表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/7

第2話 この世界には『火』という概念が存在しない

 転生したらしい。それも異世界に。



 あれから5年が経ち、俺は5歳の誕生日を迎えた。



 ちなみに俺が心から感動した子守唄を歌っていたのは、俺の母、フィアナ・グレーデンだった。



 ここ、クラディエ湖畔のごく小さな町で彼女とふたりでのんびりと暮らしている。



 そう、フィアナとふたりきりだ。



 父親は転生した直後に一度みただけで、それっきりだ。



 だから、一度だけフィアナに、父親のことを聞いてみたことがある。



 どこにいるの? 何をしているの? と子どもっぽく、うざくないほどのしつこさで。



 するとフィアナはこう答えた。



「いい、フレア? お父さんはね、とても遠い場所で大切な仕事をしているの。だから、すぐには会えないんだけど、いつか帰ってきたら、きっといっぱいお話ししてくれるよ」



「そうなんだ! お父さんは頑張ってるんだね!」



 と1歳のころからペラペラと話せていた俺は子どものように反応した。



 だが、フィアナの話、実際はきっと違うのだろう。



 死んだか、離別(りべつ)か。



 どちらにせよ、フィアナが言うようにこの家にノソノソと帰ってくることはまずないだろう。




 

 フィアナは少し天然なところがある。



 それが原因で父親が去ったとは考えにくいが、可能性は否めない。



 例えば、俺が生まれた時から最近まで、彼女は俺のことを女の子だと思っていたらしい。



 たしかに、フレア()は女の子のようにかわいい。



 それに、髪を長く伸ばし、可愛らしい服を着せられれば、小さな子どもなら誰でも女の子のように見えるものだろう。



 ただ、実の母親がその勘違いはありえないのでは?



 赤ん坊のころは、トイレやお風呂もやってくれて俺の身体は何度も見ているはずなのに、下部に生えているアレを、



「ただの飾りだと思ってたのよ〜」



 と言った。



 天然というより、能天気か? いや、アレを飾りだと思っていたフィアナを言葉で表すのは惜しい。



 とりわけ、人類史上まれにみない異種なのだ。



「じゃあ、フレアの名前はフレアードにしよっか! 最後に『ド』をつけたほうが男っぽいでしょ?」



「え、フレアって女の子の名前として付けてたの……」



 そうして、5歳の誕生日の日、俺の名前は、フレアード・グレーデンに改名された。



 ◇



「フレア〜! そこの窓、締めてくれる〜?」



「はい、お母さま!」



 小さな窓を閉めようとすると、外からありえないほどの強風が吹いて、長い髪が乱れた。



 ちなみに、今でも、かわいいからと綺麗めのワンピースを着せられている。



 しかも、前に値札がついたままの服があったのだが、案外、いい値段のものだった。



 フィアナひとりの稼ぎなんて大したこともないはずなのに、一体どこからの金なんだろうか。



 それにしても、風が強くて、うまく窓が閉められない。



「うぐぐぅぅ!!」



「ガンバレ、ガンバレ!」



 フィアナが家事を終わらせると、窓辺にいた俺の元に戻ってきて、そう言ってきた。



 普通に応援されるだけじゃ、筋力が上がるわけもないし、何かが変わるわけがない。



 ただ、フィアナの応援は違う。単純じゃない。



「ほら見て、フレア! 風の精霊があなたの力を試そうとしているわ。でも大丈夫。あなたの強さは、十分にあるわ! この窓を閉めることができたら、クラディエ湖畔の村人全員でパーティーをしましょう!」



 その一人の歓声によって、まるで筋力増幅バフのように力がみなぎった俺は、風の精霊を無事に倒し、窓を閉じることができた。



「おめでとう、フレア! あなたなら風の精霊を倒せると思っていたわ!」



 と小さな俺を抱きしめてきた。なんて元気な人なんだろう。



 それに、風の精霊は、倒しちゃマズくないか?



 まあ、フィアナの設定だから、どっちでもいいか。





 あ、それと……



「応援は感謝します。でも村人全員でパーティーはもう開かないでくださいね?」



「えぇぇ……?!」



「戸惑わないでください、お母さま。窓を閉めることができただけでパーティーは変ですよ? 村人がみんな乗り気なのも意味わかんないけど……」



 それを聞いたフィアナはしゅんとした顔で口を(すぼ)めた。

 




 でも、前世の記憶があるのは本当に助かってる。



 フィアナは正直、親としては、まったくダメダメだ。



 窓を閉めただけでパーティーは、人生一周目の子だったら、どうあがいても、甘い汁を吸うモンスターが誕生する以外に考えられない。



 だから俺でよかった。



 どこかの子が犠牲にならなくて、本当によかった。





「風が強くなったわね。そろそろ本格的に冬に入ったかしら? 心配だわ」



「はい、でも火がないから仕方ないですよ」



()?」



 頭を傾げて戸惑うフィアナに抱えられたまま、俺は横に手を振った。



「いいえ、なんでもないです」


 


 ここで問題だ。



 なぜ、フィアナは冬をそこまで心配するのか。



 なぜ、『()』という当たり前の単語がわからないのか。



 色々と複雑ではあるが、簡潔にまとめるとこうだ。




 

 この世界には『火』という概念が存在しない。

ブックマーク、いいね、☆☆☆☆☆等で応援していただけると嬉しいです!! とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ