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異界遊戯執行部  作者: 春雪
異界邸宅編
10/31

異界邸宅 第10話


《適性者B 2日目》


――――プルルルル……ガチャ。


「Dか!? 良かった! 連絡くれたんだな!!」


 Bの声は相変わらず落ち着きがなく、不安を抱えている様子だった。Bの声を聞いた途端とたん、藍歌は不機嫌な空気を出し始める。

 そんな彼女を横目に見つつ、レンヤは話を続けた。


 まずはAの時と同様に、昨日の出来事をBにも説明する。その後、レンヤはBの状況を尋ねた。


「それで、B。そっちの状況はどうだ?」


「そう、そうだよ! 俺も召喚したんだ! でも、もう大変で……!」


「誰を召喚した?」


「いぶきたん」


――――いぶきたん?


 レンヤは自身の記憶を探ってみたが、『いぶきたん』という名前に該当するキャラを思いつかなかった。


「すまん、B。『いぶきたん』って誰だ? どの作品の登場キャラだ?」


「はぁ? お前『いぶきたん』を知らねぇのかよ。アイフリだよアイフリ! 『アイドル・フリーダム』の『松浜まつはま 伊吹いぶき』ちゃんだよ! 俺の最高の推しキャラ!」


 アイドル・フリーダム。レンヤの記憶が確かなら、アイドルを育成するシミュレーションゲームだったはずだ。


「分かった。その松浜 伊吹ってキャラクターはどんなキャラなんだ? 何か特技とかあるのか?」


「そりゃ、アイドルだから歌と踊りだろ。あと陸上部所属でクールな見た目なんだけど、意外と押しに弱くて女の子らしい部分もあったり……」


 レンヤは頭を抱えたくなった。

 昨日あれほど「よく考えて召喚しろ」と言ったにも関わらず、Bが召喚したのは単に『自分好みのキャラ』だった。


 もはや恐ろしくて、隣りにいる藍歌の表情を確認することもできない。

 レンヤが言葉を失っている間にも、Bは話を続けた。


「だけど、せっかく推しに会えたってのに、好感度マイナスなのが本当にきつい。なにを言っても信じてもらえないし、完全に警戒されてる。俺は本当に、無理にどうこうしようと思ってないのに……」


 レンヤはBの話を聞きながら考えた。

 Aの時にも感じたが、好感度マイナスの影響は召喚したキャラの性格によって『振れ幅』があるのかもしれない。


 少なくとも自分と藍歌は、最初から話し合いくらいはできた。

 プライドが高いキャラ、気が強いキャラなどの召喚は、慎重になったほうが良いだろう。


「……状況は分かった、とにかく焦るな。下手に動いて失敗したら、最悪の事態になるかもしれない」


「わ、分かってるけどよ……でも、どうすればいいんだ?」


 Bは明らかに精神的に追い詰められ始めていた。

 

「急に距離を詰めようとせず、根気よく説得しろ。その……いぶきたんも、この家から出たがっているはずだ。ゆっくり、慎重に、脱出への協力をお願いするんだ。こっちも何かあったら、また連絡する」


「分かった。……やってみる」



――――Bとの会話、終了。



「レンヤさん。私、昨日言いましたでしょう? Bは切るべきです。あの手の人間は、反省もしなければ進歩もしません。そんなやからに割く時間は――――」


「藍歌」


 藍歌が顔を上げると、レンヤは真剣な眼差しで藍歌を見ていた。


「君の気持ちも理解できる。だが脱出の糸口がどこにあるか分からない以上、情報源は多いほうが良い。適性者は俺を含め、4人しかいないんだ。俺はBとの連絡を断つような真似はしない。分かってくれ」


藍歌は少しの間だけ無言で固まった後、レンヤから視線をそらした。


「……レンヤさんがそこまでおっしゃるなら、この件に関して私は何も言いません」


「ああ、ありがとう」


 二人の会話はそこで終了した。

 レンヤは気持ちを切り替えて、Eへと電話をかける。EはB以上に厄介な性格だ。気を引き締めないといけない。



◇◇◇



《適性者E 2日目》


――――プルルルル、プルルルル……。


 レンヤは眉をひそめた。


――――電話に出ない。


 もう一度、Eに電話をかけ直してみる。

 しかし⋯⋯。


――――やはり出ない。


 レンヤは仕方なく受話器を戻した。


「3つの可能性がありますね」


 いつも通りの微笑みを浮かべながら、藍歌が指を3本立てる。


「そうだな。Eは昨日の時点で、他人と協力する気が一切なかった。電話を無視している可能性は十分にある。2つ目が――――」


「Eはすでに脱出を果たしてしまった。家にいないのであれば、電話を取ることはできません。そして3つ目が――――」


「Eは電話に出られない状態にある、か」


 レンヤは腕を組んで思案する。

 昨日のEの態度を考えれば、電話を無視している可能性が一番高い。

 だが、どうしてもCのことが頭をよぎり、嫌な予感をぬぐい去ることができなかった。


「いずれにしろ、Eの様子を確認できない以上、我々に打つ手はありませんね」


「いや、ある」


 レンヤは一つの決心をして答えた。

 レンヤの言葉に少し驚いた表情を見せた藍歌だったが、すぐに心底楽しそうな笑みを浮かべ始める。


「候補はいらっしゃるのですか?」


「何人かな」


 2人はそれだけ言葉を交わすと、リビングへと向かった。

 現時点でEの様子を確認できる手段がないなら、手段を持っている者を喚べばいい。


 レンヤはここで、諸刃もろはの剣を振るうことに決めた。



 ――――二度目の召喚を行う。


 

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