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モンスターペイシェント(YouTube配信中)

 外科医をやっているおれが、ある男の足の傷の縫合を終えたとき、突然その男がこんな事を言い始めた。

「絶対に化膿したりしねえだろうな!」

「絶対に、なんて無理です」

「無理?」

「傷は完全に消毒したし、ドレーンといって、もし傷が化膿した時の為に液体を抜く管も入れてあります」

「俺の足に勝手にそんな物を入れたのか?」

「勝手にって、化膿しない為だし、万一化膿しても膿が抜けるようにする為だし、それに…」

「それに何だよ?」

「破傷風の予防の為です」

「おまえ俺を破傷風にする気か?」

「破傷風にする気なんかありませんよ。だいたい破傷風菌は本当はそこいらじゅうにいるのです。そして破傷風菌は空気に弱いので、ドレーンで傷の中に空気を送るという意味合いもあるのです」

「で?」

「でって?」

「化膿しねえのか?」

「私は神ではないので、化膿するかしないかの予言は出来ません。しかし完全に消毒したし、ドレーンも入れたし、それから化膿の予防に抗生剤も処方するつもりだし…」

「薬は体に悪いから飲まねえど! 酒はたくさん飲むけどな」

「あ、傷が治るまでお酒はだめですよ!」

「このやろう!」

「アルコールで血管が開いて」

「やかましい!」

「それにあの…、化膿を予防する為に…」

「どうでもいい! で、化膿しねえ保証は出来るのか?」

「保証?」

「そうだ!」

「ええと、それから化膿しない為に、これから毎日消毒に来て下さいね」

「毎日消毒? 話をすりかえるな。保証の話だ!」

「そんな保証は出来ません! で、毎日消毒…」

「そんな暇ねえよ!」

「あのですね。薬は飲まない。酒は飲む。消毒には来ない。それで後から化膿したなんて言われても困りますけど」

「やかましい! 薬は飲まん! 酒は飲む! 消毒に来るのはめんどくせえ! とにかく消毒には絶対来ねえど! で、化膿しねえ保証は?」

「医療の世界でそういう意味の保証は不可能です。だいたいこちらの指示する事も全く守らないつもりみたいだし!」

「おめえ客に指図するつもりか? コンビニでも客にそんな指図はしねえど!」

「あなたは客ではありません。患者です」

「患者だろうが何だろうが、てめえの指図は受けねえど! それで化膿したら補償するのか?」

「だからそういう補償も致しかねます。もちろん化膿したらそれなりに対応します。専門の医療機関を紹介することも出来ますし。しかし化膿したからといって、足の補償は…」

「スマホが故障したら、補償で新品もらえるど!」

「新品? じゃ、足の新品?」

「あったりめえよ!」

「新品ねえ…」

「絶対に補償しろ! 新品をくれ! くれねえとぶっ殺すど!」

「新品…」

「新品をくれるのか?」

「新品を…」

「どうなんだ? 新品をくれるのか? くれねえのか? どっちなんだ? 早く決めろ! 俺は気が短けえんだ!」

「分かりました。もし薬は飲まず酒は飲んで消毒に来なくて化膿して足を切断するはめになった場合…」

「どうすんだよ?」

「補償として新品の足を差し上げましょう」

「よしよし♪」

「あ~、実は、私の実家では養豚をやっていましてね。それで補償として、新品の豚足などいかがですか?」

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