第3話 家庭教師
「フレア〜! 5歳のお誕生日おめでとう〜!!」
フィアナが陽気にそう言った。
だが、まずいことになった。
――フィアナがボケた。
今までも彼女はしっかりと変わり者ではあったが、ボケの症状ははじめてだ。
というのも、俺の5歳の誕生日は今日から3ヶ月前のことだからだ。
彼女の手にはプレゼントの包みが見える。長い棒だ。
「誕生日プレゼントよー!」
「え? 誕生日会は3ヶ月前にもう開きましたよね? その時にも誕生日プレゼントで洋服をいっぱいいただきましたよ?」
ほとんどは、フィアナ好みの女の子用の洋服ばかりだが。
「これは誕生日会の時にはまだ用意できてなかったのよー」
「あー、そういうことでしたか」
よかった、ボケてはいなかったみたいだ。
「ほらほら受け取って〜!」
フィアナは押しつけるように俺にプレゼントを渡してきた。
彼女が受け取れって言ってるんだし、そうしないと余計、面倒ごとになりそうだからな。
まあ、受け取ることで俺の甘汁モンスターへの道を突き進むことになるが……。
手に取るとかなりズッシリしている。
「開けますね、お母さま」
うんうん! と嬉しそうにうなずくフィアナ。そのまま俺の顔をずっと凝視してる。
プレゼントの反応を見届けたいのだろう。
反応に対するプレッシャーが余計にかかる……。
ゆっくり開けてみると、それは杖だった。魔法の杖。
包みの形からしてそんな気がしていたので、反応がむずかしいな……。
目をぱちぱちさせて、
「ありがとうございます、お母さま! こんなに立派な杖、一生大切に使います! お母さま、大好き!」
とフィアナの足元をギュッとした。
こんな反応でどうだ……?
フィアナは号泣した。
そして幸せそうな顔で、"我が生涯に一片の悔いなしッ"みたいにたたずんだ。
「買ってよかったぁぁぁぁぁぁ!!」
「お、お母さま、鼻水でてますよ……」
にしても、見事な杖だ。これはウソじゃない。
先っぽにルビフレアという巨大な赤い魔法石がついている立派な杖だ。
5歳の身体にしてはかなり大きな杖だがな。片手で持つこともできない。
まあ、身体が大きくなるにつれて、合っていくものなのだろう。
コンコンっ。
誰かが、玄関のドアを叩く音だ。
「あ、来たかなー?」
フィアナがそう反応して、玄関に向かった。
そして、ドアを開けると、彼女が笑顔で誰かと話しはじめた。
すると、フィアナが俺に手招きをした。
新しい杖に夢中だったから、フレア〜! という声で、やっと呼ばれていることに気づいた。
ん? と疑問におもいながらも、杖を両手で持ったまま、ドアまで向かう。
ドアにいたのは、30代半ばくらいの男だ。
中年男が俺になんの用だ?
「やぁ、フレアくん。良い杖を持っているね」
「お母さまからのプレゼントです。それよりも、どなたですか?」
まだ天に召された気分のフィアナがかろうじて、こう言った。
「フレア、彼はパブレさん。今日からあなたに魔法を教えてくれる家庭教師よ!」
「え?」