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90歳の「俺」

 五十五歳になってまたバイクを買った。

 バイクを買うのは久しぶりだった。

 ヤマハのSR400というバイクで、俺が二十歳くらいの頃に売り出され、そのとき俺はすぐにそれを買った。

 そして安アパートに住んでいた俺はそれから数年間、それであちこちを走り回ったもんだ。

 しかもどういう訳かそのバイクは、それから実に三十五年以上もの間、同じ形で売られていたということを最近知った。

 ギネスに載りそうなほどのロングセラーだ。

 ともあれそれがとても嬉しくて、この歳になってまたそのバイクを買おうと思ったのだった。

 ちなみにそのバイクはシリンダーが一つしかなく、つまり単気筒で独特の「ドドド」という音をたてて走る。


 さて、五十五歳になった俺はそのバイクでツーリングに出た。

 そして、たまたま俺が二十歳くらいの頃に住んでいた、その安アパートの近くを通りがかったので、俺が二十歳の頃住んでいた、その場所に行ってみたくなった。

 三十五年前と同じバイクで…

 ところがそのアパートはすでに解体され、そこは駐車場になっていた。

(やっぱりな。三十五年も経てば…)

 俺はちょっと残念に思ったけれど、でも、三十五年前に住んでいた場所が懐かしくもあり、それで俺はしばらくそこに佇んでいた。

 すると、駐車場の隣の敷地に建っていた長屋から、一人のおじいさんが出て来て俺に近づき、俺の顔を見てにこりと笑い、そしてこう言った。

「わしは昔、このバイクに乗っとったんじゃ。これは単気筒じゃな」


 少し驚いたが、何十年ものロングセラーのバイクなら、昔乗っていたおじいさんもいるのだなと、俺は納得し、それからしばらく、そのおじいさんといろんな話をした。

 話しているうちに、何となくそのおじいさんが、他人とは思えなくなった。

 何だか、自分にとても似ているような気がしたんだ。

 不思議だった。

 一体、このおじいさんは誰なのだろう…


 それからも俺はそのおじいさんといろんな話をして、そして偶然歳の話になり、そのおじいさんが九十歳だということを知った。

 そしていろんな話をした後に俺が、

「それじゃお元気で。長生きしてくださいね!」と言って、ヘルメットを被り、バイクに乗ってエンジンを掛けた。


 すると「ドドド」という音がして…そしてなぜか俺は眼が覚めた。

 俺は自分の長屋で昼寝をこいていたのだった。

 そしてその「ドドド」は長屋の外から聞こえていたが、しばらくすると、その音は止まった。

 それにしても不思議な夢だった。

 俺は今、九十歳なのに五十五歳でバイクで旅をする夢を見るなんて…

 そう思いながら、もう夕方近かったし、一人暮らしの俺はそれからいつもの夕食の、カツオのたたきと焼酎を買いに行くことにして、長屋を出た。

 すると長屋の前の駐車場に、妙に見覚えのあるバイクが置いてあり、その傍らに五十歳台とおぼしき男が立っていた。

 何となく俺はその男に親近感を覚え、それでその男に歩み寄り、にこりと笑い、そしてこう言った。

「わしは昔、このバイクに乗っとったんじゃ。これは単気筒じゃな」

挿絵(By みてみん)

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