第52話 工場でネジを作っている奴
登場した新キャラにアルが咬みついた。
咬みついたといっても、物理的にではなく、言葉でである。
「そのキャラがここで出てくるのはおかしいモビ。商用車で不正をやって経営が傾いたところで出てくるのが適正モビ」
「アル、落ち着け。まずは声優ネタだと説明しないと伝わらない。それと、その会社の工場は20年前にオータに取り込まれた。だから問題ないんだ」
俺はアルをなだめる。
すると、矢島が呆れ顔でこちらを見た。
「お前ら、品質管理の話をしてないよな……」
「くっ、痛いところを!」
「仕方ないモビ。昨今のコンプライアンス研修の結果モビ」
そんな会話をしていたら、サクラとデーボの声が遠くから聞こえた。
「あんたらが遊んでいるうちに、インプとレッサーインプを倒し終わったわよ」
「いつまで遊んどるんじゃ」
こちらにも呆れが混じっていた。
「おい、矢島。こいつら強いぞ。ここは一旦引こう」
「そうだな」
二人が背を向ける。
今なら後ろから簡単に襲えそうだったが、知り合いということもあり、俺が躊躇っているうちに姿が見えなくなってしまった。
そして、入れ替わるように、金属鎧に身を固めた騎士がこちらにやってくる。
「助かった。貴殿らは?」
そう問われて密入国者とも言えず、
「冒険者です。大森林の中で素材集めをしていたら、こちら側に出てしまって……」
と答えた。
冒険者登録証を見せて、身分も確認してもらうと相手の警戒もいくらか緩んだように思えた。
「なるほど。知らず知らずのうちに国境を越えてしまったというわけですね。見たところ密輸をしている様子もないし、姫を助けていただいたこともありますから、我らが身分を保証しましょう」
と言ってくれた。
確かに持っている荷物に不審なものはないが、俺の長期在庫スキルなら、工場の倉庫くらいの物を見つからずに運ぶことが出来る。
当然、そんなことは自白しないが。
そんなやり取りをしていると、別の騎士が若い女性を伴ってやってきた。
「姫様!」
俺たちの相手をしていた騎士が驚く。
そして、慌てて俺たちと姫と呼んだ女性の間に入る。
俺たちが攻撃しないか警戒しているのがわかった。
「助けていただいたのです。礼の一言も言わせてください」
止めようとする騎士を制して、こちらに向かって頭を下げる。
「私はカミツケ国の王女、カグヤと申します。危ないところを助けていただきありがとうございました」
なるほど、カグヤというのか。俺はその名前に危険なモノを感じ取った。
すると、アルがすぐにそれを現実のものとする。
「カグヤ様は自白したいはずモビ」
「何をだよ!」
俺は慌ててアルの口を押えようとするも、アルは俺の手をするりと抜けた。
「ここはオータの街の外れ。そして、先ほどまで戦っていたインプ達とくれば、自白することは一つモビ」
「一つで済むといいですね」
つい余計なことを言ってしまった。
一つもないに決まっている。
「王女の名前はカグヤ姫モビ。オータ、インプ、カンダ側とくれば――」
「いつもの第一工場は監査でよくメーカーが来るから、道を挟んだ反対側の第二工場で秘密の作業をだな。窓を開けるとカンダコーポレーションの倉庫」
「そうモビ。落として壊した金型のシボ加工が、同じ番手でも同じ模様にならないから、上手く似せてねって言ったのに、いつもちっとも似てないモビ」
シボ加工とは樹脂成型の製品などで、表面に凹凸をつけることである。金型にそうした模様をつけておき、それが成型時に転写されるというわけだ。
金型への模様付け、シボ付けに使われるのはエッチング液という金属を腐食させる液である。だから、同じようにはなるのだが、まったく同じ模様を再現させるのは不可能なのである。
だから、金型が壊れたり盗まれたりすると大変なのだ。
「これを繋げると、貴方はもう忘れたかしら、試作の金型買って、液が描いた型のシボ模様、上手く似せてねって言ったのに、まえとちっとも似てないの。窓の外にはカンダ側モビ」
「カグヤ姫とつながったな!」
それ以外とは繋がらないで下さい。この話はフィクションなので。
「これを告れば大炎上待ったなしモビ。工場でネジ作ってるやつが炎上させてるモビ」
「いやいや、ネジなんて最近どころか、かなり前から外国で作っているだろ」
「どこ情報モビ?」
「大学の先輩で大阪のネジ問屋の跡取りだった人からの情報。まあ、いまじゃあ仕入れていたステンレスの鋼材が高値で売れたんで、妹に会社押し付けて奈良でニートしているがな。思い返せば、電車はキセル、駅の自転車は盗んで乗るとか、ひどい人だったな」
「ネジ問屋の屑息子に転生した俺、問屋を妹に押し付け辺境でスローライフモビ」
「奈良を辺境って言うな!」
【後書き】
カンダ側の後に「若かったあの頃、何も怖くなかった、ただ、ラインを止めるのが怖かった」
「そこはゼットンモビ」っていうやり取りを入れるの忘れました。本当にどうでもいい話ですが




