第6話 身分証明
「助けてもらっていながらすまないが」
女剣士はそう言ってこちらに剣を向ける。
「素性がわからぬ故に、隙をみせるわけにもゆかぬ」
と続けた。
これはそのとおりか。おそらくではあるが、馬車の中は貴人がいる。それを守るのが彼女の役目。だとすれば、この行為は当然である。
「言って信じてもらえるかわからないが、国王によってこの国に招聘されて、期待外れだったせいでお役御免になってここにいるんだ」
異世界から召喚されたというのを微妙にぼかす。まあ、こんな理由を簡単に信じてもらえるわけもなく、彼女の目は怪訝なものを見るような感じだ。
「なんで帰国しなかったの?それともその途中?」
さらに質問される。帰国しない理由は帰る手段がわからないからですよ。出来ることなら俺も帰りたい。
さて、これをどうこたえるべきか。
「無理やり連れてこられて追い出されたから、帰る手段がないんだ。持っていたお金で隣町までの乗合馬車に乗っていたけど、この戦闘を見ようと思って降りた」
「わしはこの国のことを知らぬこいつのガイドじゃな。隣町のカンダの工業ギルドに所属しておる。ほれ」
デーボはそう言うとカードを彼女に差し出した。
「それは何?」
俺はデーボに訊ねる。
「ギルドカードじゃよ。身分証明書になるんじゃ」
「へー」
と会話をしている間に女剣士によるギルドカードの確認が終わり、カードがデーボに返却される。
「すまない。ドワーフの身分の確認は出来た。そのドワーフが保証してくれるのなら、貴殿を信用しよう」
「保証しよう」
デーボは胸をどんと叩いた。なんでそこまで俺の面倒を見てくれるのだろうか。
そんな風に思っていたら、どうやら顔に出ていたらしい。デーボがこたえる。
「わしがお主の面倒をみるのは、まだまだ美味い酒を出してくれそうだからじゃよ。酒の関係は血よりも濃いというからの」
「初めて聞くけど」
「ドワーフの世界では常識じゃ」
「へー」
流石ドワーフ。この世界でも酒好きなんだな。
俺たちの会話を聞いていた女剣士がまた俺に質問する。
「酒を出すとはどういうことだ?」
「この小僧はスキルで色々なものを出すことが出来るんじゃ。さっきの武器も突然出てきたじゃろ」
「いや、目の前の相手から視線を外せなかったから、よくは見れていないんだ。見せてくれるか?」
女剣士にそう頼まれたので、追加でモンキーレンチを購入してみせた。
今度は小さめのモンキーレンチであり、それが右手に収まる形で出現する。
「おお!どこから?」
興奮した彼女が迫ってくる。近い、近い。
「Born from a store on a homepage top」
「どういう意味だ?」
「モンキーレンチが魔法で生まれたっていうこと。モンキーレンチマジックだね」
と言いながら、俺はモンキーレンチを彼女に手渡した。
「これはモンキーレンチという武器なのか。先端の広がりを見るに、ソードブレイカーのようだが」
そう言いながらぶんぶんと振り回す。
違うとも言い出せずに、困ってデーボを見る。
「わしも初めて見るのう。鋳物か」
こっちもモンキーレンチを知らないのか。
はあ、とため息をつくと、アルが説明してくれる。
「この世界じゃ見たことない人が殆どモビ。僕は漂流物で見たことあるモビ」
「お、その兎はしゃべることが出来るのか!」
女剣士が今度はアルに興味を示す。まずい、アルの素性はもう少し隠しておきたい。
「それより、馬車の中の人を待たせておいていいの?」
俺は話題を変えようとした。
護衛対象も外の音が止んだなら、どうなったか気になるところだろう。早くそっちに行け。
「そうだった。私の名はサクラ。貴殿は?」
「アルト・スズキ。名前がアルトで、姓がスズキ」
「あまり聞かぬ名だな。確かに異国の方か。すまぬが、しばしお待ちを」
そう言うと彼女は馬車のところに戻る。外から声を掛けると、中からほっそりとした女性が出てくる。金髪碧眼のお姫様というのがぴったりか。
サクラとの話し合いは結構長い。単なる報告というわけではないのか、何度もこちらをちらちらと見てくる。そして、結論が出たのか俺たちは手招きされた。
呼ばれたので馬車の方へと歩いていく。
サクラが女性を紹介してくれる。
「こちらはサニー・サンタナ様。前サンタナ子爵のご令嬢である」
やっぱり貴族か。さて、どんなことになるのやら。