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異界遊戯執行部  作者: 春雪
友達教室編
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友達教室 第3話

「どうかしましたか?」



 端末の画面を見て固まっているマサトに、誠純が声を掛ける。

 それはマサトを心配しているというより、不信感から出た行動なのだろう。

 誠純はマサトに向けて、探るような視線を送っていた。


 しかし通知の内容に衝撃を受けているマサトには、そんな誠純の様子を気にする余裕はなかった。


「あー……、えーと、いやあのその……。ちょっと失礼」


 いったん考えを整理したかったマサトは、そそくさと誠純から距離を取り、端末を操作する。


『友達アプリ』を起動すると、友達リストに『沖田 誠純』の名前が追加されていた。


 マサトは更に沖田 誠純の名前をタップしてみる。すると、例の紙に記載されていたランク区分が『選択肢』として現れた。



『沖田 誠純のランク付けを行ってください』


・好感度100【親愛】

・好感度50【友情】

・好感度0【興味なし】

・好感度−100【破滅的憎悪】



 マサトは一度だけ誠純のほうを振り返った。

 机に軽く腰掛け、こちらをニコニコと見つめている少年剣士と目が合う。


 沖田 誠純。彼は一見、物腰が柔らかい好青年に見えるが、基本的に仲間の烈士以外を信用しない排他的はいたてきな一面も持つ。

 そして最大の問題点は、彼は相手が妖魔だろうが人間だろうが、殺しを一切躊躇ちゅうちょしないということだ。


 誠純は決して悪人ではない。

 しかし善人かと問われれば疑問符がつく。


 彼は『自分が興味を持ったもの以外には、とことん興味が薄い』タイプの人間だ。

 烈士として人々を妖魔から守っているのも『近藤さんや土方さんが喜ぶから』という理由だったはず。


(5分以内にランク付けを行わなければ死ぬ……。単なるブラフか、それともイタズラか? しかし――――)


 この教室のような閉鎖空間を用意し、本物のゲームのキャラクターまで召喚する。

 こんな非現実的なことが可能な連中なら、念じるだけで人を殺すことが出来ても不思議はない。


(無視するにはリスクが高すぎる。ランク付けはやるしかない。なら、どれを選ぶべきか……)


 まず【破滅的憎悪】、これはない。


『好感度』という表現から考えると、この選択肢は自分と清純の『仲の良さ』を選べるものだと推測できる。

 誠純から憎悪を向けられたら、即座に斬り捨てられて終わりだろう。


 残るは【親愛】【友情】【興味なし】だが……。



(ここは無難にいくか……)


 マサトは意を決して『好感度50【友情】』を選択する。

 ピコン、と軽やかな電子音が鳴った後、友達リストの情報が更新された。



【友達リスト】


・沖田 誠純『好感度50【友情】』



(これで取り敢えず『死』は回避できたのか?)


 マサトがホッと一息ついた、その時――――



「終わりました?」


「うおぉぉぉぉぉぉっ!?」


 マサトの耳元で、誠純の声がした。


 いつの間にか、彼はマサトの背後まで忍び寄っていたようだ。

 死の宣告を回避して油断していたすきをつかれ、マサトの心臓は大きく跳ね上がった。


「あは! すみません、ビックリしちゃいましたか? そういえば、おじさんの名前を聞いていなかったなぁと思いまして」


「あ、ああ、これは失礼。俺……いや、私はマサトと申します」


「マサトさんですか。改めまして、沖田 誠純です。以後、よろしくお願いしますね?」


 誠純は明るく微笑みながら、ペコリと頭を下げた。



(さっきまでよりも態度が柔らかくなった……か?)


 これがランク付けの影響なのだろうか。


 マサトが誠純に選択した『好感度50【友情】』。

 単純に解釈するなら、誠純はマサトに対して『友情を抱いている』ということになる。


(そんな洗脳じみたことが、こんなちっぽけな端末1つで可能なのか?)


 マサトはこの状況を用意した存在『執行部』に戦慄せんりつした。

 執行部の力は、まったく底が知れない。

 まるで悪魔の実験場にでも放り込まれた気分だ。


「ところでマサトさん。その堅苦しい喋り方、やめにしませんか?」


「え? ど、どういう意味ですか?」


「いやぁ、僕って昔から勘が良いみたいで、何となくそういうの分かっちゃうんですよね。今の喋り方、普段とは違うんでしょう? 気になっちゃうなぁ、僕」


 たしかにマサトは初対面の相手ということで、なるべく丁寧な口調で話していた。

 しかし誠純には、どうやらそれが違和感として感じるらしい。


 マサトは一度眼鏡をかけ直して気持ちを切り替えると、改めて清純に向き直る。


「……分かった、これでいいかな? 誠純」


「はい! やっぱり今の喋り方のほうが似合ってますよ、マサトさん」


 人懐っこい笑みを浮かべて喜ぶ誠純を見ていると、マサトの心はどうしようもなく痛んだ。



――――やむを得ない状況だったとはいえ、自分は誠純の心を捻じ曲げてしまったのではないか?


――――もしそうだとしたら、自分はどうやって責任を取ればいいのか?



 好奇心旺盛こうきしんおうせいな子犬のように教室の中を探索し始めた清純を横目に見つつ、マサトは溜め息とともに再び眼鏡をかけ直した。



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