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第48話 襲撃の真相

「トモヨとアスカがっ!」


 俺が焦ってそちらに行こうとするのを、デーボが捕まえて止めてきた。


「待つんじゃ。今アルトがここを離れれば、虫たちが里になだれ込むぞい」

「それにしたって!」


 爆発が事故だとは思えないし、事故だとしてもトモヨたちの無事を早く確認したい。

 しかし、デーボの言うこともわかる。

 不良の選別で客先の工場で作業中に、他の客先から不良の連絡を受けた時のような、どちらを優先したらいいかわからない状況にイラつく。

 まあ、その時はうるさい方の客先を優先したんですが。

 だって、後々面倒じゃないですか。

 そういう事で判断するならば、俺の優先はトモヨなので、ここから直ぐに向かいたい。

 ただ、その場合被害は大きなものになるだろうが。

 そう思ったら自分の気持ちを優先できずに、目の前の虫退治を進めることにした。こいつらを早く片付ければ、駆けつけることが出来るからだ。

 結局、それから30分くらい虫退治を続けて、やっと赤い色が森から見えなくなって、俺はやっと里へと戻ることが出来た。

 すると、里はそこいらじゅうにエルフが転がっている。比率的に九割が男だ。

 動かないので死んでいるのだろう。

 それらを横目に、燃えている建物に向かって走る。

 建物はまだ激しく燃えており、近づこうにも熱風で息が出来ない。

 なので、少し離れて【モータープールに降る雨】を使った。

 やがて雨が消火してくれ、熱気がおさまった。


「トモヨ!アスカ!」


 俺は呼びかけるも返事はない。

 アルたちも手伝ってくれ、焼け跡の捜索が始まる。

 やがて、真っ黒になった人だったものを見つける。その手にはアスカの持っていた剣が握られていた。


「アスカ――――」


 俺はそれを見て言葉を失う。

 心のどこかでまだ生きていると思っていたからだ。いや、それは希望でしかなかった。本当は死んでいると思ったが、それを否定したかっただけだ。

 その後も捜索したが、死体はそれだけだった。

 俺達は状況を確認するため、なんとか生きているエルフを探し出し、状況を聞く。

 男のエルフで、怪我をしているが意識がはっきりとしているので、会話をすることが出来た。


「何があった?」

「人が突然里の中に現れて、長たちを連れ去っていった」

「突然だと?」

「そうだ。沢山の兵士だった」


 沢山の兵士が突然現れたのか。

 そして、アスカは戦って殺された。トモヨはひょっとしたら連れ去られた中にいたのかもしれない。

 しかし、どうして突然沢山の兵士が出現したのだろうか?


「なあ、アル。突然大量の兵士を送り込むなんて事ができるのか?」

「古代魔法王国時代のマジックアイテムにゲートがあるモビ。ただ、転移先にゲートを設置する必要があるモビ。連中がこの里に入り込んで設置したなら可能モビ」

「そうか。してやられたな。あの虫たちの襲撃に目を向けて、その隙にゲートを設置されたってことか。連れ去られた先はサンデー伯爵のところだろう。今から乗り込むぞ」


 俺は怒りに任せてそう宣言した。

 デーボが周囲を指さす。


「エルフは戦力にならんぞい」

「いらない。今すぐに動かなければ、どこに売られるかわからないぞ。それに、ここが襲撃されたってことなら、協力してくれることになっている反体制派だってどうなっているかわからない。俺達だけでも伯爵の軍隊なら倒せるだろう!」

「随分と焦っているモビ」

「そうだ。こんな凄まじいスキルを持ちながら、俺は好きな女一人守ることが出来なかった」


 俺は力任せに地面を殴った。

 そこに声がかけられる。


「エルフの里に人間とドワーフと兎。お前たちが召喚者とその仲間だな」


 女の声だった。


「誰だ?」

「サンデー伯爵軍、少佐のアーキュラだ。お前たちを始末するためにここに残った。あの虫の襲撃を退けるとは、聞いた通りかなりの実力だな」


 軍服に身を包んだ女がこちらを見ている。その後ろに数人の軍人を従えていた。

 手には怪しく光る刀が握られていた。


「念の入ったことだな。お前たちがこれをやったのか」

「そうだ」

「お祈りでもしてろ。貴様たちは生きては返さない!俺は生まれて初めて喜んで人を殺す!!」


 直ぐに殺そうとする俺をアルが止めた。


「アルト、気を付けるモビ。あれは妖刀クニクモビ」

「妖刀クニク?」

「古代魔法王国時代の名工クニクが作ったとされる妖刀モビ。魔力を纏って切れ味を増幅させるモビ。あまりの切れ味に当時の国王からクニクは刀鍛冶を禁じられたモビ。そして、刀を廃棄するように命じられたけど、一計を案じて刀を隠したのがクニクの策の語源になったモビ」

「へえ、そんなに切れる刀なのか。だけど残念だったな。俺のスキルでなまくらに変えてやる!」


【エロ―ジョン】


 俺のスキルで妖刀クニクは0.01μメートルの薄さになる。

 アーキュラ少佐はそれをつまらなそうに見た。そして、足元の小石を拾い上げると、ひょいと空中に放り投げた。

 当然小石は重力に引かれて落ちてくる。

 アーキュラ少佐は刀を振るって、それを切った。


「切れ味は落ちぬのだよ」

「ああそうかい」


 俺は切れ味が落ちなかったことに驚いたが、直ぐに次のスキルを使う。


【インフレーター破裂】


 無数の破片がアーキュラ少佐を襲う。

 それらは彼女の体に突き刺さり、命を奪った。彼女に空いた無数の穴から血が飛び散るのをみた部下たちが悲鳴をあげる。


「ひぃっ」


 それを見た俺は、彼らを脅す。


「俺はスキルのパワーに制限をかけずに使っている。その気になりゃお前の体など五ミリきざみで分解できるんだぜ。ひき肉になるのはいやだろう!!質問に答えろ」

「ひいいいいい」


 パニックになった連中は、武器を手にして俺に襲い掛かってきた。

 しかし、アルとサクラによって直ぐに取り押さえられる。


「世話を焼かすな。お前らをここに送り込んだのは誰だ?」

「殺さないでくれ。俺達はサンデー伯爵の命令で」


 そうだとは思っていたが、アーキュラ少佐が嘘を言っている可能性もあったので確認をした。やはりサンデー伯爵が黒幕で間違いないようだな。


「で、お前たちはここからどうやって帰るつもりだったんだ。そんな装備じゃあ里を襲撃できても、森を抜けて帰るってわけにはいかないだろう」

「ゲートの魔法で帰る手はずになっている。少佐がマジックアイテムをもているんだ」

「ようし、動くんじゃないぞ」


 俺はアーキュラ少佐の服をあさる。

 すると、こぶし大の宝石が出てきた。


「それモビ」


 アルが正解だと教えてくれる。


「よし、今から伯爵のところに乗り込もう」

「俺達はどうなる?」


 捕虜となった連中に訊かれる。


「俺が殺すことはない。だが、この里の連中はどうかな?」


 見れば生き残ったエルフ達が殺意のこもった目で、連中を見ていた。


「待ってくれ!助けてくれ!」

「そのお願いは俺じゃなく、彼らにするんだな。もっとも、許してくれるとは思えないが。行こう」


 俺は宝石に魔力を流し、ゲートを出現させる。

 背中からは悲鳴が聞こえるが、振り返ることなくゲートをくぐった。

 魔法の長いトンネルを抜けると伯爵邸であった。

 ゲートの先では警備兵が二人立っており、俺達を見て驚いたいおうだった。


「誰だ」

「サンタクロースさ」


 と俺が自己紹介をしているうちに、アルとサクラがそれぞれ一人ずつ倒してしまう。


「ピーターパンさの方がよかったかな?」

「似合わないから言わなくていいモビ」

「そういうなって」


 アルの意見をさらりと流し、邸宅のなかを歩き始める。しかし、広い邸宅のどこに伯爵がいるのかはわからなかった。


「アル、伯爵がどこにいるかわかるか?」

「それは難しいモビ。でも、フローリアンの気配ならわかるモビ」

「そうか。じゃあそこに行こう。トモヨもいるかもしれないしな」


 アルに案内されて、気配の方へと向かう。

 邸宅の中は思っていたほど兵士はいない。里を襲った連中は別の場所に行ったのだろうか?

 考えても答えは出ないので、考えるのを止めた。

 そして、大きな扉のある部屋の前にやってきた。


「この部屋モビ。中に複数の気配があるモビ」

「さて、いきなり開けてもいいのかな」

「考えても仕方ないわよ」


 サクラがそう言って扉を開けた。

 中には見たことのある顔があった。

 クレスタとフローリアン、それに中年男性と


「トモヨ!いや、アスカか」


 フローリアンは縛られているが、アスカはそうではなかった。というか、フローリアン以外の三人が、縛られたフローリアンを見ている。

 立ち位置的にアスカもクレスタ側だ。

 どういうことだ?


「貴様らがここに来たという事は、どうやらアーキュラ少佐は作戦に失敗したようだな」


 クレスタが中年男性を鼻で笑う。

 これも理解できない。仲間じゃないのか?


「ボウイ、そいつはお前の仲間じゃないのか?それとアスカ。何で君がここにいる?」

「こいつはサンデー伯爵だ。お前らはこいつを探しに来たのだろう?」


 クレスタがクックックと笑った。

 一方、アスカの顔色は悪い。いや、ばつが悪いって感じだな。

 何もしゃべらない彼女に代わって、サンデー伯爵が口を開く。


「ようこそ。召喚者。この女は我らの仲間だ。エルフの里にゲートを設置したのもこの女だよ。実に良い仕事をしてくれた」

「アスカ!本当か?それに、トモヨはどうした?」


 俺の質問にアスカは直ぐには答えない。

 しかし、やっと口を開いた。


「そうよ。私とトモヨはあの里をギルドに売ったのよ。でも、あんたたちが来たせいで!」

「どういうことだ?」

「トモヨはあなたの事が好きになったの。それで、計画を伝えようとしていた。だから、私が殺したの。私の剣をもった焦げた死体を見つけたでしょう?あれがトモヨよ!」

「なんだって?」

「あんな排他的な里、無くなって当然なのに。この女たちが今こうなっているのは罰よ!私たちのお母さんが死んだのも全部こいつらのせい!人と子供を作ったっていうだけで仲間はずれにして!」


 感情的に話すアスカの言葉を整理すると、里の人達からの扱いに恨みを持っていたアスカたちは、ギルトに里を売ることにして、ゲートを設置した。

 だけど、トモヨが直前になって俺達に計画を暴露しようとした。だから、アスカはそれを止めるためにトモヨを殺したっていうことか。


「貴様の焦っている顔が見えて嬉しかったぞ。しかし、今回の件に関しては俺は無関係だ。ここらでおいとまさせてもらう。伯爵、生きていたらまた会おう」


 クレスタはそういうと、マジックアイテムを使ってどこかへと転移していった。

 残されたサンデー伯爵は剣を抜いた。

 最後の戦いが始まろうとしているのがわかった。


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