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第7話 スーパーボロスバーストインフェルノアポカリプスドラゴンブレイズヘルファイアスカーレイン②

魔力量の問題は解決した。あとは魔法のイメージだけだ。



 だが、なにをイメージすればいいのかは既に考えてある。



 ライターだ。

 




 尿みたいに身体から直接、出すものではない。



 だが、きっと上手くいく。

 




 ……なぜなら、俺はヘビースモーカーだったからだ。

 




 勤務20時間を生き抜いたあとの祝福ともとれる残りの4時間。

 


 俺はその間、ずっとタバコを吸い続けた。





 それも1日、1カートン分。



 だからこそ、その分だけ、ライターに火をつけてきた。




 

 つまり、ライターは俺の一部だ。




 

 ◇



 ――目を閉じた。



 ライターを思い浮かべてみる。



 それを手のひらでしっかりと握る。



 親指をそっとホイールにかけて――カチッ、カチッ!





「……どうだ?」



 目を開けてみる。



 だが、火らしきものはどこにもない。




 

「バカだな、そんなんでできるわけがねえのに」



 パブレが俺にバカと言った。



 だから、ちょうど家の外に出てきていたフィアナに向かって、こう叫んだ。



「お母さまー! パブレさんがいじめてきまーす!」

 




 すると、パブレはすぐさま俺の口を手で封じて、アハハと笑い始めた。



「いやだな〜、お坊ちゃん! 冗談がお上手ですね〜!」

 


 このザマである。


 



 フィアナが微笑みながら俺たちに手を振ってきたので、きっと何も聞こえていなかったんだろう。



 まったく運のいいヤツめ。

 

 


「ほら、フィアナがみてるんだから、しっかりとご指導してくださいよ?」



「当たり前っすよ〜、お坊ちゃん! ……それで、早速アドバイスですけど、イメージを持ってくるんじゃなくて、その場でイメージするんですよ。意味わかりますか?」



 パブレが多少むかついている様子でそう言った。



 だが、やはり性欲のパワーは侮れない。



 なんせ、あのパブレがおれに敬語を使ったのだから。


 



「その場でイメージか……なんとかやってみます」



 そう言って――また目を閉じた。

 


 ◇



 ライターを右手に。



 もう片手にはタバコ。それを無意識に唇に咥える。



 いつもと同じ動作。



 いつもと同じ薄暗い空。



 いつもと同じシワだらけのスーツ。

 




 狭いベランダに直であぐらをかく。



 まわりには1カートン分のタバコが散乱している。



 そのまま、ライターを口に近づけて、ホイールを弾く。



 火をタバコに伝えさせる。



(あたたかい……)





 ――毎朝、通勤電車に揺られて、オフィスに足を踏み入れる時に感じる冷たさ。



 挨拶も、会話も、誰かの温かい声も、何一つない冷たさ。



 ただ機械のように仕事をこなすだけの日々。



 それでも理不尽に怒鳴られて、無視されて、叩かれてが当たり前の世界。



 俺には誰も期待していないのだと、改めて気付かされる冷たさ。




 

 それでも、この一畳にも満たないベランダにある微かな火。



 咥えたタバコにライターを近づけるたびに、顔に触れる確かな温もり。

 




 あのクソみたいな人生に未練なんてない。



 そう思っていたけれども、この瞬間だけは大好きだった。




 

ボボッ……!

 




「――おいおい、うそだろ……?」



 パブレの慌てた声に、おもわず目を開けた。




 

 そこにタバコもライターもあのベランダも何もない。それらは全て、ただの幻想にすぎない。



 ただ、火だけは確かに灯っていた。

 


「できた……!」



 そう声を上げたら、パブレは困惑した顔でこっちを見てくる。



「……? どうしたんですか?」



 成功したんだから、一緒に喜ぶくらいはしてくれてもいいじゃないか。



 まったく冷めたヤツだな、パブレは。



「いや、お前……さ」



「ん?」





「なんで、泣いてんだ――?」

 




 そのとき、頬から流れた涙がポタリと落ちて、かすかに灯った火を消し去った。



 ◇

 


 それから1時間が経った。



 俺は引き続き、パブレと余りに余った魔力を使って、なんと初めての火属性魔法を作った。



 それこそ、かの有名な「グイッと力を込めて、そしてハッと放つ」方法を試したおかげだ。

 


 といっても、小さな火の玉を飛ばすだけのとても単純なものだが。

 


「すごい、たしかにこんな魔法は見たことがない」



 それでも、パブレはずっと驚いている。



 まあ、無理もない。



 我々の遠い祖先がはじめて火を見たとき、きっと同じような反応をしたんだろうから。



「これが『火』属性魔法です」



「『火』か……良い名前だな。それで、この技の名前はどうする?」



「技の名前?」



「あぁ、お前が思いついたんだから、命名権もお前にあるだろうよ」



 そうか。それはいい。

 


 小さな火の玉を飛ばす簡単な魔法の名前。



 もう名前は決まってる。



 とっくの前から。





 


「スーパーボロスバーストインフェルノアポカリプスドラゴンブレイズヘルファイアスカーレイン」

 


 ◇


 



 今から、そう遠くない未来のこと――



 火属性魔法が普及したこの世界で、子どもたちがこの小さな火の玉を放つだけの下位も下位の魔法を「スーパーボロスバーストインフェルノアポカリプスドラゴンブレイズヘルファイアスカーレイン」と呼ぶ日がくることを……フレアはまだ知らなかった。

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