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異界遊戯執行部  作者: 春雪
友達教室編
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友達教室 第2話

 マサトが腕を組んで、ぼうっと天井を見つめていると『それ』は唐突に起こった。



――――キーン、コーン、カーン、コーン。



 教室の壁掛けスピーカーからチャイムが鳴り響く。驚きのあまり椅子ごとひっくり返りそうになったマサトは、慌てて体勢を立て直し、周囲に視線を巡らせた。


(ビックリさせんなよ、チクショウ。心臓爆発したわ)


 心の中で悪態をついたマサトだったが、本当に驚く出来事はこれからだった。


 チャイムが鳴り終わった、その直後。


 黒板の前に光のもやが渦巻き、収束し、そして人型を形作っていく。

 非現実的な光景を目にして、マサトは思わず椅子から立ち上がった。


 やがて教室内を満たしていた輝きが収まると、黒板の前には1人の少年が立っていた。

 10代後半と思われる、中性的で非常に整った顔立ちの少年。

 信じられないことに、マサトはその少年の容姿に見覚えがあった。


(まさか……沖田おきた 誠純せいじゅん!? ゲームのキャラクターだと!?)


 

――――沖田 誠純。



 アーケードゲーム『斬魔烈士伝ざんまれっしでん』に登場する若き侍。斬魔烈士伝は架空の幕末日本を舞台とした横スクロール型のアクションゲームだ。


ふち』と呼ばれる暗黒世界の妖魔妖怪と手を組み、幕府打倒を目論む半人半妖の『屍士しし』が組織した戦闘集団『血屍隊けっしたい』。そんな屍士たちに対抗し、幕府や市民を守る侍『烈士れっし』たちが主役となる物語だ。


 沖田 誠純はプレイヤーキャラとして選択可能な登場人物の1人で、動きが素早く扱いやすいため、初心者向けのキャラという位置づけだった。


 烈士伝はマサトもゲームセンターでプレイした作品だが、あまりにも難易度が高すぎて途中で投げ出した記憶がある。


「あれ? どこですか、ここ。あの世って感じじゃなさそうだし。僕ってば、屍士たちの罠にでもかかっちゃいましたかねぇ。また土方ひじかたさんに怒られちゃうなぁ」


 誠純は史実の沖田 総司をモデルにしたキャラで、服装は青いだんだら模様の羽織が特徴だ。

 白い小袖こそでと灰色のはかま、そして腰帯こしおびに差した大小の日本刀。後頭部でひとつ結びにした、つやのある黒髪。


 彼の目付きは優しげだが、先ほどからマサトを観察するような鋭い視線を送っていた。



 ゲームのキャラクターが現実に現れる。


 普通なら「あり得ない」と一笑にすこの状況。

 だがマサトには「彼は本物の沖田 誠純である」という、不思議な確信があった。


「なぜ、沖田 誠純が……」


 思わず、呆然と口にした一言。

 だがマサトは、すぐにそれが失敗だったと悟った。



「――――そこの御仁ごじん。なぜ、僕の名を?」



 誠純と目が合った瞬間、マサトの体を駆け巡る緊張、寒気、そして恐怖。

 まるで心臓を鷲掴わしづかみにされたのではないかと錯覚するほどのドス黒い圧力。


 目の前の少年が放つ死の気配に、マサトは声を発することもできずに硬直する。


(まさか、殺気? これが殺気ってヤツか?)


 誠純は笑顔を浮かべながら腰の刀に手をかけ、ゆっくりとマサトに近づいてくる。


 一歩ごとに心身にのしかかる重圧に心が折れかけたマサトだったが、ここで引き下がっても事態は改善しないと思い留まり、腹に力を入れ直す。


(くっそ! 名前を呼ばれたくらいで殺気を飛ばすんじゃないよ! お前らの世界じゃ挨拶代わりかもしれないけどな! こっちは妖魔でも烈士でもない普通の人間なの! わけが分からないのは俺も同じなの!)


 マサトは深呼吸をして眼鏡をかけ直し、誠純をまっすぐ見据えて交渉を開始した。


「誠純君、不躾ぶしつけだったことは謝罪しますが、まずは殺気をおさえていただけませんか? これでは、ろくに話もできません。それとも私は、あなたにとって敵に見えますか?」


 マサトの内心は今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、少なくとも表面上は落ち着いた大人の態度を演出することに成功していた。


 しばらくマサトの様子を観察していた誠純は、やがて刀から手を離すと、申し訳なさそうに頭を掻きながら謝罪する。


「――――いやぁ、すみません。確かにあなたは妖魔にも屍士にも見えませんね。ついくせで殺気を飛ばしちゃいました。近藤さんや土方さんにも『直せ』って言われてるんですよ」


「お気になさらず、この状況では無理もありません」(近藤さんと土方さんは分かっているな。社会に出るなら、その癖は直したほうがいいぞ)


 マサトの胸の内はともかく、ひとまず流血沙汰は回避できた。

 油断は禁物だが、誠純はいちおう妖魔から人々を守る正義側のキャラクターだ。

 対話は可能だと思いたい。


(とはいえ、何から説明したものか……)


「あなたは創作上の人物です」と伝えて、誠純は怒ったりしないだろうか。

 頭がオカシイやつ判定をされないだろうか。

 むしろ、ゲームに関することは伝えないほうが正解なのか。


 これからの対応について悩んでいたマサトのポケットで、不意に携帯端末が振動する。

 端末を取り出して画面を見ると、そこには一件の通知が届いていた。



『沖田 誠純をランク付けしてください。5分以内にランク付けが行われない場合、あなたは死亡します』



「――――は?」


 閉ざされた教室に現れたゲームのキャラクター。

 強制されるランク付け。


 マサトの生存をかけた脱出劇は、こうして始まった。




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