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第49話 俺は解決

 伯爵の剣からは魔力を感じる。


「魔剣か」

「その通り。こいつは人の血を力に変える」

「ってことは、当たらなければどうという事はないな」

「血は、何も貴様らのものだけではない」


 伯爵はそういうと、隣にいたアスカを刺した。

 アスカは何が起こったかわからないといった顔で伯爵を見る。


「アスカ!貴様、仲間じゃないのか!」

「同じ犯罪ギルドに所属しているというだけのこと。俺のために死んでもらうのがなんで悪いのだ」


 伯爵は俺を鼻で笑う。

 そして、その手に持つ剣が更に怪しく光り出した。


「チェストオオオオオ!!!」


 サクラが気合一閃、凄まじい斬撃を放つ。

 常人であれば目にもとまらぬであろうその一撃を、伯爵は片手で持った剣で受け止めた。

 足元の床にひびが入ったところを見れば、その威力は知れるというものである。そんな威力を受け止めるとは。


「モビ!」


 伯爵が反撃しようとしたところを、アルが攻撃することで止めさせた。

 伯爵がアルの牙を剣で受け止める。


「アルミラージか。しかし、この剣の力の前ではただの兎!」


 受け止めてすぐにその剣で一薙ぎする。

 アルは素早く後ろに下がるが、毛が少し切られて宙を舞った。


「ボウイはお前らを高く評価していたが、あれの見立て違いだったな。私の敵ではない」

「それはどうかな。あいつのことは嫌いだが、その能力は確かだ。そして、あいつの目は節穴ではない」


 俺はフッ化水素を購入すると、伯爵の口の中に届けさせた。


「ぐっ」


 フッ化水素を飲み込んだ伯爵が苦悶の表情を浮かべる。


「終わりだよ、伯爵。今飲んだ毒に解毒剤は無い」

「きさ……ま……」


 伯爵は喉を手で抑えながらこと切れる。膝から崩れ落ちてうつぶせに倒れた。

 その伯爵の横を抜けて、アスカのところへと走り寄る。

 アスカは立っていられず、床に仰向けになっていた。


「アスカ、しっかりしろ。アルの角の力を使えば助かる!」


 俺がそういうが、アスカは弱々しく首を振った。


「里を裏切り、トモヨを殺した私に生きる資格はないわ。早くこんな血、体から抜けてしまえばいいのに」

「そんなこと言うな!生きて罪を償えばいいだろ!」

「何人死んだと思っているの。私に生きる資格は無いわ。それに、死んだあと地獄に行くでしょうね。天国でお父さん、お母さん、トモヨに会えないのも残……念――――」


 そこまで言って、アスカの手がことりと床に落ちた。


「アスカァァァ!!!!!」


 俺の絶叫が室内に響く。

 勝手に出てきた涙がこぼれて、俺の腕の中で冷たくなっていくアスカに落ちた。


「こうなったのも長である私に責任がある」


 いつの間にか拘束をとかれたフローリアンがやってきて謝ってきた。

 文句の一言も言ってやりたかったが、それで何かが解決するわけではないので呑み込む。


「他のエルフたちが捕まっているんだろう。助けに行こう」

「はい」


 俺はアスカの死体をその場に置くと、エルフたちを探そうとした。

 そこで部屋の外が急に騒がしくなる。


「今度はなんだ?」


 扉の方を見ると、そこに聖女がいた。

 向こうも意外だったようで、驚いている。


「あら、妙なところで会うわね」

「なんでお前がここにいるんだよ」

「秘密っていいたいところだけど、知っているんでしょ。ここの伯爵が犯罪ギルドとつながっていたのよ。その後始末ね。領の帳簿を改ざんして不正の証拠を消すのが私たちの仕事」


 見れば後ろに粉飾決算のあいつがいた。

 国としては領主が犯罪ギルドとつながっていたという事実はもみ消したいのだろうな。事情が理解できた。


「ここの警備が手薄だったのはそっちのせいだったのか」

「違うわよ。反体制派弾圧のために出払っていたみたいね。戦力が分散してくれていて助かったわ。で、あんたたちはどうしてここにいるのよ?」

「それがなあ」


 俺は聖女にここまでの経緯を話した。

 聖女はそれを聞いて吹き出す。


「人が死んだのがそんなに面白いのかよ」


 俺はそれを見てムッとなった。


「悪かったわね。でも、これってズバッと参上してズバッと解決しなかった貴方にも問題があるわ」

「アスカが犯人モビ」

「そんな事言ったってなあ。じゃあトモヨはなんだよ」

「トモヨ、トモヨ、トモヨって叫んでみなさいよ」

「あっ」


 俺はそこで気が付いた。

 どうしてもっと早く気が付かなかったんだろうか。まあ、後悔先に立たずってやつなんだが。


「サクラとトモヨに意識が向いたのが敗因ね。まあ、売られたエルフたちは可能な限りこちらで回収するわ。これから人の国と戦争するっていうのに、エルフとまで対立するのは得策ではないものね」

「今サラッと怖い事を言ったよな」

「あんたが気にすることじゃないわ。直ぐにこの国を出ていくんでしょ。今回は捕まえに来たわけじゃないから見逃すわ。っていうか、余計な仕事を増やしたくないから、見なかったことにしてあげる。早く帰って家で待っているペットに餌をあげなきゃいけないから」

「そのペットが犬猫であることを願っているよ」

「いい声で哭くのよ」

「それ以上は言わなくていい」


 俺がそういうと、聖女は妖艶に笑った。

 翌日、邸宅にとらわれていたエルフたちと一緒に里に帰ってきた。

 もうここにはアスカもトモヨもいないのだが、アスカの死体を母親の墓の隣に埋めてやろうとして、ここに来たのだ。

 それと、焼けたトモヨの死体も一緒に埋葬する。


「せめて一緒に埋葬してやりたくてな」


 そう言いながら墓を掘る。

 それが終わったところで、アルが手紙を持ってきた。


「聖女から預かっていたモビ」

「俺宛てか?」

「そうモビ。アルへの手紙かと思ったけど、違ったモビ」

「まああれはミンチより酷いのを聞いた後に追いうちをするから、忘れさせておいてくれ」


 アルが余計な事を言わないように釘を刺し、手紙を読む。

 そこには短く書いてあった。


「サンデーってスペイン語でなんと言うでしょうか?あと、エルフと兎って和むわね」


 それを読んだ俺は手紙をぐしゃりと握りつぶした。

 それを見ていたサクラとデーボが心配して訊いてくる。


「何が書いてあったの?」

「何が書いてあったんじゃ?」

「大人のキスには葉巻の味がするってね」


 俺がそう答えると、二人は意味が分からずに顔を見合わせていた。


 埋葬が終わると、俺たちは里には戻らずに大森林を抜けて、隣国へと入国した。




今から快傑ズバットをみようという人には、ネタバレして申し訳ない。

まあ、この作品を読んでいる人はみんな知っていると思うので、杞憂でしょうけど。

前提になる知識がズバットっていうのはどうかと思いますが。

あと、人物描写を極力していないので、想像がつきにくいと思いますので、最後に伯爵の元ネタがドミンゴ伯爵だというのを付け加えておきました。

ドミンゴ伯爵は『コブラ』の「六人の勇士」に出てくる海賊ギルドの幹部です。だから、アーキュラ少佐はアーシュラ中佐が元ネタ。

エルフと兎が和むっていうのは、薄い本なので詳しい説明は省きます。

タイトルはおれは直角から

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