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異界遊戯執行部  作者: 春雪
異界邸宅編
15/25

異界邸宅 第15話



――――チッ。


 3日目の朝。

 スピーカーから再び電子音が鳴り響く。


「3日目になりました。適性者の皆様のために『れ薬』を進呈します。この薬を召喚したキャラクターに飲ませることで、たちまち愛の奴隷とすることが可能です。今日も元気に肉体関係を持ちましょう」


 レンヤは朝の放送を聞き、嫌悪感とともにベッドから身を起こした。


――――惚れ薬?


――――愛の奴隷?


 耳を疑うような内容。

 しかし昨日までの出来事を思えば、薬が配布されたのは事実なのだろう。

 そして何よりも意地が悪いのが……。


 この放送が、あえて女性陣にも聞こえるように流されていることだ。


「……完全に人間関係を壊しにきてるな」


 レンヤは額を押さえ、深く息を吐く。

 3日目はこうして始まった。



◇◇◇


 

 レンヤがダイニングルームへ向かうと、すでに藍歌が待っていた。

 テーブルの上には、ピンク色の液体が入った『あやしげなデザインの小瓶』が置かれている。


「おはようございます、レンヤさん。あまり清々しい朝とは言えないかもしれませんが」


 いつもと変わらぬ口調で藍歌が微笑んだ。


「……瓶をそのままにしていたのか?」


「ええ、あなたが惚れ薬をどのように扱うのか、見てみたかったもので。ふふふ、わざと遅れてくるなんて紳士ですね、レンヤさん」


「……なるほど。君らしいな」


 レンヤから少し遅れて、美海がダイニングへと入ってくる。

 彼女の表情は緊張と恐怖で強張こわばっていた。 


「……あの放送、本当なんですか?」


「そのようだ」


 レンヤは短く答える。

 美海の視線は、テーブルの上の小瓶に釘付けになっていた。

 まるで汚物でも見るような、嫌悪感をあらわにした眼差しだ。


「こんな……こんな最低な……」


 美海の手が震えている。

 昨日のEの死、そして今朝の放送。彼女の精神は、摩耗まもうし始めているようだった。


 レンヤはテーブルに近づくと惚れ薬を手に取る。

 美海は「あっ!」と声を上げ、藍歌は黙って様子を見守っていた。

 二人の視線を受けながら、レンヤは力強く小瓶を床に叩きつけた。


――――パリーン!!


 ピンクの液体が飛び散り、床に広がる。

 これで惚れ薬を使うことは不可能になった。


 レンヤの一連の行動を見ていた美海は驚きと、そして安堵の表情を浮かべる。

 藍歌は小さく笑いながらレンヤに声をかけた。


「レンヤさん、これでは掃除が大変ではないですか。キッチンが近いのですから、どうせならシンクに捨てていただかないと」


「次があればそうしよう」


 そう言い残し、レンヤは二人に背を向けて掃除道具を取りに行った。



◇◇◇



 朝の惚れ薬騒動が一段落した後、レンヤ、藍歌、美海の3人はリビングに集合していた。

 そんな中、ソファに小さくなって座り込んでいた美海が、おずおずと話し始める。


「あ、あの、レンヤさん、疑ってすみませんでした。私、すごく怖くて。なんかこの家に来てから、心が不安定になってる感じで……」


「気にするな。この状況じゃ無理もない」


 美海の立場を考えれば、疑心暗鬼になるのも仕方がない。

 実際、レンヤはまったく気にしていなかったし、どう考えても執行部が100パーセント悪いのだ。


「それにしても、予想通りすぎて意外性に欠ける結果でした。あの惚れ薬が本物だったとしたら、ちょっともったいなかったですね」


「……あの、もしかして藍歌さんて、この状況を楽しんでます?」


「そっちも気にするな。俺もよく分からない」


 レンヤは溜め息まじりに答えた。

 一方の藍歌は、優雅な微笑みを崩さずに話を進める。


「とにかく、私たちは執行部の悪辣な罠を乗り切ることができました。ですがレンヤさん、他はどうだったでしょうね?」


「そうだな……」


 AとB。他の適性者のもとにも、惚れ薬は配られただろう。

 早急に確認が必要だった。


「すぐに二人に電話してみよう。何事もなければいいんだが……」


「ふふふ。では、急ぎましょうか」


「わ、私もご一緒します。お邪魔でなければ……」


 3人は他の適性者と連絡を取るため、玄関ホールへと向かった。

 この家の狂気がAとBにどのような影響を与えたのか。答えは電話の先にある。







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