第50話 この話はフィクションです
俺たちは大森林を抜け、隣国のカミツケ国へと入っていた。
カミツケ国側も大森林が続いているのだが、やがて街道へと出た。
「このまま行けばオオタの街じゃな」
「デーボ、よく知っているね」
「まあの。オータは貴重なアルミの加工で有名なんじゃよ。近くにある鉱山から良質のアルミがとれるんじゃ」
ボーキサイトじゃないのかよと思うが、ここは異世界だ。そういうことなんだろう。電気もなしにアルミの精錬も難しそうだしな。
「アルも昔、緑色のグリーンアルミを探して、この辺で暴れまわっていたモビ。で、緑のアルミを見つけたモビ」
「厄災じゃねーか。それにグリーンアルミは緑じゃないだろ。ほら」
俺はグリーンアルミと言われるアルミをアルに渡す。
色は普通のアルミである。
グリーンアルミとは二酸化炭素の排出量が少ないアルミのことを言う。色ではないのだ。
「デーボ、アル、ここでグリーンアルミ見つけたんだって」
「グリーンアルミじゃと?」
「ほんとだモビ! 本当にグリーンアルミいたんだモビ! ウソじゃないモビ!」
「うん。俺もデーボも、アルがウソつきだなんて思ってないよ」
グリーンアルミは森の主かな?
そんな話をしていると、剣戟の音が聞こえてきた。
見れば馬車がモンスターに襲われている。
「助けた方がいいかな?」
「そうね」
言うが早いか、サクラは剣を抜いて駆けだした。
ゴブリンっぽいのをあっという間に倒したのだが、どうも人間らしいのと対峙している。
俺も急いで駆けつけることにした。
たどり着くと、金属鎧の兵士が馬車を守るように立っており、その外側にゴブリンと、大きめのゴブリンが転がっている。
サクラに斬られて死んでるのでこれはいいとして、黒髪に黒い瞳、二十歳くらいの日本人っぽい顔立ちで黒い鎧を着た男がサクラを睨んでいた。
なんか、どこかで見た気もするんだよなあ。
「仲間か。しかし、何人増えたところで俺の敵ではないがな」
俺たちを見て男がそういう。
その態度は気に入らないが、俺は気になったことを訊ねる。
「あー、ひょっとして召喚された日本人?」
俺が話しかけると向こうも驚く。
「お前、日本人なのか。しかし、召喚とはなんだ?」
「俺は隣の国の儀式でこちらに呼ばれたんだが。お前は違うのか」
「俺は気がついたらこの世界にいた。そして、魔王軍にスカウトされたのだ」
異世界転生か。いや、転移かな?
「ありがちな設定モビ」
「まあ、俺が言えたことじゃないがな」
召喚だの転生だのとか、佃煮にするほど湧いている設定だ。
まあ、どういうところから異世界に飛んできたのかは気になる。
「因みに、どういう経緯でこの世界に来たのか、詳しく知りたいんだけど」
「いいだろう。せっかくだから教えてやる。俺の名前は矢島昴。とある自動車メーカーで働いていたが、暴力団の運営する地下カジノにはまって、気が付けば返せない莫大な借金を背負った。当然追い込みをかけられたが、俺は会社を辞めて、追い込みをかけられているのとは別の暴力団にゲソをつけた。そして、そこで特殊詐欺のシノギをしていたが、サツにばれて追われて逃げている時にトラックに轢かれたところまでが日本での記憶」
「いやいやいや。その名前でその事件はもう誰だか特定出来るだろ」
それで見たような気がする理由がわかった。すごく思い当たる犯人がいた。
同級生だ。
そいつの指名手配のニュースを聞いた時、ラーメンを食っていたのだが、思わず噴き出したのを今でも覚えている。
「だから偽名を名乗っている」
「お前の会社、社員が何度も問題起こしているよな。そのたびに社員教育をしていたはずだが」
「Re:ゼロから始めるコンプラ教育モビ」
「ちょっと、アルは黙ってて」
アルが暴走しそうなので釘を刺す。
「ラムもレムも出てこないけど、リムとロムの問題でリコールとか言わないから安心するモビ」
「いや、お願いだから黙ってください。お金あげます」
まったく、一時間も考えてひねり出したようなセリフを言いやがって。チーレム小説なら一話書きあがっている時間だぞ。
そんなことではなく、異世界じゃなかったら問題発言だよな。危ない、危ない。
「人に名前を聞いたなら、そちらも名乗れ」
俺とアルの掛け合いに苛ついた矢島がどなったので、俺は名乗る。
「鈴木有人。同級生だろ?」
「そういえばそんな奴いたな。よくよく見ればあの頃のままじゃねーか。やばい薬でもつかってんのか?」
「薬は使ってないが、召喚された時に若返ったんだよ」
召喚したら10代になるんだったよな。
「へえ。みんなこっちの世界に来ると若返るんだな。で、お前は今まであっちで何をしていたんだ?」
久しぶりに会った同級生の会話だな。
まあ、そのまんまなんだけど。
こいつ、暴力団員かもしれないけど、今ここで個人情報を喋ったところで、日本で悪さされることもないだろうし、正直にこたえておくか。
「自動車部品メーカーにいたんだ。お前のいた会社にも納品していたんだぜ」
「へえ。俺もひょっとしたらお前の会社の部品を組み立てていたのかもしれねえな」
「本工場なら可能性があるけど」
「じゃあ違うな。そういやそれで思い出した。お前の親の実家、昔は本工場とか北工場の土地を持っていたんだよな。自慢していたろ」
そういえば、そんな話をしていたな。
母親の実家は戦前は大地主で、昔の日産ディーゼルの工場から、駅までが全部自分の土地だったらしい。
まあ、色々あって手放してしまったんだが。
それが無ければ本工場はあそこにないし、そこで子孫の俺が不良を出して怒られることも無かった。
「アルトの祖先が館林の女郎にいれあげた挙句、土地を売った話は涙と笑いの連続モビ」
「なんでアルが知っているんだよ!ネットで検索しても出てこないはずなのに」
色々とはつまり色事である。
代々親子兄弟仲が悪く、相続のたびに揉めるのだが、あの一帯を手放したのは息子に相続させるくらいなら、愛人に使うと言って散財したのが原因なんだよなあ。
こんなの、ネットで検索しても出てくるはずがない。
「当事者の日記が流れてきたモビ」
「あー、てっきり不在の時に壊した箪笥の中にあったのを持ち出されたのかと思ったけど、異世界に流れ着いていたのか。裁判でも行方不明で誰が持っているのかと疑心暗鬼だったらしいけどな」
「箪笥を壊すモビ?」
「ああ、権利書なんかを鍵付きの箪笥にしまっておいたんだが、息子が父親の散財に怒って、権利書を換金できないように奪い去ったんだよ。あと遺言書もな」
「ドン引きモビ!」
「俺もだよ」
「でも、祖先の恥をこんなところで漏らしていいモビ?」
「大丈夫、親戚とは弁護士を介してじゃないと会話出来ないようになっているから、仮にこの話を言いふらしているのを知ったとしても、直接苦情は来ない」
「ドン引きモビ……」