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異界遊戯執行部  作者: 春雪
異界邸宅編
17/33

異界邸宅 第17話

 レンヤ、藍歌、美海の3人はリビングに戻っていた。すでにBの家へのハッキングは完了しており、美海のデバイスに映像が映し出される。


 レンヤは最悪の結末を予想していた。

 Eの時と同じく、血にまみれた死体が映るのではないかと。


 しかし、画面に映ったのは2人の女性がダイニングでなごやかに食事をしている光景だった。


 だが、そこにBの姿はない。


「Bはどこだ?」


 リビング、廊下、玄関ホール、娯楽室、物置と映像を切り替えていくが、どこにもBは見当たらなかった。

 残るは各個室やトイレ、バスルームだが、これらに監視カメラは設置されていないため、様子を確認することはできない。


「……美海、カメラのスピーカーは使えるか?」


「え? は、はい。いけます」


 レンヤはダイニングで食事中の女性2人にコンタクトを取ることにした。

 1人は黒髪ショートカットで気が強そうな印象の女性。もう1人はほがらかな笑顔が特徴のロングヘアの女性だ。


 どちらかが『松浜 伊吹』である可能性は高いだろう。


「食事中にすまない。そこに松浜 伊吹はいるか?」


 2人の女性の視線がカメラを向く。


「誰?」


 ショートカットの女性が椅子から立ち上がり、カメラへと近づいてきた。

 レンヤはつとめて冷静に話を進めた。


「俺は適性者D。そちらに電話をかけたんだが、切られてしまってな。不躾ぶしつけかもしれないが、こうしてカメラのスピーカーを通して話をさせてもらった」


「D……ああ、あの男が電話で話してた相手ね」


 ショートカットの女性は腕を組み、小声で確認するように呟いた。


「君はBが召喚した松浜 伊吹で合っているか? できればBと話がしたいんだが……」


「それ無理」


 レンヤの要請に対し、伊吹はキッパリと断った。


「あの男は拘束して適当な個室に転がしてるから。この家の個室、カメラないでしょ? 無理」


「……なぜ、そんなことを?」


「あいつが信用できないからに決まってるじゃん」


 伊吹の声と表情には、Bに対する明確な嫌悪と拒絶の色があった。

 

「口を開けば調子の良いことばかりだし、かと思ったら急に泣きごと言い出すし、ことあるごとに胸やお尻を見てくるし。信用できるわけないじゃん」


 レンヤは頭を抱えたい気分になった。

 好感度マイナスの影響だけではない。Bは召喚後のキャラとの関係構築に、完全に失敗しているようだった。


「だからあいつに純礼すみれちゃんを召喚してもらって、拘束しておこうと思ったの。純礼ちゃんはあたしと同じ事務所の友達で、合気道の達人だからさ。警戒されるかもと思ったけど、お願いしたらあっさり召喚してくれたよ」


 レンヤはついに頭を抱えた。


(だから召喚はよく考えて行えと言っただろう!)


 適性者にとって召喚は唯一の武器であると同時に諸刃の剣なのだ。

 Eは召喚したキャラに殺され、Aも関係構築に精神をすり減らしている。

 異世界召喚装置は、考えなしに使って良いものではない。


「……松浜 伊吹、君の気持ちは分かった。Bの行動が無神経だったことも。だが、だからこそお互いによく話し合ってみるべきじゃないか? この家からの脱出には――――」


「惚れ薬」


 伊吹はレンヤの説得をさえぎるように、冷たく言葉を発した。


「あんなモノが突然出てくるような家で、あの男を野放のばなしにしろと? 次にもっとヤバイものが出てきたらどうすんの?」


「……」


「話は終わったね。じゃ」


 その言葉を最後に、伊吹は再び食事へと戻っていった。

 レンヤは心の中で空虚感を噛みしめる。


「……レンヤさん、これはもう『終わった出来事』なのです。この結末は、B自身の選択によるもの。あなたに出来ることは、ありません」


「……これで残りはAと俺だけか」


 寂しそうに呟いたレンヤの横顔を、藍歌と美海はただ見つめるだけだった。


「美海、映像を切ってくれ」


「……はい」


 暗転した画面に映るレンヤの顔には、徒労とろうむなしさが滲み出ていた。

 Bもまた、この家の異常さと狂気の沼に沈んでいった。

 5人の適性者のうち、3人が脱落。

 

 それでもまだ、ゲームの終わりは見えない。



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