎるだけか?【友情】を選んどいてマジで良かったー!)


 仮に【破滅的憎悪】を選んでいたら、その瞬間にマサトの首は床に転がっていたかもしれない。

 

 フィクションの存在、常識外の戦闘力を持つキャラクター、誠純。

 リアル代表、人並みの運動能力で、ちょっと腰の痛みが気になりだした35歳、マサト。

 自分と誠純の間には、努力や根性ではどうにもならない『力の差』がある。


 それは創作物と現実の差、と言い換えても良い絶対的な『壁』だ。


 選択を間違える=死。

 そんな状況が、今後もマサトを待ち構えているかもしれない。 



「さて、これからどうしますか? マサトさん」


 誠純はマサトの方を向き直り、柔和にゅうわな笑みを浮かべた。マサトは一瞬だけ考え込むと、黒板に視線を向ける。


「……あれを待つしかないだろうな」



――――『時間経過で友達が増えます。仲良くしてね!』



 増える友達は、誠純だけではないのだろう。

 友達が全員揃うまで教室から出られないのか。

 それとも友達を迎えたうえで、何か条件をクリアする必要があるのか。


 とにかく、今は待つしかなかった。



◇◇◇



 誠純が現れてから数十分が経過。


 その誠純は、机の上に腰掛けて鼻歌を歌いながら、足を一定のリズムでブラブラさせていた。

 マサトはというと机に肘をついて椅子に座り、窓の外の白く霞んだ景色をただ眺めていた。


 そうして時は過ぎ――――



――――キーン、コーン、カーン、コーン。



「おや?」


「……来たか」


 誠純が教室に現れる際も鳴ったチャイムの音。

 おそらくこれが『友達が来る合図』になっているのだろう。


 その考えを裏付けるように、黒板の前に再び光のもやが集まり、輝きを増していく。


 誠純は机から降りると、徐々に人型を形作っていく光を油断なく見つめていた。

 マサトもコートの乱れを直しながら椅子から立ち上がり、新たな『友達』を迎える心の準備をする。

 

 やがて光が収まると、そこには活発な印象を受ける小柄な少女が出現していた。


「とわっ!? え? ここどこ!? 作戦区域でもなければ基地でもないよね!?」


(彼女は確か……『ファントム・ガイア』の向日葵だな。なるほど、今度はアニメのキャラが登場か)



――――『とどろき 向日葵ひまわり



 小麦色に焼けた健康的な肌。

 鮮やかなオレンジ色の髪をツインのお団子にまとめた、特徴的な髪型。

 黒と赤を基調とした、いかにも『悪の組織』といった雰囲気の制服。

 

 そんな陽と陰のイメージをかけ合わせた外見の少女は、少し混乱しているのかキョロキョロと辺りを見回している。



 TVアニメ『防衛結社 ファントム・ガイア』。

 向日葵はそのアニメに登場する政府公認秘密結社『ガイアス』の構成員だ。


 ファントム・ガイアは『怪人VS怪獣』をテーマにした作品で、マサトが視聴したのは1期のみだが、3期の制作も決定していた人気作だ。

 

 かつて世界征服を目論む悪の組織だった秘密結社ガイアス。

 しかし彼らの目論見は、地球に異星人が侵略を開始したことで頓挫とんざしてしまう。

 異星人は地球に向けて次々と『宇宙怪獣』の卵を送り込み、人類は滅亡の危機にさらされる。


 そこで共通の敵である宇宙怪獣に対抗するため、政府とガイアスは和解。

 政府は資金と人材を用意し、ガイアスは独自の『怪人改造技術』によって、対宇宙怪獣用の怪人を生み出す。


 そうして作られた怪人たちが、地球を守る戦力として戦うという異色の作品だ。


(アニメの雰囲気は全体的に明るかったけど、怪人に改造された『志願者』の出自が不明瞭だったり、怪人化の影響で記憶障害が出ていたり、そこはかとなく闇を感じる作品だったよなぁ……)


 怪人は人間の機能を強化・拡張した『第一世代』。

 動植物や虫の因子を融合し、変身能力を持たせた『第二世代』。

 宇宙怪獣から採取した因子を使用する『第三世代』の3つのタイプが存在する。


 向日葵は第三世代型の怪人で、宇宙怪獣『バクバドン』の因子を持つ爆破怪人に変身する。


 変身後はバクバドン由来の頑強な装甲と、アンキロサウルスのようなハンマー付きの尻尾『ドカント・ハンマー』を武器に戦う。

 打撃と同時に爆発も叩き込めるため、接近戦時の攻撃力は怪人の中でも上位に入る威力を誇る。


「すいませーん、そこの人たちー! えっと、私、轟 向日葵! ガイアス所属の怪人です! 地球を守るのがお仕事です! いきなりですけど、ここどこですか!」


 向日葵はマサトと誠純の2人に明るい笑顔を向けながら、ぴょんぴょんと近づいてくる。


「これはご丁寧な挨拶をどうも。僕は烈士、沖田 誠純です」


「れっし?」


「うーん、悪党と戦う正義の侍って感じですかねぇ」


「おサムライさん!? すごーい! カッコいい!!」


 向日葵は目を輝かせて誠純の周囲を跳ね回る。

 予想外のオーバーリアクションに、誠純も困惑気味だ。


「あー、コホン。初めまして、向日葵さん。私はマサトと申します」


「あ、はい! よろしくお願いします! メガネさん!」


「マサトです」


 マサトは向日葵の元気いっぱい破天荒はてんこうぶりをアニメで知っていたので、誠純ほど困惑はしなかった。

 そんな向日葵は好奇心を抑えきれない表情で、誠純に向き直る。


「ねぇ、誠純くん! その刀、みーせーて!」


「だ、駄目ですよ。危ないですから」


「えー? 私、頑丈だから大丈夫だよ?」


 同じ十代で、年齢が近い誠純と向日葵。

 2人がたわむれている様子を見ていると、この教室の異常さを忘れてしまいそうな、なごやかな気持ちにさせられる。

 マサトはそんな少年少女を見守りながら、スッと眼鏡をかけ直す。


(若さがまぶしいなぁ……)


 甘酸っぱいような苦いような。

 なんとも言えない感情を胸に抱きつつ、マサトは2人目の友達を迎えたのだった。




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