表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界遊戯執行部  作者: 春雪
友達教室編
26/41

友達教室 第1話


 マサトが目を覚ましたのは見知らぬ教室だった。



 中学校か、はたまた高校か。

 お手本のようなごく普通の教室に、学習机と椅子が規則正しく並んでいる。


 マサトは教卓の正面の席に座り、机に突っ伏して寝ていたようだ。

 懐かしさを感じさせる木の匂いが、彼の意識を徐々に現実へと引き戻していく。

 マサトはゆっくりと身を起こし、周囲を見回した。


「……ここは?」


 マサトは自然な仕草で、ズレた眼鏡をかけ直す。

 黒髪オールバック、黒いスーツに黒いネクタイ、そして黒いコート。

 全身を黒一色で統一した壮年の男は、学校の教室では違和感のかたまりだった。


 マサトは心を落ち着けて、これまでの記憶を思い返してみる。

 だが驚くべきことに、なぜ自分がここにいるのか、今まで何をしていたのか、まったく分からなかった。


 幸い頭に痛みはなく、意識もはっきりしている。

 しかし、記憶だけが曖昧あいまいだ。


(年齢は35歳、男性、職業は……くそ、思い出せん。家族、友人、恋人……何も覚えていないか)


 マサトはもう一度、眼鏡をかけ直す。

 思考を切り替えるとき、無意識に眼鏡に触れるのが彼の長年のくせだった。楕円形のレンズの奥で、彼の鋭い目が目前の黒板をとらえる。


 そこには白いチョークで、こう書かれていた。



『時間経過で友達が増えます。仲良くしてね!』



(イタズラか? だが誰が、何のために?)


 マサトは椅子から立ち上がり、教室の出入り口へと足を運ぶ。

 そしてドアを開けようと試みるが、扉はピクリとも動かなかった。


(何だこれは? 鍵がかかっているにしても、微動だにすらしないぞ?)


 扉を開けることは諦め、次にマサトは教室の窓へと向かう。

 窓の外は濃いきりでも出ているのか、白くかすんで何も見えない。

 マサトは窓が開くかどうか試してみるが、結果はドアの時と同じだった。


 その後、マサトはおもむろに近くの椅子を手に取ると、窓に向かって思い切り投げつける。

 椅子は窓に傷一つつけることなく弾かれ、大きな音を立てて床に転がった。


(強化ガラス……いや、それでもこの現象は説明がつかない。扉も窓も、まるで時間が止まっているみたいじゃないか)


 マサトは再び黒板に視線を向ける。



『時間経過で友達が増えます。仲良くしてね!』



「……何なんだ、いったい」


 呟く声に焦りが交じる。

 マサトの内心は、この不可解な状況を整理しようと必死だった。


 自分に何が起きているのか、誰がこの状況を仕組んだのか。

 そして『友達が増える』とは、どういう意味なのか。

 

 マサトは教室の一番後ろの席に腰を下ろし、大きく深呼吸する。


「落ち着け、まずは状況の把握からだ」


 自分にそう言い聞かせると、手始めに何か使える持ち物がないか、コートのポケットを探ってみる。

 ポケットから見つかったのは『見慣れない携帯端末』と『折りたたまれた1枚の紙』だった。


 端末はスマートフォンに似ていたが、マサトが知っているどのメーカーの機種とも違った。

 端末の電源を入れると、すぐに画面が点灯する。

 そこには1つだけ『友達アプリ』というアイコンが表示されていた。


「友達アプリ? 黒板のメッセージと関係があるのか?」


 指でアイコンをタップするとアプリが起動し、画面が切り替わる。



――――【友達リスト】



 そう書かれた画面には、誰の名前も表示されていない。

 検索機能もなければ、設定項目も見当たらない。

 現状では、これ以上の情報は見つかりそうになかった。


 マサトは携帯端末をポケットにしまい、次に折りたたまれた紙に目を通す。

 そこには無機質な文字で、こう記されていた。



――――適性者、マサト。


――――あなたは友達を以下の通りにランク付けできます。


・好感度100【親愛】

・好感度50【友情】

・好感度0【興味なし】

・好感度−100【破滅的憎悪】


――――ランク付けを拒否することはできません。どうか、後悔なき選択を。


――――執行部より。

 


「執行部? 友達を……ランク付けだと?」


 紙に書かれた文面について思案していたマサトは、ふと腰元に重みを感じて手を伸ばす。

 スーツのジャケットを開くと、見えたのは黒い革製のホルスター。

 中には鈍く光る小型のリボルバー式拳銃が収められていた。


「まさか……本物か?」


 マサトは腰に装着されているホルスターから、そっと銃を取り出してみる。

 銃を手に取った瞬間「これは本物だ」と直感的に確信した。

 不思議なことに、自分はこの銃の扱い方が分かるようだ。


 シリンダーを確認すると、装填そうてんされている弾は1発だけ。


「……」


 マサトはゆっくりと銃をホルスターに戻す。

 その後、机に両肘をついて組んだ手に、うつむくように額を乗せた。


 奇妙な教室、開かない窓と扉、誰もいない空間、友達アプリ、好感度のランク、執行部。


 そして、たった1発の銃弾。


「わけが分からん」


 マサトの呟きはむなしく空気に溶け、教室の時計が時を刻む音だけが響く。


――――『時間経過で友達が増えます』。時間経過……。待つしかないということか……。


『友達』が現れるその時まで。

 

 マサトは言い知れぬ不安を抱えたまま、椅子の背もたれに体重を預けた。




 お待たせしました!

 本日より、投稿を再開します。


 投稿時間は12時台と20時台、それぞれ1話ずつ投稿します。



【異界豆知識4】

 適性者には異界攻略に役立つアイテムが支給される場合があります。

 アイテムをどのように使うかは、適性者次第です。


《初期配布アイテム》

 全適性者に支給される異界攻略に必須なアイテム。

 この異界に於いては『携帯端末』と『折りたたまれた紙』が該当する。


《特典アイテム》

 適性者が記憶を失う以前に就いていた職業、または会得していた技能によって配布される特別なアイテム。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ