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第5話 エロ―ジョン

 翌日、乗合馬車は再び隣町を目指して走り出す。天気も良く、最初のころは珍しい景色を見ていたのだが、移動速度が遅いことと、街道沿いには集落が無いことからすぐに飽きた。同じような景色を見ていれば当然か。

 仕方がないのでA5056の丸棒をネットストアで購入し、それをアルに食べさせながらもふもふした毛を触って時間を潰す。アルミをオレンジに着色すれば、ニンジンを食べる兎そのものだなと思えるほど、アルはかわいらしかった。


「マグネシウムが良い隠し味になっているモビ」


 などとのたまうのを聞くと、兎ではないなと思いなおすのだが。

 そういった感じで時間を潰していると、馬車が急停止した。そして御者が焦った声で話す。


「前方で馬車が攻撃を受けています。引き返します」


 言われて前方を見ると、高そうな馬車の周りに人が群がっていた。そして、剣や魔法で争っている。

 異世界転移して序盤で襲われる馬車に遭遇するというお約束な展開に俺は興奮した。

 乗合馬車から飛び降りると襲撃されている馬車へと近づく。


「お客さん!」


 御者が叫ぶ。


「見飽きたら追いかけるよ。一時間経っても戻らなければ忘れてくれ」


 俺はそう言って背を向けた。どのみち王都に戻るつもりはないし、アルもいるから盗賊くらいならどうにでもなると思っている。

 そんな俺の考えを読み取ったのか、アルが話しかけてきた。


「危なそうなら手助けするけど、基本的にはアルトが自分で戦うモビ」

「俺、戦闘なんてしたことないんだけど」

「だったら早く強くなるモビ。男は強くなければ大好きなひとはみんな遠くへ行ってしまうモビ」

「そういうもんかあ」


 アルの言い分がよくわからないが、この世界はそういう考えが一般的なのかもしれないな。まあ、俺にはスキルがあるから戦えるかもしれない。

 よし、戦ってみようと思ったら、再び背中から声がかかった。


「わしもいくぞい」


 振り返るとデーボが走ってくるのが見えた。


「危険だよ」

「この国をよく知らぬおぬしらも同じくらい危険じゃ。あの馬車はおそらく貴族のもの。横に紋章が描いてあるじゃろ。どこかの家のものじゃろう。貴族相手に無礼をはたらけば、その場で殺されるようなこともある」


 流石封建社会。身分にあった対応をしなければ殺されるのが当然ということか。


「殺されそうになったら、この国ごと亡ぼすから安心してほしいモビ」

「あ、うん」


 アルがいれば問題ないか。そのことにデーボも気が付いた。そのうえで彼は言う。


「余計なトラブルを起こさんようにアドバイスする」

「よろしくね」


 ということで馬車に近づいた。数人が地面に倒れて血を流している。

 馬車の扉を背にして守っているように見える女性が一人。長い金髪に金属鎧。手にはロングソードを持っている。

 それを取り囲むようにしているのが10人。みんな男で悪人面している。直感では彼女が正義で、男たちが悪。これが匿名流動型犯罪、トクリュウなら俺は騙されてるな。

 もっと近づく前に小声でアルに話しかける。


「ひとまずしゃべらないで欲しい。アルミラージがいるとなると後々面倒なことになりそうだから」

「わかったモビ。目の覚めるような美女が通り過ぎようとしてもしゃべらないモビ」


 どこで覚えた、そんな言い回し。

 まあ、それは言わないでさらに近づいた。

 男たちがこちらに気づく。


「誰だてめえ!」

「通りすがりの旅人です。ここは文明人らしく、まずは話し合いで解決しましょう。武器を置いて」

「何を訳の分からねえことを。こいつもついでにやっちまえ」


 話しかけてきた男が指示を出す。

 どうやらこいつが頭かな?

 半分の5人がこちらにじりじりと迫ってくる。手にはショートソードを持っていた。


「話合いできる雰囲気じゃないね」

「この人数で囲まれてそんな余裕があるとか、馬鹿なのか?」


 俺は武器を持っていない。それは相手もわかっているから、そう思われるのも仕方がないか。


「こういうのには慣れていてね。剣を向けられるたびに銀貨を1枚もらっていたら、今頃城が建っているぜ」

「へえ、どうみても子供なのにそんなに経験があるっていうのか!」


 疑われている。

 嘘だから当然か。

 いよいよ攻撃をしてきそうな距離になったので、俺はスキルを使う。

 不良にまつわるエトセトラから選んだのは


【エロ―ジョン】


 スキルを発動させるが、目に見えた変化は起こらない。相手は一瞬身構えたが、何も起こらないことで安心して攻撃を仕掛けようとした。

 そこで今度はネットストアで全長450mmのモンキーレンチを2個購入。グリップの穴に指を突っ込んでくるくると回した。気分はヌンチャクだ。


「ちがーう。木のやつ!!!」

「アル、黙ってて」


 アルが小声で言うので、それを注意した。それに、木のモンキーレンチなんてないだろ。何を言っているのやら。

 そんなことをしているうちにも、先頭の男が斬りかかってきた。相手のショートソードを右手のモンキーレンチで受け止める。

 ショートソードはモンキーレンチと当たった場所でぽきりと折れた。


「なっ!?」


 攻撃してきた相手が驚く。まあそうだろう。モンキーレンチを知っているかどうかはわからないが、剣が折れるようなものとは思えないだろう。

 折れた理由はエロ―ジョンのスキルにある。

 エロ―ジョンとは物質が削られていくことである。水の流れが大地を抉るようなものだ。この現象は工業製品でもおこり、製品が液体や固体、時には気体によって削られ減肉し、最終的には穴があいたりする。この不良のせいでなんどひどい目にあったことか。

 俺に向かってきた男たちの武器は、このスキルにより衝撃に耐えられるようなものではなくなっているのだ。奴らが攻撃するまで気が付かなかったのは、攻撃対象の俺に集中していたせいであろう。

 驚いて固まっているところを悪いが、俺は遠慮せずに目の前の男の顎にモンキーレンチを打ち込んだ。綺麗にヒットして脳震盪を起こして倒れる。

 モンキーレンチを振り回すと危ないんだよな。派遣社員が暴れて振り回して大騒ぎになったことがあるからよくわかる。

 さて、俺の活躍を見て他の連中の動きが止まる。大きな隙が出来たわけだ。それも、馬車を襲っていた男たち全員に。

 女剣士がそれを見逃さずに、動きのとまった男たちを斬る。

 俺は相手の命を奪うところまでは考えていなかったからモンキーレンチなわけで、それでも十分に危険だが。

 男たちは次々と倒れて行った。四人目が斬られたところで慌てて構えるも、エロ―ジョンによって脆くなった剣は、ロングソードの攻撃を止めることは出来ずに、剣ごと斬られていった。


「逃げることを許さん腕前とは、たいしたもんじゃな」


 安全と判断して隣にやってきたデーボは女剣士の腕前に感心した様子を見せる。

 気が付けば、俺が気絶させた奴以外は全員死んでいた。


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