異界邸宅 第13話
レンヤ、藍歌、美海の三人は、食事を終えて再びリビングへと戻っていた。
「そのEっていう人の監視カメラをハッキングすればいいんですよね?」
「ああ、頼む」
「やってみますけど……」
美海は普段から持ち歩いている愛用のノートPC型デバイスを使い、ハッキングを開始する。
レンヤと藍歌は黙ってその様子を見守っていた。
そして数分と経たないうちに、美海はEの家の監視カメラの映像へアクセスすることに成功した。
「流石だな」
「いえ、なんか拍子抜けするくらい簡単でした。まるで『どうぞ覗いてください』って感じで……」
美海のデバイスに映像が映し出される。レンヤは思わず身を乗り出して画面に注目した。
新たな手がかりに対する期待と、頭にこびりついた嫌な予感がレンヤの体を突き動かす。
しかし、そこに映っていた光景は想像を遥かに超えたものだった。
「ヒッ――――え? こ、これ……本物?」
「あらまぁ」
画面にはEの家のリビングが映し出されていた。
部屋の造りはレンヤたちがいる家とまったく同じ。だが、一部の家具が破壊され、床や壁には大量の血飛沫が飛び散っている。
その中心には、首を切断された男の死体が横たわっていた。
男は筋肉質のガッシリとした体格で、肌は日に焼けている。切断された首は、身体から少し離れた場所に転がっていた。
この男が、おそらくEなのだろう。
血の海。赤い斑に塗装された壁。
画面に広がる赤色が、Eが電話に出なかった理由を物語っていた。
「これは……」
レンヤは後に続く言葉を絞り出せなかった。
その直後、美海は勢いよく立ち上がると、顔を真っ青にして口元を抑えながらトイレに走っていった。
「随分と派手な殺し方ですね」
隣で画面を覗き込んでいた藍歌も、流石に表情を固くしている。
「これが、Eの末路……」
未だに頭が再起動していないレンヤだったが、映像内の注目すべき点は、Eの死体以外にもあった。
画面の奥に、一人の少女が立っている。
ファンタジックにデフォルメされた和服姿。黒髪をポニーテールに結び、その手に血に濡れた刀を持っている。
「彼女は確か……『レジェンド・オブ・ジ・アトモスフィア』の『ハヅキ』か?」
レンヤは昔プレイしていたRPGの登場キャラクターと瓜二つの少女を見て、思わず声を上げた。
ハヅキは主人公に忠誠を誓うサムライの少女で、妖刀『界走り』の使い手でもある。
彼女は全身に返り血を浴びて、無表情のまま静かに佇んでいた。
「Eはハヅキを召喚して……殺されたのか」
「召喚するキャラを間違えるとこうなる、というわけですね。ですが、Eは私たちに貴重な情報を残してくれました」
藍歌は、映像内のリビングに設置されているモニターを指差す。
そこには重要な、そして衝撃的なメッセージが表示されていた。
『適性者の死亡が確認されました。24時間後に家の扉のロックが解除されます』
レンヤはその一文を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
「扉のロックが解除……」
隠されたルールが存在するであろうことは予想していた。
だが、このルールを考えた執行部は、揃いも揃って全員クソ野郎の人でなしだ。
「つまり――――」
レンヤのすぐそばで、藍歌が透き通るような声で現実を口にする。
「適性者が死ねば、残りの召喚されたキャラクターは外に出られるということですね」
適性者の死をトリガーとする、もう一つの脱出条件。レンヤは拳を握りながら、画面を見つめ続けた。
――――執行部は殺し合いが見たいのか?
――――俺たちが取り乱し、恐怖に飲まれていく様を嘲笑いたいだけなのか?
――――分からない……。
レンヤは血の海に沈んだEの姿を見ながら、歯を食いしばって考え続けた。
考えても、考えても、答えなど出てこない。
その様子を、藍歌はただ静かに見つめていた。