異界邸宅 第18話
「レンヤさん、少し休憩しませんか? 朝食もまだでしたし」
「そ、そうですよ! 私、お腹ペコペコで……えーと、とにかく休憩しましょう!」
「……そうだな」
遅い朝食をとるため、3人はダイニングルームへと向かう。
気落ちしたレンヤに気を使ってか、食事は藍歌と美海が用意してくれるらしい。
レンヤはダイニングチェアに座りながら、キッチンで調理する2人の様子をぼうっと眺めた。
そして料理を待ちながらも思考を巡らす。
――――どうする?
――――どうやって、この家から脱出する?
レンヤはこの家から脱出するための方法をまとめてみることにした。
(1)女性キャラと肉体関係を持つ。
・この家のルールで最初に提示された方法。
・だが召喚された女性キャラは、適性者に対し『好感度マイナス』である。
・そもそも短期間でそんな関係になれるとは思えない。
・無理に関係を進めれば、逆に破滅を迎えるだろう。
(2)自分が犠牲になり、藍歌と美海だけでも逃がす。
・Eの家で発見した『適性者が死亡すれば、24時間後に家の扉のロックが解除される』というルールを利用した方法。
・最大の問題点は、当然だが『適性者である自分は死ぬ』ことだ。
・限界まで追い詰められた状況にならない限り、全員での脱出を目指したい。
(3)召喚したキャラの能力によって家の外に出る。
・Aが『魔術や超能力によるアプローチ』を語ったときに思いついた方法。
・テレポートなどを使用可能なキャラを召喚し、能力によって外に出る。
・ここで問題になるのが『召喚された女性キャラも、脱出条件達成まで家の外に出ることはできない』というルール。
・能力によって外に出ることは『脱出条件達成』とみなされない可能性が高いのではないか?
・その場合『能力自体が不発に終わる』のか『ルールを破ったとしてペナルティを受ける』のか、この方法も危険が伴うだろう。
レンヤが更なる方法を模索しようとした時――――
「そこの難しい顔をして考え込んでいるレンヤさん。朝食ができましたよー」
藍歌に声をかけられ、思考を中断する。
意識を現実に戻したレンヤの前に、藍歌と美海の手料理が並べられた。
「お待たせしました。どうぞ召し上がってください、レンヤさん。私が作った目玉焼きと――――」
「わ、私が作った目玉焼きでーす」
「なんで?」
テーブルには2つの目玉焼きだけが置かれた。
正確にはどちらも黄身が潰れているため『目玉』にはなっていなかったが。
「何を言っているんですか、レンヤさん。朝食といえば目玉焼きです」
「それは分かっているが……」
「す、すいません。私、料理を作ったことがなくて……これくらいしか……」
申し訳なさそうにする美海に「いや、美味しそうだ」と声をかけて、レンヤは目玉焼きを口に運ぶ。
味は塩・コショウで味付けされており、とても普通だ。卵の殻が口の中でジャリジャリとアクセントを奏でている。
「美味しいですか?」
「おいしい」
上目遣いで尋ねてきた藍歌に、レンヤは答える。
この目玉焼きからは、気落ちした自分への心遣いを感じる。
だから、間違いなくおいしいのだ。
◇◇◇
だいぶ遅い朝食をとった後、レンヤは藍歌と美海に『召喚されたキャラの能力を使って外に出る』という方法について話した。
「確かにレンヤさんの言う通り、能力によって外に出る方法は現時点では危険と言わざるを得ません。最後の手段と考えておいたほうが良いでしょう」
「ちゃんと条件をクリアしないと、罰を受けるかもってことですか……。良さそうな方法だと思ったんですけど……」
「ああ。だが考え方は悪くないと思う」
リビングでソファーに座りながら、レンヤは自分の考えをまとめるように言葉を続けた。
「召喚は適性者に与えられた特権だ。召喚をどう使うかが、この家から脱出するための『鍵』になっているはずなんだ」
レンヤはリモコンを操作し、モニターに表示された召喚可能なキャラクターのリストを確認した。
――――この無数のキャラクターたちの中に、鍵となる人物がいるのか?
――――いや、いるはずだ。
――――この狂ったゲームから、俺たちが抜け出すための『鍵』が。
レンヤは真剣に画面と向き合った。
(まさかアニメやゲームの知識が、こんな形で役に立つとはな……)
レンヤが記憶を呼び起こして考えをまとめようとした、その時……。
――――リン、リン、リン、リン。
家の電話が鳴った。