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第9話 砂糖と塩

 その後、特に問題はなくカンダの街に到着する。御者は殺されてしまっていたので、デーボが代役を務め、俺とサクラが前を歩くという隊列だったのだが、襲撃されることが無かった。さらには、俺の食事でステータスが底上げされたことで、移動する速度が大幅に上昇したのである。そのおかげで野宿することはなく、小さな宿場町で一泊して、その翌日にはカンダに到着となったのだった。

 普通ならば、宿場町の手前で一泊していたところだ。なお、乗合馬車は追い越している。

 カンダの街は高い石の壁に囲まれており、その壁に作られた通用口は混雑していた。街に入ろうとする者たちの検査があるので、王都に近いこの街は人の出入りが多く、それを混雑なしにさばけるほどのキャパがないようである。

 だが、俺たちは貴族専用の通用口に案内され、そこで簡単な質問を受けただけで通過できた。貴族様様だな。

 街の中に入ると、そこにはファンタジー漫画で見るような風景が広がっていた。白い壁に赤い屋根の家が多いな。地面はむき出しで石だたみというわけではない。その風景を見ると、テーマパークに来たみたいでテンションが上がる。王都じゃ風景を楽しむ余裕なんて無かったしな。今回は存分に目に焼き付けてやる。

 そんなおのぼりさんみたいにキョロキョロしている俺に、サクラが話しかけてきた。


「まずは宿を確保して、それから冒険者ギルドに行く。新たな護衛を雇う依頼を出さねばならないからな」


 宿といっても、一般人の泊るようなものではなく、貴族用の立派な宿だそうだ。従者護衛も当然ながら一緒に宿泊することになるというので、これまた期待に胸が膨らむ。

 ついた先はゴシック様式のような建物だった。正面の入り口に馬車を止めると、宿のスタッフが馬車をどこかへと動かしていく。

 我々は宿の中へと案内され、手続きはサニーが行った。俺たちはそれを後ろから見ている。本当ならこういうことは執事だったり、フットマンがやるのかもしれないが、そんな役職の人間は襲撃時に命を落としてしまったので、サニーがやることになったというわけだ。俺やサクラではこうした仕事は出来ない。

 待っている間、俺はサクラに質問した。


「この宿に宿泊するのにいくらくらいかかるんだ?」

「さあ?私だって初めてだもの。わからないわ」


 高そうなんだが、今後の旅で安宿が堪えられないような酷さだった場合を考えて、世間相場を聞いておきたかったのだが、残念ながらサクラも知らないようだった。

 そんな会話をしていると、ロビーから怒鳴り声が聞こえる。


「責任者を呼べ!こんな間違いをしおって!」


 声の方を見ると、太ったおっさんが顔を真っ赤にしていた。国王に負けず劣らず贅肉がついているのと、高価そうな服を着ているから貴族かなんかだろうか。


「何あれ?」

「さあ?でも、関わらない方がよさそうね」


 興味津々の俺に、サクラがくぎを刺す。関わらない方がいいと言われても、とても気になるのでちらちらとそちらを見る。


「紅茶に入れる砂糖と、塩を間違いおって。おかげでしょっぱいものを口に入れてしまったではないか。健康を害したらどうする!」


 追加でき越えてきた声から、どうも砂糖と塩を間違ったらしい。怒られているのは宿の制服を着た女性なので、ここの従業員なのだろう。彼の怒鳴り声を聞いて、サニーの隣で書類にサインをしていた男が、やはり宿のスタッフに苦情を言い始めたのが聞こえる。

 健康を害したらとか言っているが、そもそもその体は健康に気をつかっていないだろう言ってやりたい。今更少量の塩を摂取したところで、どうなるものでもあるまい。いや、あの体型だとこれでもかっていうほど塩を入れてしまったのかもしれないな。

 なんて考えながら見ていたら、女性従業員が頬を叩かれた。直後に上司か責任者と思われる男性が到着し、土下座で謝罪をはじめた。

 それを見ている俺の腕をサクラが掴んだ。


「何?」


 と、その意図を訊ねる。


「首を突っ込みそうだから」

「そう見えた?」

「ええ。貴族にたてつけば、殺されても文句は言えないわ。だから関わらない方がいいと言ったの」


 俺の腕を放そうとしないサクラ。結局動けないまま見ていると、男は従者が手続きを終えたことで、さっさと部屋に行きたいらしく、それ以上従業員を傷つけることなく立ち去った。

 そこでようやくサクラは俺の腕を放す。


「ちょっと行ってくる」

「どうして?」

「次に同じ間違いをしないような手助けが出来ればと思ってね」

「そんなの気を付ければいいじゃない」


 不良を出した町工場みたいな対策を言うサクラ。だが、それは対策ではない。


「気を付けるだけでミスが無くなるなら、誰もミスをしないよ。貴族を相手にする宿で、客に対するサービスで気を付けてないわけがないんだから」


 そう、いい加減な従業員でもなければ、気を付けて仕事をするものである。だが、それだけでミスが無くなるというものではない。作業中に話しかけられたり、誰かに呼ばれて離席したりすることで、注意が途切れてミスを犯すこともあれば、体調や環境がいつもと違うことでミスをすることもある。それに、そもそも気を付ける対象が間違っていることだってある。

 だから、気を付けるだけではミスの再発防止にはならないのだ。

 俺はお節介にも、そうしたことの知識を使って手助けできるかもしれないと思い、従業員に声を掛けた。


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