第1話 転生だよな?
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心が暖かい。
焚き火に当たる串刺しのマシュマロみたいな気分だ。
いや、違うな。
それだったら呑気に暖かいと言っている間に焦げてしまう。
今はそんな「アチアチっ!」な気分じゃない。
もっとこう心地よくて、包まれているような……うーん……そうだな。
母親に抱かれている赤ん坊のような感覚だ。
柔らかくて、優しい手が俺を包んでいる感じ。
「〜〜・〜・・・〜〜」
ん? なんだ?
遠くから声が聞こえる。
声というより、歌声か?
これは……子守唄か。
「〜〜〜・・〜・〜〜」
いや、うん、いいなこれ。
癒される。
言葉はひとつも聞き取れないが……。
自分でも意味はわからないのだが……なんだ、無性に泣きたくなってきたぞ。
子守唄を聴いて涙が出そうになるって、どれだけ追い詰められてたんだ?
でも、こういうのも悪くないかもしれない。
たまには思いっきり泣きたいと思っていたところだ。
「うぎゃああああああ!!」
――って、おいおい、どこの赤ん坊だよ……
俺がいつぶりかもわからない涙を流そうとしたところだ。割って入るように赤ん坊が、すぐ近くで泣きはじめた。
ったく、赤ん坊は泣くのが仕事っていうが、仕事をするタイミングを考えろよ?
いや、でも俺が泣き出す前でよかった。ここで泣いてたら、赤ん坊と感性がおなじだとバカにされるところだった。
「…………」
にしても、泣き止むのがイヤに早いな。一度、泣きわめいたら、すぐ止んだぞ。
まあ、ちょうどいいか。
気を取り直して、もう一度だ――よし、泣こう。
せーの……
「うぎゃあああああ!!」
あーあー、また泣くか。
まったく、俺と涙腺がよく似た赤ん坊がいるもんだ。タイミングがぴったりだな、こいつ。
すると、突然。
不意に何かがふわりと頭を触れた。
柔らかくて暖かい手だ。優しく、俺の頭を撫でている。
気分が落ち着くな。まるで赤ん坊になったみたいだ。
こんな人生も悪くないかもな――じゃなくてさ……。
なんだ? なんで頭を撫でられてる?
俺は赤ん坊じゃなくて、社畜の中年男性だぞ。
それよりも誰だ、俺のことを撫でたヤツは。
いや、そもそもさ、
……俺、一人暮らしだよな????
うん、何かがおかしい。
そう思って、やっと重いまぶたを開けた。
視界がぼんやりしている。それでも、確かなことがひとつだけある。
ここ、俺の部屋じゃない。
社畜生活10年。
残業代すべて未払い。
平均20時間勤務。
そんな生活だったが、昨日はじめて有給をもらったんだ。
さすがに死にそうだな、と笑われながら上司に言われて。
そうだ、思い出してきた。
それで何ヶ月分も寝溜めしようと思って、あのベッドに倒れ込んだはずだよな?
でも、これ、俺のベッドじゃない。
俺の部屋じゃない。
俺のアパートじゃない。
少しずつ目が慣れてきた……のだが。
うん、あきらかに様子がおかしい。
というのもいま、見知らぬ母親に抱かれているのだ。
その隣には、父親らしき人がいる。
えっと、それで俺……
その母親に抱かれてる赤ん坊????
なんだ……俺の感性が間違ってないって喜べばいいのか。
いや、それよりもこれってつまり、あれだよな?
転生……って、やつだよな?
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