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第4話 水属性魔法=放尿


 パブレはたぶんハズレだ。





 パブレは新しく、俺の家庭教師になった中年男だ。


 

 というのも、1歳のころから俺はずっとフィアナに家庭教師を頼んでいた。



 異世界ならば、はやく魔法の訓練を始めたほうが、将来のためになる。



 そう思ったのだが、過保護なフィアナはダメだと言った。20歳まではダメだと。



 だから、彼女を論破した。満1歳にして。



「僕が魔法を学べば、お母さまを守る力になります。守るためには幼少期から準備する必要があって、20歳まで待つのはリスクが高すぎるのです」と。


 

 そうしたら、フィアナは泣いて、何度もうなずいた。



 1歳の息子の論破からくるものじゃなく、感動の涙だ。



 そして、5歳の誕生日を迎えたら、家庭教師をつけてくれると約束してくれた。



 でも、そんな前の約束、フィアナならてっきり忘れているものだと。



 だから、いざパブレが家に来たときは驚いた。




 

 でも、それだけじゃない。



 俺は魔法使いの女の子と楽しく魔法を学びたかった。



 できれば、かわいらしい癒し系の子が。



 それが本望だった。



 そもそも魔法の家庭教師といえば、女の子じゃないのか?



 それで、俺の魔法が暴走してしまって、あわよくば、彼女の衣服が全てはだけてしまうというHなハプニングを……少しは期待していた。



 ……正直、どんな子が来ても良かったんだ。



 容姿に愚痴をいうつもりなんてサラサラなかった。



 性格が曲がった子でも受け入れるつもりだった。



 むしろ、そうであれば、ツンデレ予備軍なので、大歓迎だったのだが。



 でも、中年男というどれにも当てはまらないのが家庭教師とはどうしたって認められない。




 

 それにパブレはクズだ。



 これは、パブレが女じゃないからっていう当てつけで言っているわけじゃない。



 ヤツはちゃんとクズだ。



 フィアナの前では一丁前に、「やぁ、フレアくん」と俺を君付けしていたのに、いざ湖の近くで授業が始まると、



「おい、坊主」



 とパブレのひん曲がった性格があらわに。



 お前が女ならば、どれほど嬉しかったことか……。



「坊主、聞いてるか? ほら、これ」



 そう言われて、『魔法基礎』と書かれた太い本を渡された。



「それを読んで、勉強でもしてな」



「え……あ、ありがとうございます」



 一応、お礼は言っておいたが、いろいろとおふざけが過ぎてるぞ、パブレ。


 

 ブラック企業でそんな態度は日常茶飯事だったから、別に苦ではないが。



 仮にも5歳だぞ、俺。





 そして、パブレはというと、釣り道具一式を抱えて、俺のことなんて気に留めずに、湖の釣り場でゆうゆうと釣りをはじめた。



 まあ、気にすることはない。



 魔法に関する書物をくれたってだけで、十分だ。



 パブレに魔法を教えてもらうと、変な癖がつきそうで怖いから、独学のほうがいい。



【魔法基礎 第1章 魔法を知ろう】


 ――大きく分類すると、魔法は「水」「風」「土」の三大元素に分かれる。それ以外に「光」「闇」属性もあるが、稀有なもの。

 

 ――それぞれの属性魔法は「下位魔法」「中位魔法」「上位魔法」の3段階に分類される。

 

 



 ほうほう、なるほど。



 わかりやすい説明だが、これはフィアナに教えてもらったことがある。



 それよりも、肝心なのは魔法の使い方か。



 えーっと……あった、あった。



 どれどれ〜?

 


【魔法基礎 第3章 魔法の使い方】



 ――魔法の使い方は実に簡単である。まず、《《グイッ》》と力を込めて、そして《《ハッ》》と放つだけだ。





 …………………………は?



 さっきまでの分かりやすさは一体どこへ?



 普通、魔法の原理はこうで、こうだから、魔法の使い方はこうだ。とかじゃないの??



 まあいいか。文句なんか言ってても魔法が使えるようになるはずがない。





 とりあえず、やってみるか。



 手を広げて、念を送ってみる。



 手のひらに、神経を集中させて……。



 ……ハッ!!


 



 うん……当たり前だが、なにも起きない。



 ◇



「あ、あの……パブレさん」



「あぁ? なんだ、坊主?」

 


 釣りに夢中のパブレに声をかけた。ブリキのバケツにはまだ魚は1匹も入っていない。



「よければ、魔法の使い方を教えてほしいのですが」



 すると、パブレはため息をついて、



「本に書いてあっただろ。グイッと力を込めて、ハッと放つだけだ。これの何がわからん」



 いや、だからその「グイッと」と、「ハッと」がわからんのだよ。



「コツとかはないのでしょうか? こうすれば魔法が使いやすくなるとか」



 それを聞いて、パブレは笑った。おいおい、と。



「そんなに質問をするな」



 ……えっとー、なぜ?



 あなた、家庭教師ですよね? なにも教えてくれはしないし、質問もするな、だと?



「俺の無知がバレるだろ」



 あ……ダメだこりゃ。



「俺に大した期待はするな。そこまで魔法が得意じゃないんだ」



 期待なんかしてねえよ……。



 てか、まじ何しにきたんだ、こいつ。





 もういいです、と告げてうつむいたまま、その場を去ろうとしたら、パブレが、



「まあよくわからんが、ひとつ言えるとしたら魔法はイメージだ」



「イメージ? そんなこと本のどこにも書いてないですけど」



「抽象的すぎるからあえて書かない。だが、イメージがものを言う」



 抽象的って、「グイッと」や、「ハッと」よりはだいぶマシだろ。



「まずは、水でも出してみろ。身近なものに例えてでもやってみたらいい」



 パブレは竿をおいた。



 俺に向き合ったのは、これが初めてだ。



「例えか……わかりました。やってみます」



「目を閉じて、水を想像しろ」



 言うとおりに目を閉じて、考えてみた。



 水を出すイメージ……。



 蛇口をひねる感じ?



 いや、違うな。



 シャワーを出す感じか?



 これもなんか違う気がする。





 ……うん、わからんな。




 

ヒュウゥ……ヒュルル……



「風が吹いてきたな、ったく。こんなんじゃ魚が釣れねえわけだ」



 パブレがそう言った。



 お前は、あまり魚を釣るなよ? 本職かはわからんが、いまは家庭教師の仕事をしとけよ?

 


 にしてもたしかにパブレの言うとおり、寒いことは寒い。



 普通だったら、冬の季節は外出も控えるべきだろうが、魔法の特訓のためだ。



 こんなに寒いと、なんだか尿意を感じてきたな。



 ちょっと待てよ…………尿か……。



 そうか……!



 身体から直接、水を生み出すって意味では、感覚が近しいのでは?



 ……うん、案外、いい線いってるかもな。

 


 とりあえず、それでやってみるか。

 


 よし、集中だ。





「そうだ、フレア。その調子」



 パブレの声が聞こえた。



 その時、手のひらに冷たいなにかを感じた。



 目を開けると、細い水が手のひらにでてきている。イメージとよく似たものだ。



「できたっ!!」



「よくやったもんだ。はじめてにしては上出来だ」



 そう言われて、パブレに頭を撫でられた。



 なんだ、上から目線で。



 とは思ったが、



 これに関しては、アドバイスをくれたパブレのおかげだな。





「って、あれ?」



 地面が湿っていることに気づいた。少し、ツンとくる臭いも。



 ちょうど、俺の周りだ。



「僕がこれをやったんですか?」



 パブレに聞いてみた。



「あぁ、お前だな」



 やっぱりだ!



 まさか、水魔法が手のひらだけじゃなく、身体から溢れ出ていたのか?!



 うん、これは水属性魔法の才能かもしれんな。





 すると、パブレは笑った。それもかなり大きな声で。



「お前だよ! お前の下に生えてる杖がな!」

 


「え?」



 地面の湿気。



 漂うアンモニア臭。



 そして、パブレの下ネタ発言。



 尿の想像をしすぎで……。





 漏らしたな。


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