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異界遊戯執行部  作者: 春雪
異界邸宅編
14/29

異界邸宅 第14話

 Eの監視カメラの映像を見た後、レンヤ、藍歌、美海の3人は調査を切り上げて早めに休むことにした。


 Eの家で見たものは、あまりにも衝撃的だった。

 藍歌は未だに顔を真っ青にしてふらついている美海を介抱しながら、部屋へと案内する。

 レンヤも2人を見送った後、自分の部屋へと戻った。


 Eの死。そして『適性者が死亡すれば、家の扉のロックが解除される』という事実。

 これらを整理するには、少し時間が必要だった。



◇◇◇



《小野町 美海の個室》


「うぅ……」


 美海は自分に割り当てられた個室のベッドに座り、じっと膝を抱えていていた。


――――自分は何を見てしまったんだろう?


 男の死体。

 血の海。

 荒れた部屋。

 転がった首。


 何もかも美海がいた日常からは、かけ離れた光景だった。


「……帰りたい」


 今にも消えそうな声で呟く。

 美海はハッキングを使って、様々な悪人の秘密を暴いてきた。

 イジメの主犯生徒、痴漢教師、ブラック企業の暴力社員、汚職政治家。

 だが、これ程までに異常で、理解し難い事態は初めてだった。


――――本当にこの家から出られるんだろうか?


――――レンヤたちは信用できる相手なんだろうか?


 不安がヘドロのように心にこびりついていく。

 やがて美海は、パタリとベッドの上に倒れ込んだ。


――――今日はもう、何も考えたくない。


 美海は枕を抱き寄せ、静かに目をつぶった。



◇◇◇



《レンヤの個室》


 レンヤもまた、自室のベッドに横たわっていた。


「Eが死んだ。これで残りの適性者は3人か……」


 天井を見つめながら、レンヤは考えにふける。


――――この家からは、現状2つの脱出条件がある。


(1)適性者が3人の女性キャラと肉体関係を持つこと。

(2)適性者が死亡すること。 


「おそらく、まだ隠されたルールがあるはずだ。例えば……」


――――最後に生き残った適性者だけが家から出られる。


 他の適性者を蹴落として、生き残った者だけが勝利をつかめる。

 もし執行部が殺し合いを求めているなら、この隠しルールは十分に有り得そうだ。


 AとBは召喚したキャラとの関係構築に苦戦していた。そんな彼らに『適性者が死亡すると、残されたキャラクターたちは家から出られる』というルールを伝えた場合、どうなるだろう。


 2人は自身が召喚したキャラに対して疑心暗鬼におちいり、勝手に自滅していくのではないか。

 自分は労せずして『最後の適性者』になれるのではないか。


「……バカバカしい」


 最後の適性者になれば脱出できると決まったわけではないし、執行部の思惑に乗せられているようで気に食わない。

 何より、憶測で人の命をもてあそぶなんて、まともな人間のすることじゃない。


――――明日の連絡では、2人にEのことは伝えないほうが良いかもな。


 薄暗い部屋の中で、レンヤは思考に溺れるように眠りについた。



◇◇◇



《群青灘 藍歌の個室》


 藍歌は部屋の明かりを一切つけず、暗闇の中で思案していた。


「適性者が死ぬとロックが解除、ですか。これはなんとも……」


 あからさますぎる。

 藍歌には執行部の誘いに思えてならなかった。

 その一方で、殺し合いをさせたいにしては随分ずいぶんと遠回りな気がする。


 美海のハッキングのような特殊な技術や能力がないと、このルールを知ることはなかっただろう。

 自分を召喚した適性者を殺さない限り。


 そこまで考えて、藍歌は自身を召喚した適性者⋯⋯レンヤのことを思い浮かべた。

 

 「それにしても、レンヤさん。一見頼りなさそうな見た目なのに、この私に真っ向から意見してくるだなんて……」


 藍歌はBを切り捨てることに、レンヤが反対した時のことを思い出した。



『レンヤさん。私、昨日言いましたでしょう? Bは切るべきです。あの手の人間は、反省もしなければ進歩もしません。そんな輩に割く時間は――――』


『藍歌』


『君の気持ちも理解できる。だが脱出の糸口がどこにあるか分からない以上、情報源は多いほうが良い。適性者は俺を含め、4人しかいないんだ。俺はBとの連絡を断つような真似はしない。分かってくれ』



 レンヤは藍歌の性格を理解した上で召喚している。

 藍歌は味方であっても『不要』と判断すれば即座に切り捨てるほど冷酷だ。

 藍歌は敵対者には一欠片も慈悲をかけず、容赦もしない。


 群青灘 藍歌という人間は、普段は穏やかな面を被っているが、その性根は残酷で冷淡なのだ。

 藍歌自身、自分のことをそのように評価しているし、それが悪いことだなどと思ったことはない。


 だというのに、レンヤは藍歌の言葉をさえぎって反論した。真正面から、藍歌の不興を買うこともいとわずに。

 

「レ、レンヤさんにも、意外と男らしい部分があるということですね。あれほどキッパリと反論されたのは久しぶりだったので、少し驚いてしまいました。す、少しだけ……」


 ほんのりと赤く染まり、熱っぽくなってきた頬に手を添えていた藍歌は、一つ咳払いをして気持ちを切り替える。


「明日でいよいよ3日目ですか。さて、何が起こるのやら……」


 そろそろ執行部が何らかのアクションを起こすかもしれない。

 その時、レンヤは果たしてどんな判断を下すのだろう。

 

 明日を思い、藍歌は闇の中で密かに笑った。



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