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第44話 ジェミニ

 俺たちの方針が決まったところで、フローリアンは俺たちの世話係を紹介してくる。


「あなたたちのこの里での世話は、この二人にやってもらいます。なんでもお申し付けください」


 そういって紹介されたうちの一人は、先ほど戦闘中にイレブンじゃないって言った女性だ。

 というか、同じ顔が二人出てきたので、どっちも同じく見える。区別は持っている武器だな。一人はレイピアで、もう一人は何も持っていない。


「アスカとトモヨです。さあ、ご挨拶をしなさい」


 そう促されて、二人は頭を下げた。


「双子か?」

「はい。もっとも、我が里ではジェミニと言いますが」


 レイピアを持った方がこたえてくれた。


「まあ、そんな気はしていた」

「私が姉のアスカ。そして、こちらが妹のトモヨです」


 同じ顔だが、姉の方は紅蓮に見え、妹の方は可憐に見える。

 などと思っていると、アルがとこところ前に出てきた。


「ワイがアルミラージのアルちゃんや」

「なんで関西弁なんだよ」

「サクラがいて、トモヨがいるからモビ。どうせアルトの事だから、エルフの里なのにカレンだのセリカだのって思っていたはずモビ。でも、ここは折角なのでSSCでいくモビ」

「SSCはサプライヤースコアカードの略だ。アルが言いたいのはCCSだろ」


 サプライヤースコアカードというのは、納入業者の成績表である。QCDつまり、品質、コスト、納期を評価し、改善を促すためのツールである。見たくはないが。


「そうだったモビ。因みに、cv久川ち――――」

「そこは綾だろう」


 こいつ、隙を見せるとすぐに危ない方向にボケたがるので、とても危険だ。

 もう無視して話を進めよう。


「世話役はわかった。それと、俺の本業は商人だ。何か欲しいものがあったら言ってくれ」


 というと、長老から


「最近雨が少なくて、水が欲しいのですが。でも、お持ちではないですよね」

「いや、俺はスキルで仕入れることが出来るから。いや、雨を降らせればいいのなら出来るが」

「本当ですか?」

「ああ」


【モータープールに降る雨】


 俺がスキルを使うと雨が降ってくる。因みに、これがどうして不良にまつわるエトセトラなのかといえば、マフラーに亜鉛メッキをしていたメーカーが、勝手に条件を変更して膜厚を薄くしていたことで、モータープールに置いてあった車が、雨に打たれて錆てしまったという不良があったからだ。その交換費用、実に8000万円。そのうちの半分をメッキメーカーに請求した。思い出したくもない一件だ。なお、エルフとは関係ない。余計な詮索をしないように。


 俺の降らせた雨を見て、エルフたちからどよめきが起きる。


「まさか、ビッグホーン様?」


 などと聞こえてきた。


「どういうことだ?」


 俺は長老に訊ねる。


「ビッグホーンは精霊魔法の使い手であり、偉大なウィザードでもありました。その魔法は天候ですら操ったとのこと。精霊魔法では天候を操ることはできませんから」

「ウィザードって?」

「強力な魔法を使う魔法使いです。一般的な魔法使いと区別するために、ウィザードと呼んでいます」


 また一つ賢くなった。

 そんな区別があるとはな。JIS規格でも魔法使いの項目が出来たら、ぜひ入れておいてくれ。

 そうしたわけで、雨が降ってきたので俺たちは室内に案内される。俺たちが滞在する部屋だ。木でできた家、バンガローって感じの質素なものである。大きさは人が寝起きするのに問題は無い、一般的な家と同じ大きさになっている。


「こちらを使ってください。不便かとは思いますが」


 長老に言われるが、俺は生活用品も調達できるから、特に困らない。というか、なんで工場向けのネットストアでそうしたものが売っているんだろうな。前から不思議だった。おかげで助かって入るのだが。


「いや、食料や他のものも仕入れられるから問題ない。そうだな、ベッドだってあるぞ」


 そう言って長期在庫の倉庫からベッドを取り出した。

 すると、長老とアスカとトモヨは目を丸くした。


「アイテムボックスまでもっているのですか⁉」

「ちょっと違うけどね」


 時間が停止せずに、経年劣化が起きるのだ。


「あの、ひょっとしてかなりの種類を取り揃えていたりしますか?」

「ああ」

「それでは、里のものたちから、欲しいものを訊いてきます。アスカ、トモヨあとはよろしくね」

「わかりました」


 そういうと、長老は出て行った。

 残された俺たちは直ぐにやることもないので、休憩をとる。

 俺がベッドに腰かけていると、アルがやってきた。


「どうした、餌の時間か?」

「違うモビ。アルトはどっち狙いモビ?」


 助平そうな目で双子を見るアル。アルミラージってそんな厭らしい目つきが出来るんだな。駆除した方がいいと思う。

 それにしても、なんて下世話な話をしてくるんだ。

 俺はそんな気持ちは無いと否定する。


「そんな気持ちはこれっぽっちもない」

「まだサニーの事が忘れられないモビ?」

「心の傷を抉るな」


 俺はアルに怒った。しかし、アルはどこ吹く風である。


「こちらの言葉にもあるモビ。『愛を求めてくじけた時は新しいステップワゴンでサヤマに行けばいい』ってモビ」

「いや、だから心の傷を抉るな」


 新しいステップワゴン、狭山、着荷検査。うっ、頭が痛い。


「しばらく黙っていてくれるかな?」

「じゃあヒミコならいいモビ?」

「そうじゃねえ!」


 そんな俺たちの会話をきいて、双子はぽかんとしているのだった。

 これはなんとかしなければ。


「すまないな。余所者の世話をするってのでも大変なのに、こんな変な会話をする兎までいて」

「いえ、私たちも余所者ですから」

「本当に?」


 雰囲気を変えようとしたら、さらに悪化した。それにしても、余所者とはどういうことだろうか?


「私たちはハーフエルフなんです。父が人間で、母がエルフでした。でも、二人が病に倒れて。父は先に死んでしまい、母が故郷に帰りたいというのでここに来ました。でも、その母もなくなってしまい。この里は排他的ですから、ハーフエルフの私たちも居心地が悪いんです」

「なら、どうして先頭で戦っていたんだ?余所者扱いされているなら、命をかけることもないだろう」

「余所者だからこそ、他の人よりも奮闘しなければならないんです」

「ハーフエルフは冒険者になることが多いってきくわ。人とエルフのどちらにも馴染めなくて、実力主義の冒険者に憧れるそうよ」


 とサクラが教えてくれる。

 なるほど。半分は人間の血が流れているため、普通に戦っていても人間に贔屓していると思われる。だから、敢えて危険な場所で戦っていたわけか。

 そんな身の上話を聞いてしまうと、アスカたちにぐっと来てしまう。

 すると、アルがまた下卑た笑みで話しかけてくる。


「絶対運命モビ。お似合いモビ。言いたいのに言えないとチャンスを逃すモビ」

「バイスクランプで、その口を押えていいですか?」

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