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第5話 『火』、あるかも……?

 あれから1週間が経った。



 最近は、とにかく水魔法を出す練習をしまくってる。



 おかげで、水属性の下位魔法はいくつか出せるようになった。



 が、ひとつだけ問題がある。


 



 水属性魔法を出すと、尿を漏らしてしまうのだ。それも必ず。


 



 最初は魔法にまだ慣れていないだけで、そんなものなんだろうと思っていた。



 だが、違った。



 俺の脳内に、【水属性魔法=尿】という謎の方程式が出来上がってしまったせいで、なにをしても必ず漏らしてしまうのだ。





 それで、あの、なんとも恥ずかしいのだが……。



 俺がお漏らしをして、大変よろこんでいる人が1人だけいる。



「もう、フレアったらまたお漏らしして〜! お身体、キレイキレイしてあげるから、洋服脱いでちょうだーい」



 俺の母だ。


 



 生後2ヶ月で俺は歩けた。生後3ヶ月目には、うんちを一人でこなした。そうやって、自分の世話は自分でちゃんとしていた。



 それこそ、お漏らしといった幼稚じみたことはしたことがまずない。



 だから、フィアナは嬉しいのだろう。



 出来すぎる息子を世話してやる日がやっと来たか、と。

 




 でも、たまにはそれもいいかもしれない。



 なんたって、まだ5歳なんだもん。

 


 


「ハックシュン!」



「あら、風邪ひいちゃったかな?」



 風呂に入れてくれているフィアナが心配そうに俺を見つめる。



 ちなみに、なぜかフィアナも俺と一緒に浴槽に浸かっている。

 




「いいえ……平気です」



 とは言ったが、正直、風邪をひいても無理はない。




 

 これ、いわゆる水風呂ってやつだからだ。


 



 この世界には水を温める装置もないし、そもそも『火』がないのだから。



「火があれば、風呂もゆっくりできるんですけどね」



 とボソッと口にした。



 すると、フィアナが、ねぇフレアと呟いた。



「『ヒ』ってなんなの?? このまえも言ってたじゃない」



「なんでもありませんよ、お母さま」



「えー、でも、その『ヒ』ってやつでフレアがお風呂に気持ちよーく入れるんだったら、お母さん知りたいなー」



 そう思ってくれるのはありがたいが、説明しろと言われても困るのだ。


 



『火』という概念が存在しない世界で、『火』を説明することはまず容易じゃない。



 サルに大学院レベルの物理学を教えようとするみたいに、そこには大きな知識と経験の差がある。



 特にフィアナに教えるとなると……考えるだけで頭痛だ。



 だが、フィアナはあきらめずことなく、教えてよオーラを漂わせた顔でずっとこっちをみてくる。

 


 はぁー……めんどい。



 ごまかすか。




 

「えいっ!」



 ととっさに、『アクアショット』という水属性の下位魔法をフィアナの顔にかけた。わかりやすく言えば、水鉄砲の要領で。



 すると、フィアナの口角があがった。なんだか嬉しそうだ。



「あ〜! やったわね〜フレア!」



 うん、よかった、これで彼女の意識は『火』から水遊びに変わったはずだ。



「私もいくわよ〜!」


 

 ノリノリのフィアナは手のひらを俺に向けて、魔法を唱えた。



「『アクアスピア!』」



「え? ちょっ、ま」




ピシュッ――!




 勢いよく、鋭い水の矢が向かってきた。



 考えなしに、俺はとにかく頭をそらす。



 幸い、矢はおれの頬をカスっただけだった。



 ……当たってたら、危なかったな。



 だって、『アクアスピア』だ。水属性の中級魔法だぞ?



 下手すりゃ一撃で死んでる。



「あはは! おっかしい!」



 と腹をこらえながら、フィアナは笑った。



 薄々、気づいてはいたが、彼女、かなりのぶっ飛び具合だ。


 

 自分の息子に中級魔法とは、それはそれはぶっ飛んでやがる。



 でも、悪気がないのだろう。



 だからこそ、そこまでフィアナを責めることもできない。

 




「それで……」



「ん?」

 


 フィアナは言った。なんだか嫌な予感がする。



「『ヒ』ってなにかしらー?」



 勘弁してくれー……。



 とりあえず、適当でもいいからなにか言っておくか。

 


「えーっと、『火』は暖かいものですよ。水は冷たいけど、火は暖かい。だから、火を使えば、お風呂は暖かいですし、冬も命がけじゃなくなります」



 まあ、簡単に説明するとこんな感じか?



 フィアナも理解した、と頷いてるが。



「へー! 便利なものなのね!」



「そうですね、便利です」

 


 いや、「便利だった」と言った方が良かったか。




 

 ご存じのとおり、この世界に『火』は存在しない。

 


 フィアナだけじゃない。村の人も、パブレも、だれもそれを知らない。



 だから、この世界に便利な『火』は残念ながら存在しな――。




 

 いや、待てよ?

 


 本当は存在してるんじゃないか……?




 たしか、『魔法はイメージ』だってパブレが言ってた。魔法の力を引き出すためには、まずその対象を強くイメージすることが大切だって。



 だけど、この世界の住人は『火』の概念すら持っていない。



 だから、火は存在しない。




 

 ……いや、ちょっと違うな。


 

 火は存在する。それもほぼ確実に。


 

 ただ、こいつらが知らないだけだ。 こいつらが火をイメージできていないだけだ。






 

 でも、いるじゃねえか。



 たった一人、この世界で『火』を知ってるヤツが。


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