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異界遊戯執行部  作者: 春雪
異界邸宅編
20/27

異界邸宅 第20話

 美海のハッキングにより、監視カメラの映像が映し出された。


 場所はAの家のダイニングルーム。

 テーブルや椅子はわき退けられ、床には少女の死体が転がっていた。


 頭から血を流す死体と、心臓をナイフで一突きにされた死体の2つが。


「もう、2人目を……」


 レンヤは愕然がくぜんとした。電話を終えてから、まだわずかな時間しか経っていない。

 この光景を見た藍歌は、あきらめが混じった溜め息をもらす。


「レンヤさん、やはり……」


「いや、待ってくれ。美海、カメラを切り替えてAを探してほしい」


「は、はい……」


 美海は血の気が引いた顔でデバイスを操作する。

 Aはすぐに見つかった。

 黒髪で短髪の男が、リビングで異世界召喚装置を操作しながらソファーに座っている。


 彼の服は、返り血で真っ赤にれていた。

 顔にかかった血をぬぐったのか、同じく赤く染まったタオルが床に投げ捨ててある。 

 そして、リビングのテーブルに置かれているのは――――


 花瓶、ハンマー、多種多様な包丁とナイフ、草刈り鎌、斧に鉈。


 キャラクターを召喚し、効率よく殺していくための準備が整えられていた。

 数々の凶器に囲まれて、Aはリモコンを片手に次の獲物を物色している。


 淡々と、無表情で。


「……」


 レンヤは言葉を失った。

 どうやったらAを説得できるのか、答えが何も見つからなかった。


「もう十分でしょう、レンヤさん」


 レンヤは言葉に詰まったまま、視線だけを藍歌に向けた。


「Aは完全に一線を超えてしまいました。もう、こちら側に戻ることはありません。Bの時と同じく、これはすでに『終わった出来事』なのです。あなたはこれ以上、彼の物語に関わるべきではありません」


 藍歌の言葉を噛みしめるように、レンヤはカメラの映像をじっと見つめながら動けずにいた。

 美海は心配そうに、レンヤに向けてチラチラと視線を送っている。


「……美海」


「は、はい!」


「映像を切ってくれ」


「えと……い、いいんですか?」


「ああ」


 少しだけ躊躇ためらった後、美海は端末を操作してハッキングを終了する。

 映像が暗転する瞬間、レンヤは画面の中のAを見つめながら口にした。



「じゃあな……A」



 Aにかける言葉は、それしか見つからなかった。



◇◇◇



 Aの家へのハッキングを終えた後、リビングは沈黙に包まれていた。

 

 ここに閉じ込められて3日。

 たった3日で、Aは殺人への抵抗を無くした。


――――この家はただのおりじゃない。人をおかしくする『何か』をはらんでいるのではないか?


――――明日は自分が狂ってしまうのではないか?


 レンヤの胸中に、どうしようもなく不安が渦巻く。

 その泥のような感情を吐き出すために深く呼吸をした後、レンヤは藍歌と美海に話を切り出した。


「2人とも、何か気がついたことやおかしいと思ったことはないか? 何でもいい、脱出のための手がかりが欲しい」


「気がついたことですか? うーん……」


 難しい顔をして美海は考え込む。今までの出来事を思い返しているのだろう。

 そんな美海の横で、藍歌が小さく手を上げた。


「脱出に直接関係するかは分かりませんが、気になることはあります」


「なんだ?」


 藍歌の言葉に、レンヤは思わず身を乗り出した。


「適性者の死亡が確認されました。24時間後に家の扉のロックが解除されます」


 藍歌が口にしたのは、Eの家のモニターに表示されたメッセージだった。


「あと9人で、家の扉のロックが解除されます。……何か気づきませんか?」


 次いで藍歌はAが電話で伝えてきたメッセージを語った。

 EとAの家のモニターに表示された2つの隠しルール。

 どちらも『死』をトリガーにして、家から脱出できることを示唆しさしている。


――――適性者の死亡が確認されました。24時間後に家の扉のロックが解除されます。


――――あと9人で、家の扉のロックが解除されます。


――――家の扉のロックが解除。



「妙に遠回りな言い方だ」


 なぜ一言「脱出できます」ではないのか。

 そこまで考えた時、レンヤは『とてもおぞましいモノ』を見たような気分になった。


「まさか……そういうことか?」


「ふふふ。私たちの考えが合っているとしたら、執行部は相当に性格が悪いですね」


「え? せ、説明お願いしまーす!」


 1人だけ話しについていけない美海は、困惑した表情を浮かべていた。


「美海、家の鍵が開いたらどうなる?」


「それは……家の外に出れます」


「他には?」


「え? ほか?」


 美海はしばらく考えた後、「あ!」と驚きの声を上げた。

 レンヤは一度頷いて、答えを口にする。


「そうだ。中から外に出られるなら、外から中に入ることも可能になる」


「ふふ、私たちはこの家の外がどうなっているか知りません。外に何がいるのか、外は安全なのか、何も分からないんです」


 藍歌がレンヤの説明を引き継ぐように言った。

『家の扉が開く』=『脱出』とは限らない。

 それが2つのメッセージから、彼女が気づいたことだった。


「で、でも、それじゃあ……Aさんは無駄な殺しをしているってことですか?」


「あくまでも可能性の話ですけどね」


 だが、執行部はこれまでも悪辣な面をのぞかせてきた。

『扉のロックが解除』という表現も、その1つの可能性はある。


「そ、そうだ! 確かめてみればいいんです! Eさんの家のカメラ、前回から24時間以上経っているはずです。様子を確認してみましょう!」


「まぁ、美海さん。たまには鋭いことを言いますね」


「たまにはって何ですか!」


 藍歌とそんなやり取りをしながら、美海は手際よくハッキングを開始する。

 しかし、キーボードを打つ彼女の指が突如止まった。


「どうした?」


「⋯⋯Eさんの家に繋がりません」


「執行部が妨害しているということですか?」


「いえ、むしろカメラの反応そのものが無いって感じで……」


「……カメラが物理的に破壊されたか」


 監視カメラを壊したのは家に残っていた『ハヅキ』か、それとも外から来た『何か』か。


「家の外は、やはり危険かもな……」


「で、でも、そんなのどうしようもないです! 一生この家から出られません!」


 美海の言う通りだった。

 家の外には出られない。しかし、この家に残り続けることもリスクが有る。

 一見、手詰てづまりに思えるこの状況。


 だがレンヤは、この状況だからこそひらめくものがあった。



「召喚する」



 レンヤの言葉に美海は目を丸くし、藍歌は心の底からたのしそうに微笑んだ。

 この決断が、3人の命運を決めるだろう。

 それでもレンヤは、自身の閃きに賭けてみることにした。



「これが最後の召喚だ」


 

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