第8話 命は食にあり
カンダを目指す道中、昼食の時分となる。貴族といえども、移動中は保存食が基本であり、硬いパンと干し肉、それを柔らかくするための塩スープが定番らしい。
干し肉をかじると、本当に硬かった。思わず測定のスキルで硬さを測定してしまい、HVで30であることが判明した。A3003のO材くらい硬い。そりゃあ食いづらいよなと納得である。
なお、金がHV22くらいであり、純アルミだと20程度になる。A1050というアルミは、爪で押せば痕跡が残る程度には柔らかいのだが、A3003はそこまで柔らかいものではない。まあ、アルミ合金を噛む機会なんてほとんどないだろうが。
とおもったら、隣で美味しそうにアルミ合金を食べている兎が目に入った。
それはさておき、こんなものを食べるのは我慢ならんので、ネットストアで食品を購入する。再び牛肉を購入して、長期在庫で保管している塩コショウを取り出した。
それを見たサニーが驚く。
「まあ、どこから?」
「これは俺のスキルで調達しました。牛肉と、それを味付けする塩とコショウです」
「コショウ!?そんな高価なものを使うのですか」
聞けば子爵家でもコショウなどは普段から使えるわけではないという。それを目の前で平民の俺が使おうとしていれば、驚くのも無理はない。
「なあ、アルトこれは分けてもらえるのかのう?」
デーボが訊いてくる。
「勿論。一人で食うのを見せつけるほど悪人じゃないよ」
「酒は?」
「昼から飲ませないよ」
「はぁ……」
酒のつまみにするつもりだったらしく、デーボは肩を落とした。彼は戦闘で役に立つかどうかわからないので、酒を飲んでいても良いのかもしれないが、依頼主の手前それを許可しない。
そして、デーボがこの肉にありつけるとわかったので、サクラも同じ質問をしてきた。
「あの、私は?あまり高い金額を払えないが」
「無料でいいよ。その代わり、色々と教えてもらうけど」
「勿論だ」
喜色満面となる彼女。犬ならば尻尾がはちきれんばかりにぶんぶんと振られていることだろう。こうなると、残ったサニーもおずおずと訊いてくる。
「あの、私と弟にも」
「どうぞ」
というわけで、全員で食す。
サクラが肉を呑み込むと、笑顔を向けてきた。
「これを食べてしまったら、もう干し肉には戻れそうにない」
「ああ、俺も同じ気持ちだ。というか、あんな硬いもの食えないだろ」
「歯を食いしばる力が鍛えられるというのはあるので、鍛錬だと思って噛んでいた。しかし、食事で鍛錬をすべきではないという結論に至った」
「うん」
鍛えるならなにも食事でなくともよいとおもう。
というか、歯に良くないぞ。
そんなサクラを見ていたら、アルが小声で話しかけてくる。
「みんなのステータスを測定してみるモビ」
「測定?」
「鑑定の親戚みたいなスキルモビ」
鑑定というのは他人の名前とステータスを知ることが出来るスキルであり、測定は名前がわからない鑑定ということらしい。確かに、名前を測定するなんていうのはないからな。
アルに言われた通りに測定してみると、各自のステータスが見えた。
サクラ
年齢:20
職業:剣士
レベル:12
体力:556(+200)
魔力:10(+200)
攻撃力:235(+200)
防御力:156(+200)
サニー・サンタナ
年齢:18
職業:貴族の娘
レベル:1
体力:20(+200)
魔力:10(+200)
攻撃力:11(+200)
防御力:10(+200)
パサート・サンタナ
年齢:14
職業:貴族の息子
レベル:1
体力:21(+200)
魔力:10(+200)
攻撃力:13(+200)
防御力:12(+200)
デーボ・ヒラ
年齢:86
職業:工房主
レベル:8
体力:361(+200)
魔力:55(+200)
攻撃力:126(+200)
防御力:108(+200)
なんか、みんなステータスの後ろに(+200)ってのがついている。
「アルトの出した肉を食べたら、ステータスにボーナスが加算されたモビ」
なるほどと思うが、サンタナ姉弟の攻撃力は20倍くらいに強化されているってことか。肉を食べただけでサクラの強化前の数値と同じくらいになっている。
「これ、肉の影響なの?」
原因がわからないのでアルに訊いてみた。肉以外にも塩とコショウも俺が提供している。どれの影響なのか、それとも組み合わせなのか。
だが、それはアルにもわからないようだ。
「わからないモビ。こういう時こそ再現トライモビ」
「再現トライか」
再現トライとは不具合が発生した時に、その原因を調査するために行うトライのことである。不具合と同じ事象が再現されれば、それが原因ということになる。
とはいえ、すでに肉は食べてしまったので、みかんジュースとマヨネーズを用意した。
ミカンジュースはペットボトルに入ったものだ。
おれはそれをサクラに手渡す。
「サクラ、これを飲むといい」
「なんだこれは?柔らかい瓶に入ったポーションか?この瓶、どうやって作っているんだ?」
サクラはペットボトルを見るのは初めてのようで、その手触りに戸惑っている。俺は同じものを購入して、それを飲む仕草を見せることにした。
「この緑のキャップ、まあ栓だな。これを握って捻る。そうすると取れるから、あとは口につけて飲めばいい」
キャップを開けて飲むのを見せると、サクラもそれに従った。
そこでこっそりサクラのステータスを測定する。
年齢:20
職業:剣士
レベル:12
体力:556(+300)
魔力:10(+300)
攻撃力:235(+300)
防御力:156(+300)
なんと、さらに強化された。
じゃあ、次はマヨネーズだ。マヨネーズを小さな皿に少しだけ出した。
「次はこいつを」
「これは?」
「マヨネーズっていう調味料だ。肉につけると美味いが、人それぞれの好みがあるからな。味見をして、よければ肉につけてみるといい」
サクラはおっかなびっくりマヨネーズをなめる。
「んー、不思議な味」
初めてのマヨネーズに戸惑うサクラ。今回もこっそり測定をする。
年齢:20
職業:剣士
レベル:12
体力:556(+310)
魔力:10(+310)
攻撃力:235(+310)
防御力:156(+310)
今度は少しだけの上昇だ。
摂取した量なのか、それとも種類なのか、これだけではよくわからないな。ただ、俺の購入した食品でステータスが上昇するのはわかった。
ひょっとして、これを毎回護衛対象に食わせていれば、襲撃者の攻撃は防げるのではないか?
「なんか、体の調子が良くなった気がするわ。美味しいものを食べると元気になるっていうのは本当みたいね。護衛の途中でこんな美味しいものを食べられるとは思ってなかったわ」
「気に入ってもらえて良かったよ」
俺はそう言うと、今度は自分のステータスを確認する。
年齢:15
職業:巻き込まれた品質管理、テイマー
レベル:2
体力:58(+310)
魔力:206(+310)
攻撃力:38(+310)
防御力:55(+310)
スキル:測定、不良にまつわるエトセトラ、現場を支えているネットストア
レベルが上がったのもあるが、俺にもボーナスが加算されていた。これは、ひょっとしてイージーモードか?