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異界遊戯執行部  作者: 春雪
異界邸宅編
23/29

異界邸宅 第23話

 鏡の中に飛び込んだ4人が辿たどり着いた場所。

 そこは無数のモニターが不規則に並ぶ異様な部屋だった。


「なんだ? ここは……」


 薄暗い照明の中、モニターの光が怪しく明滅めいめつする。乱雑に配置されたモニターは、正確な数を把握するのも難しい。


 壁に埋め込まれたもの、無造作に部屋の床に積まれたもの。大小様々な画面の光が部屋を照らしていた。


「レンヤさん、これを」


 藍歌が一つのモニターを指差す。

 そこにはAの姿が映し出されていた。


 Aはすっかり感情が抜け落ちた顔をしながら、ゆったりとした足取りで女性キャラを追い詰めていた。


 両手には血塗られた斧と鉈。

 狂気だけが残った、無機質な瞳。


「……Aはまだ続けているのか」


 レンヤは息を詰まらせた。


「あの、キラメキさん。ここ、どこなんですか?」


「え? さ、さぁ?」


 美海の質問に、冷や汗を流しながらキラメキが答える。いつの間にか、レンヤたちが脱出に使った鏡が消えていた。

 もう、あの家に戻ることもできない。


「ここは、本当に出口なのか?」 


 レンヤの中で不安がふくらみ始めた、その時――――



「ようこそ、レンヤ君。まずは脱出成功を祝おう」


 黒いスーツ姿の壮年の男が現れた。


 男はカツカツと靴を鳴らし、拍手をしながら近づいてくる。そして優雅に、余裕を感じさせる態度でレンヤたちの前に立った。


「……お前が執行部か?」


 レンヤが警戒しながら尋ねると、男は愉快そうに頷いた。


「そうとも。私たちはこのゲームを監督し、見守る立場にある」


 男の返答を聞いた瞬間、キラメキが「こんなろー!」と叫んで突撃しようとする。

 そんな彼女を、美海が必死に掴んで止めていた。


 男はキラメキに一瞥いちべつをくれることもなく、余裕の笑みを浮かべたままだ。


「私たちは、あなたの言うゲームを『クリアした』ということですか?」


 藍歌の質問に男は答えない。

 手を後ろで組み、直立不動をつらぬく。


「……どうなんだ? 俺たちはあの家を脱出できたと考えていいのか?」


 レンヤが問いただすと、男は笑みを深めて答えた。


「その通りだ。君はあの家を見事に突破した。『世界が納得する答え』に辿り着いたのだよ」


「世界が納得する答え?」


「そう。あの異界は、ただの監獄ではない。無数の選択肢があり、無数の脱出方法が存在する。だが、ほとんどの者はここに辿り着くことはない。世界が納得しない限りは」


「……」


 つまり、あの家の扉を開くことが『出口』だったわけではない。

 扉も、ルールも、召喚も、他の適性者たちも、すべてがあの異界を構成する仕掛けの一つ。


 本当に外に出るためには、適性者が自分で『出口を組み立てる』必要があったということだろうか。


「さて、レンヤ君。君に最後の選択肢を与えよう」


 執行部の男は、ゆっくりと手を広げる。


「君が召喚したキャラクターたちを生贄いけにえささげれば、君は『永遠の命』を得ることができる」


「……!!?」


 レンヤは目を見開き、その隣で藍歌は無表情のまま執行部の男を見つめる。


「は、はぁ!? なにソレ! ふざけんな!!」


「い、生贄って……。う、嘘ですよね……?」


 キラメキは怒りを隠さずに男をにらみつけ、美海の顔からは血の気が引いていた。

 2人のことは意にも介さず、男は話を続ける。


「召喚されたキャラクターは、原作キャラをコピーした『複製体ふくせいたい』にすぎない。彼女たちは、このゲームのために用意された備品の一つだ。用済みになれば、廃棄する決まりになっている」


 いきなり突きつけられた事実に沈黙が落ちる。

 キラメキも、美海も、言葉をなくして呆然としていた。


 藍歌だけは、態度から心情を察することができない。レンヤは拳を握りしめ、男を睨みつけた。


「……ふざけるな」


「ふざける? いや、これは『特権』だよ。君が勝ち得た報酬だ」


 男は淡々と説明を続ける。


「彼女たちを生贄に捧げれば、君は死をも超越ちょうえつした存在になれる。それとも彼女たちを引き取って『楽園都市』で共に暮らすかね?」


「楽園都市?」


「簡単に言えば、君のように『異界を突破した者たち』が住む特別な都市さ。そこなら複製体とも共存することが可能となる。さて、説明は以上だ」



――――永遠か、共存か。


――――選びたまえ。



「レ、レンヤさん……」


 美海が不安そうにレンヤを見る。

 キラメキは歯を食いしばってうつむいていた。

 藍歌は、ただいつも通りに微笑むだけだ。


 レンヤは一瞬だけ目を閉じる。


――――考えるまでもない。



「俺は楽園都市に行く」


「……ほう、いいのかね? いつの世も人類が夢に見る『永遠の命』、それを手にする最初で最後のチャンスだ。二度目はないのだよ?」


 興味深げに語る男に対し、レンヤは迷いなく告げた。


「藍歌、美海、キラメキ。この3人がいなければ、俺はあの家でとっくにくたばっていただろう。永遠の命を語る前に、まず彼女たちに借りを返さないとな」


――――沈黙。


 レンヤの答えを聞いた執行部の男は一度だけ目をつむり、楽しげに微笑んだ。


「……いいだろう。ならば、君の答えを受け入れよう」


 男はゆっくりと手を上げる。



「ようこそ、楽園都市へ」



 男の後ろの扉が開き、光があふれ出す。

 白い輝きがレンヤ、藍歌、美海、キラメキの4人を照らした。


「ふふ、楽園都市ですか。どのような所か、ワクワクしますね」


「……この短時間で、いくつも衝撃の事実が明かされたと思うが、君は変わらないな」


「最初に言ったはずですよ?『私は無駄に騒いだり、無謀な行動を取ることを好みません』と。さぁ、レンヤさん。楽園までエスコートをお願いできますか?」


 そう言って、藍歌は手を差し出す。

 レンヤは苦笑しつつ、そっと藍歌の手を取った。


――――君には本当に助けられた。


 感傷にひたりかけたレンヤの背中に衝撃が走る。満面の笑みを浮かべたキラメキが、勢いよく飛び乗っていた。

 おんぶをしているような体勢になってしまい、レンヤは前のめりによろめく。


「レンくーん! さっきのセリフかっこ良かったよ! いやー、アタシは最初から信じてたけどね! だからアタシもエスコートしてよー、エスコート!」


「……キラメキ。おんぶしながらエスコートも何もないだろう」


 呆れながらも体勢を整えたレンヤの左手に、今度は美海の手が触れる。


「あ、あの、私も手を握っていいですか? ち、ちょっと怖くて……」


 右手に藍歌、左手に美海、なぜか背中にキラメキ。狂気に満ちたあの家で過ごした3日間だったが、得るものはあったのだとレンヤは実感した。


「――――おおせのままに、お嬢様方」


 レンヤは3人の少女たちに寄りわれながら光の向こう……楽園都市へと歩き出す。


「――――ああ、そうそう」


 歩みを進めるレンヤに執行部の男が声をかけた。


「あの家で受けた『好感度マイナス』の影響はもとに戻しておくよ。もっとも、君には必要なさそうだがね」


 男の言葉を背に受けて、レンヤたちは前へと進む。溢れ出す光の先に待つのは本当の『楽園』か、それともさらなる『試練』か。



 その答えは、彼らの未来だけが知っている。





―――― 異界邸宅 了 ――――




         

 

 

 異界遊戯執行部『異界邸宅編』いかがだったでしょうか?

 未熟な部分も多々あったと思いますが、楽しんでいただけたのでしたら幸いです。



 今後の更新ですが、人物紹介的な『おまけ』を1話投稿した後の更新は未定です。

 私は一章ずつ書いていくタイプなので、投稿再開は次章が完成した後になります。(なるべく早く再開したいとは思っています)


 ちなみに次章からは新たな主人公、新たなキャラクターたちが異界脱出に挑みます。

 

 本文にもあった通り『レンヤ君たちがどうなったのか?』は未来だけが知っています。

 彼らの未来が明るいものであるように、応援していただけたら作者としても嬉しいです。





「面白い!」と思った方は、ブックマークや評価などしていただけると嬉しいです。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

 




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